ふたりの寝室に戻ると、怜一郎さんはドアの鍵を閉めた。
そのまま、あたしの体を壁に押し付けると、強引に唇を奪った。

これはやばい。非常にやばい。
今までなにもなかったから安心していたけど、さすがにこれはやばいんじゃないだろうか。


くちづけがあまりにも長くて、深いものだったから、慣れないあたしはすぐに息ができなくなってしまった。
 

そんなあたしに気づいたのか、怜一郎さんは唇を離した。

怜一郎

…おまえは、誰のもんだ?

あん

誰のものだなんて、そんな言い方…

怜一郎

おまえは俺のなんだ?

至近距離でそう問われ、あたしは恥ずかしさに真っ赤になりながらも答えた。

あん

…怜一郎さんの、妻です

怜一郎

だよな。じゃあ、俺のもんだろ?

あん

………はい

屈辱だ。また、振り回されてる。
 

あたしが屈辱に涙を浮かべそうになっていた時のことだった。

怜一郎

なら、俺以外の男に気安く触らせんなよな…!

あん

あたしは思わず顔を上げ、まじまじと彼を見つめた。


余裕のない声、真っ赤に染まる頬。
それから、あの言葉。
 

これってもしかして。

あん

…やきもち…?

あたしは信じられない、と思いながらも尋ねる。


すると彼の頬は、さらに真っ赤になった。

怜一郎

うるせぇ

あ、もしかしてこういうこと。
やっと結人さんのしたことの意味がわかった。

あん

大丈夫よ、結人さんとはなにもないから

怜一郎

なんでおまえがあいつのこと名前で呼んでんだよ

ためしに挑発してみると、あっさり引っかかってくれた。

あん

なんで怒ってんの?

怜一郎

怒ってねぇよ、バカ

あん

怒ってるじゃない

怜一郎

怒ってねぇ

…やばい。これはおもしろい。
はまっちゃうかもしれない。

あん

怜一郎さんにもかわいいとこあるのね

怜一郎さんの腕から抜け出して、あたしはにっこりと笑いかけた。

楽しすぎて、くるりと一回転までしてしまう。

怜一郎

…か、かわ…っ?

あん

うん、とってもかーわい♪

あたしはスキップまでしていた。

怜一郎

…おまえは、全然かわいくねぇ

その言い方にむっと来て、言い返そうと振り返る。


でもそれはうまくいかず、気がつくとベッドに倒れこんでいた。

あん

きゃ

あたしの体をまたぐように、怜一郎さんもベッドの上に乗ってくる。

あたしは慌てた。
…やばい、調子乗りすぎたかも。

怜一郎

おまえ、もう寝ろ

でも予想とは違い、彼の体はすぐに離れた。
一言だけ放って、さっさと部屋を出ていく。


あたしは安心しながらも、拍子抜けして、なんだか自分でもわからない気持ちを持てあぞぶばかりだった。

わざと大きな音を立てて、ドアを閉める。
そのまま壁に背をつき、溜息をついた。


いらだちに髪をかきあげる。

怜一郎

…マジなんなんだよ、あいつ…ッ

こんなに心乱されるのは、何故なのだろう。
出会った日から、俺は彼女に振り回されてばかりだ。
 

――あぁ、くそ。
なんでこんなに苦しいんだ…

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