あん

あたし、毎日ここに来てもいい?

軽い挨拶をすませ、あたしと九条さんは邸を出て車に乗り込んでいた。
 

あたしがそう訊くと、九条さんは一瞬考えるそぶりを見せてから、

怜一郎

そうだな…

と呟いた。

怜一郎

まぁ、いいんじゃないか。…どうせ、おまえはここから出られない

許しが出てよかった。


いくら使用人がいるとはいえ、あんなところに話す相手もいないまま過ごすのはつまらないだろう。


しかも、目が見えないともなれば、できることも限られてくる。

あん

あたしだって、話し相手ぐらいにはなれるし。…――て、あれ?

そこで、あたしははたと気づいて怜一郎さんを見た。

あん

…学校は?

怜一郎

ん?

よくよく考えれば、昨日も、今日も学校に行っていない。

しかも無断欠席だ。
このままだと奨学金が危ない。
 

そう思って訊いたのに、九条さんはわけがわからないという顔をしていた。

あん

知っていると思うけど、あたし、高校生なの

怜一郎

ああ、…知ってる

あん

さすがに休み続けるわけには…

それとも、もしかしてあれかな?
結婚の準備にしばらく学校休めとか…。


どうせ九条さんはお金持ちなんだし、奨学金がなくなってもその分ぐらい払ってくれるのかも。
 

そんなことを考えていたあたしは、その時はまだまだあまかったんだと思う。
 

あたしの方を見て、九条さんはこう言った。

怜一郎

おまえには転校してもらう

あん

…テンコウ?
テンコウって言った、今?
 

天候、天工、いや、転向、…転校!?

怜一郎

清黎学園、じじぃが長年資金援助してる学園だ。俺の姉さんたちも通っていた、信頼できる学園だ

あん

ちょっと待って、…本気なの?

常識離れしているとは思っていたが、なんて人だ。
 

こんなふざけたことを言っているくせに、悪びれる様子がない。


…重症だ。

怜一郎

大丈夫だ、心配するな。おまえなら転入試験ぐらいパスできる。学費だって、俺が持つ

あん

あたしにだって、人間関係とか…、いろいろその、あるんだけど

怜一郎

そうだな。…1ヶ月猶予はある。その間になんとかしておけ

だめだ。この人にはなにを言っても通じないに違いない。

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