酒場の中は目つきの鋭い人たちが
たくさん集まっていた。
僕たちは場違いな感じで、すごく居心地が悪い。
でもセーラさんは臆することなく入っていき、
カウンターにいるマスターへ声をかける。
酒場の中は目つきの鋭い人たちが
たくさん集まっていた。
僕たちは場違いな感じで、すごく居心地が悪い。
でもセーラさんは臆することなく入っていき、
カウンターにいるマスターへ声をかける。
あのあのぉ、こんにちはぁ!
あん? なんだアンタは?
ギルドへ用があって
来たんですけどぉ。
セーラさんはポケットの中から木札を出し、
それをマスターへ見せた。
両面に何かの文字や模様が刻まれている。
どうやらそれが商人ギルドの組合員証らしい。
マスターは木札を手に取り、
訝しげな顔をしてジッと眺めた。
王都の組合員か。
名前はセーラ・コルネ……。
ふぁっ? アンタっ、
あの有名な名工セーラさんかいっ!?
えへへ、そうですぅ。
目を白黒させているマスター。
周りにいた人たちも
マスターの言葉を聞いてどよめいている。
セーラさんって商人さんたちの間では、
やっぱり有名人なんだ。
お爺さんも本人も名工なんだもんね。
イメージとは全く違うなぁ。
名工セーラさんが、
まさかこんなお嬢さんだとは……。
よく言われますぅ。
で、そっちの2人は
お連れさんかい?
はい、そうですぅ。
そうかい。んじゃまぁ、
奥へ入ってくれや。
こうして僕たちは酒場の奥へ通された。
入ってすぐの部屋には
地下へと続く階段だけがあり、
僕たちはそこを降りていく。
階段の先には
お城のホールくらいに広い空間があり、
たくさんの人が活発に取引をおこなっていた。
武器や防具、動物、果物、魔法道具――
パッと見ただけでも
取り扱われている商品は多種多様だ。
ここが商人ギルドかぁ。
表向きにはできない取引なんかも
よくやっているのを見ますねぇ。
い、いいんですか、それ……?
良くないから隠れて
こっそりやるんじゃないですかぁ。
そんなの当たり前ですよぉ!
いやいや、ダメですって……。
そのあと、僕たちは入口の横にある
事務所の受付へ行き、
特殊道具を取り扱っている人について訊ねた。
そして店を出している場所を教えてもらう。
担当している人の名前は
シャルムさんというらしい。
教えられた場所へ行くと、
そこではお兄さんが眠たそうな顔で座っていた。
――良かった、どうやら今は暇のようだ。
こんにちはぁ。
どもっ! 俺に何か用かい?
あなたがシャルムさんですかぁ?
そうだけど、アンタは?
セーラですぅ。こちらの2人は
トーヤくんとカレンちゃんですぅ。
私たちの持っているアイテムの
価値についてお聞きしたいんです。
あぁ、いいよ。
鑑定料は100ルバーだ。
おカネを取るんですかっ?
当然だろ? サービスを提供する以上、
対価が必要なのは当然さ。
それが商売ってもんだ。
俺だって暇じゃないんだ。
暇じゃないって、
眠たそうにしてたような気が……。
その代わり、きっちりと
仕事はさせてもらうぜ!
では、お願いしますぅ。
トーヤくん、100ルバーを
シャルムさんへ渡してくださいぃ。
は、はい。
カレンちゃんはあの道具を
出してくださいぃ。
分かりました。
僕は財布を取り出し、
100ルバーをシャルムさんに手渡した。
毎度ありィ!
見てもらいたいのは、これです。
カレンはポケットから取り出した滴りの石を
シャルムさんに見せた。
するとシャルムさんはそれを見るなり、
目を丸くしながら
驚愕したような声を上げる。
こっ、これは滴りの石じゃないか!
はい、その通りですぅ。
それの相場が知りたいのですぅ。
う、うーむ……。
どうしたんですぅ?
こりゃ、評価が難しいなぁ。
どう難しいんです?
単純な売買金額は
50万ルバーなんだけどな……。
ごっ、50万ルバーっ!?
金額に驚いて、思わず声が裏返ってしまった。
そんなに高く売れる物だったんだ……。
アポロが僕たちに対して
どれだけ強い感謝の気持ちを持っていたのか、
あらためて分かったような気がする。
ギルドにセリの受付がある。
そこでセリにかけりゃ、
それの数倍になる可能性があるぜ。
50万ルバーのさらに数倍っ!?
あの商人に売らなくて
良かったわね……。
セーラさんが止めてくれなかったら
大損するところだったわ。
あんたら、それを売るのかっ!?
どうしようか
考えているところです。
この土地で水は
黄金にも等しい価値がある。
そしてその石は魔法力さえあれば
水を際限なく呼び出せる。
つまりそれを使って商売をすれば
大金持ちになれるんだ。
それを売ろうっていうのか?
乗船券を買うのに
お金がいるので……。
旅をしているのなら、
手放すのは考え直した方がいい。
それがあるだけで、
水の心配をしなくて済むんだぞ?
…………。
それはそうなんですけど……。
――僕たちだって水の大切さは分かってる。
それに砂漠で水の心配をしなくて済む
というのは何物にも代え難い。
だって命に直結することだもん。
でもこれを売らないと
乗船券を買うことができないのも事実。
しばらくここに滞在して水を売って、
お金を稼ぐ方がいいのかなぁ……?
あのあのぉ、
確かセリってどんなものでも
取引できるんでしたよねぇ?
ん? まぁな。
買い手が付くかは別問題だが。
それと出品には手数料がかかる。
なるほど、なるほどぉ。
トーヤくん、カレンちゃん。
滴りの石を売らずに船に乗れる
いい考えがあるですぅ。
えぇっ!?
本当ですかっ?
任せてほしいのですぅ!
セーラさんは自信満々の顔で言い切った。
滴りの石を売らずに船に乗れるって
どうするつもりなんだろう?
セーラさんが持っている武器を売って
おカネを作ろうとしているのかなぁ?
次回へ続く!