その後。
緊張はしたけど、なんとか式を無事にすますことができた。


長いドレスを踏まないか不安だったりもしたけれど、そんな失敗はせずにすんだ。


…まあ、お母さんたちに怜一郎さんとのキスを見られるのは顔から火が出るくらい恥ずかしかったのだけれど。
 

大変だったのは披露宴だ。
とにかくお色直しの回数がありえなかった。
確か…7回はしたかな。

そのたびにメイクも髪形も変えなくちゃいけないから大変だった。
後半記憶ないしなー。
 

それに、そこで改めて九条家の方々の紹介をされたのだけど、…多すぎて覚えることができなかった。


怜一郎さんのお祖父さまである誠太郎(せいたろう)さまに、九条家とは血縁関係もあり九条グループの傘下にある3つの会社の社長の顔はとりあえず覚えた。


それから、結人(ゆいと)さんも来ていた。


それにあたしがこれから通う清黎学園の生徒でもあるからという理由で覚えた顔もある。Jewellery Kokonoe の社長令息、九重新多(ここのえあらた)とHtel Ninomiya の社長令息、二宮雅也(にのみやまさや)だ。


それ以外の顔は、許容オーバーだった。

あん

ふぅ~、つかれたぁ~

披露宴も終わり、その帰り道、いつもの車の中。


二次会は行きたくないと怜一郎さんが主張したため、あたし達は早めに退出させてもらった。


主役が抜け出していいのだろうかとも思ったが、ひとりであそこに残る気にはなれなかった。


居心地が悪かったのか伯父さんたちも一足先に用意されたホテルに帰っていたし、お母さんも病院に戻り、誠太郎お祖父さまも早いうちに帰宅済みだった。


…あの金持ち集団に囲まれて、まともな会話ができるとは思えなかった。
 

とはいえ、もう夜もだいぶ更けていた。
今日は本当に疲れた。

怜一郎

…確かに疲れたな

隣に座る怜一郎さんも小さく呟く。

怜一郎

まあ、ひとまず山場は越えたな

あん

そうねー

大きく背伸びをしながら答えた。


これで怜一郎さんとの結婚はみんなに印象付けられたし、怜一郎さんに九条グループ会長の座が明け渡されるのも確実になったというものだ。
 

そして、もしそうなった暁には――
 

頃合いを見て、あたし達は離婚する。

あん

………

それを寂しいと思ってしまうのは、なぜなのだろう?

怜一郎

…どうした?

急に押し黙ったあたしを不審に思ったのか、怜一郎さんが優しく声を掛けてきた。


あたしは怜一郎さんを安心させるように、そして小さな寂しさを振り払うように、大きく頭を振った。

あん

…なんでもないの

そうこうしているうちに車は邸へとたどり着いていた。

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