部屋を出て、そっと静かにドアを閉める。
慌てていたことがばれないように、静かに。
 
そのまま、廊下を歩く。
書斎は、寝室から少し離れたところにある。

あの部屋はあまり好きじゃない。
静かだから。

だから、いつもはあんが寝た頃に備え付けのデスクで仕事は済ませていた。

どうせ、大した仕事はない。
それで十分だった。

怜一郎

…ばかは、おまえだよ

仕事は、確かにある。
でも、急ぐほどのことでもない。

それでも、あんのもとを離れたのは、あれ以上自分を抑えられる自信がなかったからだ。


最初、俺は本気だった。
本気で、あんを欲しいと思ってしまった。


それもきっと、今日一日が大変だったからだ。
1ヶ月近く我慢し続けてきたのに、今更こんな。

…結婚式という非現実的な一日に、俺も酔ってしまったのかもしれない。


書斎のドアを開け、大きな音を立てて閉めた。
椅子を引いて、腰かける。

パソコンを立ち上げると、佐倉(さくら)からのメールが届いていた。

あの時、名を呼ばれなければ、熱に浮かされるままあんを自分のものにしてしまっていたかもしれない。


そんなのだめだ。
それは、まだ早すぎる。
俺の計画が丸つぶれだ。
そんなの、絶対に許されない。


俺は、寒さを感じてそっと腕をさすった。

怜一郎

…眠い

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