酒場の中は目つきの鋭い人たちが
たくさん集まっていた。
僕たちは場違いな感じで、すごく居心地が悪い。

でもセーラさんは臆することなく入っていき、
カウンターにいるマスターへ声をかける。
 
 

セーラ

あのあのぉ、こんにちはぁ!

酒場のマスター

あん? なんだアンタは?

セーラ

ギルドへ用があって
来たんですけどぉ。

 
セーラさんはポケットの中から木札を出し、
それをマスターへ見せた。
両面に何かの文字や模様が刻まれている。

どうやらそれが商人ギルドの組合員証らしい。


マスターは木札を手に取り、
訝しげな顔をしてジッと眺めた。
 
 

酒場のマスター

王都の組合員か。
名前はセーラ・コルネ……。

酒場のマスター

ふぁっ? アンタっ、
あの有名な名工セーラさんかいっ!?

セーラ

えへへ、そうですぅ。

 
 
 

 
 
 
目を白黒させているマスター。
周りにいた人たちも
マスターの言葉を聞いてどよめいている。


セーラさんって商人さんたちの間では、
やっぱり有名人なんだ。
お爺さんも本人も名工なんだもんね。
 
 

酒場のマスター

イメージとは全く違うなぁ。
名工セーラさんが、
まさかこんなお嬢さんだとは……。

セーラ

よく言われますぅ。

酒場のマスター

で、そっちの2人は
お連れさんかい?

セーラ

はい、そうですぅ。

酒場のマスター

そうかい。んじゃまぁ、
奥へ入ってくれや。

 
こうして僕たちは酒場の奥へ通された。

入ってすぐの部屋には
地下へと続く階段だけがあり、
僕たちはそこを降りていく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
階段の先には
お城のホールくらいに広い空間があり、
たくさんの人が活発に取引をおこなっていた。


武器や防具、動物、果物、魔法道具――
パッと見ただけでも
取り扱われている商品は多種多様だ。
 
 

トーヤ

ここが商人ギルドかぁ。

セーラ

表向きにはできない取引なんかも
よくやっているのを見ますねぇ。

カレン

い、いいんですか、それ……?

セーラ

良くないから隠れて
こっそりやるんじゃないですかぁ。
そんなの当たり前ですよぉ!

トーヤ

いやいや、ダメですって……。

 
そのあと、僕たちは入口の横にある
事務所の受付へ行き、
特殊道具を取り扱っている人について訊ねた。
そして店を出している場所を教えてもらう。

担当している人の名前は
シャルムさんというらしい。



教えられた場所へ行くと、
そこではお兄さんが眠たそうな顔で座っていた。

――良かった、どうやら今は暇のようだ。
 
 

セーラ

こんにちはぁ。

シャルム

どもっ! 俺に何か用かい?

セーラ

あなたがシャルムさんですかぁ?

シャルム

そうだけど、アンタは?

セーラ

セーラですぅ。こちらの2人は
トーヤくんとカレンちゃんですぅ。

カレン

私たちの持っているアイテムの
価値についてお聞きしたいんです。

シャルム

あぁ、いいよ。
鑑定料は100ルバーだ。

トーヤ

おカネを取るんですかっ?

シャルム

当然だろ? サービスを提供する以上、
対価が必要なのは当然さ。
それが商売ってもんだ。
俺だって暇じゃないんだ。

トーヤ

暇じゃないって、
眠たそうにしてたような気が……。

シャルム

その代わり、きっちりと
仕事はさせてもらうぜ!

セーラ

では、お願いしますぅ。
トーヤくん、100ルバーを
シャルムさんへ渡してくださいぃ。

トーヤ

は、はい。

セーラ

カレンちゃんはあの道具を
出してくださいぃ。

カレン

分かりました。

 
僕は財布を取り出し、
100ルバーをシャルムさんに手渡した。
 
 

シャルム

毎度ありィ!

カレン

見てもらいたいのは、これです。

 
 
 

 
 
 
カレンはポケットから取り出した滴りの石を
シャルムさんに見せた。

するとシャルムさんはそれを見るなり、
目を丸くしながら
驚愕したような声を上げる。
 
 

シャルム

こっ、これは滴りの石じゃないか!

セーラ

はい、その通りですぅ。
それの相場が知りたいのですぅ。

シャルム

う、うーむ……。

セーラ

どうしたんですぅ?

シャルム

こりゃ、評価が難しいなぁ。

カレン

どう難しいんです?

シャルム

単純な売買金額は
50万ルバーなんだけどな……。

トーヤ

ごっ、50万ルバーっ!?

 
金額に驚いて、思わず声が裏返ってしまった。


そんなに高く売れる物だったんだ……。


アポロが僕たちに対して
どれだけ強い感謝の気持ちを持っていたのか、
あらためて分かったような気がする。
 
 

シャルム

ギルドにセリの受付がある。
そこでセリにかけりゃ、
それの数倍になる可能性があるぜ。

トーヤ

50万ルバーのさらに数倍っ!?

カレン

あの商人に売らなくて
良かったわね……。
セーラさんが止めてくれなかったら
大損するところだったわ。

シャルム

あんたら、それを売るのかっ!?

トーヤ

どうしようか
考えているところです。

シャルム

この土地で水は
黄金にも等しい価値がある。
そしてその石は魔法力さえあれば
水を際限なく呼び出せる。

シャルム

つまりそれを使って商売をすれば
大金持ちになれるんだ。
それを売ろうっていうのか?

トーヤ

乗船券を買うのに
お金がいるので……。

シャルム

旅をしているのなら、
手放すのは考え直した方がいい。
それがあるだけで、
水の心配をしなくて済むんだぞ?

セーラ

…………。

カレン

それはそうなんですけど……。

 
――僕たちだって水の大切さは分かってる。


それに砂漠で水の心配をしなくて済む
というのは何物にも代え難い。
だって命に直結することだもん。

でもこれを売らないと
乗船券を買うことができないのも事実。



しばらくここに滞在して水を売って、
お金を稼ぐ方がいいのかなぁ……?
 
 

セーラ

あのあのぉ、
確かセリってどんなものでも
取引できるんでしたよねぇ?

シャルム

ん? まぁな。
買い手が付くかは別問題だが。
それと出品には手数料がかかる。

セーラ

なるほど、なるほどぉ。
トーヤくん、カレンちゃん。
滴りの石を売らずに船に乗れる
いい考えがあるですぅ。

トーヤ

えぇっ!?

カレン

本当ですかっ?

セーラ

任せてほしいのですぅ!

 
セーラさんは自信満々の顔で言い切った。


滴りの石を売らずに船に乗れるって
どうするつもりなんだろう?

セーラさんが持っている武器を売って
おカネを作ろうとしているのかなぁ?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第38幕 砂漠の町の商人ギルド

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