あたしがピアスホールを開けられない理由。
それは、あたしが奨学金をもらって学校に通う高校2年生だからだ。
奨学生には、成績低下はおろか、生活習慣や生活態度の乱れも許されない。
あたしは今、これまでに経験したこともないほどハードなスケジュールをこなしている。
まずは、朝5時に起きて宿題をする。
7時過ぎには家を出て、40分近くかけて登校。
そこから予習をして、8時半から学校がスタート。
4時半に学校が終わってから、1時間添削を受けた後、6時から8時半までスーパーでパート。
それから売れ残り品をもらって軽い食事を取った後は、私服に着替えて9時から12時まで清掃の仕事だ。
18歳未満の深夜労働は禁止されている。清掃会社の社長は見て見ぬふりをしてくれているが、一応制服ではいけないから、私服に着替えているのだ。
それから帰る頃には1時を過ぎているのが通常。
毎日4時間睡眠はさすがにつらい。
…だが、あたしにはお金も、成績の維持も必要なのだ。
それに、苦労しているのはあたしだけではない。
お母さんも同じだ。
3時に起きてから近所のパン屋で8時まで働き、9時から4時まで食品工場でパート。
それから5時から10時まで近所のスーパーでパート。
それから家に帰って、洗濯とか家のことを一通り済ませた後、床に就く。
それでもいつも、軽い夜食が欠かされることはなかった。
冷たいご飯は少し寂しいけれど、それでも嬉しかった。
最近は、話すことも難しくなっていたせいかも知れない。
――あたしたちふたりが、どうしてここまでして働くのか。
それは、3週間ほど前のあの日に遡る。
あの日の4日前、あたしとお母さんは箱根の温泉旅行に行っていた。
その日はちょうど冬休み中で、都合が良かったし、お父さんがどうしてもと勧めたからだ。
まだ早いけど、結婚記念日の祝いに家族旅行をしたかったと言っていた。