カレンは僕から滴りの石を受け取ると、
それに向かって魔法力を送り始めた。

すると石はほんのりと輝き、水が湧きだす。
 
 

 
 

トーヤ

やったぁ! 水が出たよっ!

カレン

良かった!
これで水の心配を
しなくて済むわねっ♪

セーラ

はわわっ!
もったいないですぅ!

 
セーラさんは慌てて水袋の口を開け、
水を汲み始めた。

僕もコップを取り出して、零れる水を飲む。
 
 

トーヤ

うわぁっ、冷たくておいしいっ!

 
喉が渇いていたということもあってか、
水がすごくおいしく感じられた。

ついついがぶ飲みして、
お腹がタプンタプンになっちゃった……。



その後、水袋に水を汲んだセーラさんは
コップで水を飲み始めた。

喉が潤った僕は、
魔法力を送り込んでいて手の使えないカレンに
水を飲ませてあげる。
 
 

セーラ

おいしいですねぇ!

トーヤ

カレン、どう? おいしい?

カレン

あぁ、最高!

トーヤ

もっと飲む?

カレン

うん、もっと……。

 
僕はまたコップに水を汲み、
カレンに飲ませてあげた。



こうして喉が潤った僕たちは
床に座ってちょっとだけ息をつく。

するとそんな時、
商人風のおじさんが声をかけてくる。
 
 

商人のおじさん

キ、キミたちっ!

カレン

はい?

商人のおじさん

少し前、滴りの石を
売るというような声が
聞こえたんだが……。

トーヤ

えぇ、まぁ。
どうしようかなぁって考えてます。

商人のおじさん

キミたちが持っているのは、
本物の滴りの石のようだね。
使うところを見させてもらったよ。

商人のおじさん

もし売るなら、
私に売ってもらえないだろうか?

トーヤ

えっ?

商人のおじさん

もちろん現金で渡そう。
買い取り価格も相談に乗るよ。
いくらくらいがいいかね?

 
いきなり値段の交渉をされても
困っちゃうなぁ……。


僕はカレンやセーラさんと顔を見合わせた。
でも2人も眉を曇らせている。
 
 

トーヤ

今すぐに乗れる船の運賃は
15万ルバーなんだよねぇ。

カレン

さすがにそれは高すぎるわよ。

セーラ

…………。

商人のおじさん

確かに15万ルバーは苦しいなぁ。
でも困っているなら、
なんとか出してあげてもいいよ。

カレン

ホントですかっ!?

商人のおじさん

あぁ、これも何かの縁だしね。
困った時はお互い様だ。
はっはっは!

 
おじさんは頭を指でかきつつ、微笑んでいる。


世の中にはいい人っているもんなんだなぁ。
まさか15万ルバーで買い取ってくれなんて。

これで今すぐにでもサンドパークへ
移動することかできる。

僕はカレンの手を握り、飛び跳ねながら喜んだ。
 
 

トーヤ

カレン、いい人に出会ったね!

カレン

これも神様のお導きかも!

商人のおじさん

では15万ルバーで
交渉成立ということで――

 
 
 
 
 

セーラ

待ってほしいのですぅ!

 
 
 
突然、セーラさんが僕たちの間に入って
会話を止めた。



――どうしたというのだろう?

眉を吊り上げて
恨めしそうに僕たちを見ている。
 
 

トーヤ

セーラさん?

セーラ

私、もう少し滴りの石を
観察したいのですぅ。
だから今すぐは
渡したくありません~。

商人のおじさん

――っ? それならこの話は
なかったことにさせてもらうが、
それでもいいかね?

 
おじさんはムッとしつつ、
やや語気を荒げてセーラさんに問いかけた。

いい雰囲気で交渉が決まりかけたのに、
そこへ水を差されたんだから
おじさんが怒るのも無理はない。


でもセーラさんはそんなおじさんの態度を見て
ニコッと微笑んだ。
 
 

セーラ

はい、このお話は
なかったことにしますぅ。
さようならぁ!

商人のおじさん

っ!?

セーラ

トーヤくん、カレンちゃん。
さっさと行きましょ~!

 
 
 

 
 

トーヤ

ちょっ、セーラさんっ!?

カレン

引っ張らないでくださいよ~!

 
僕とカレンはセーラさんに手を引っ張られ、
力で強引にその場から移動させられた。

想像以上にその力は大きくて、全く逆らえない。
これならバトルアックスを軽々と扱えるのも
納得できるけど……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そしてしばらくメインストリートを進み、
路地に入ったところで手を開放された。
 
 

カレン

どうしたんですか、急に!

セーラ

……あの人を
信用しちゃダメですぅ。
何かを隠している目でしたぁ。

トーヤ

えっ?

セーラ

私の推測ですけどぉ、
滴りの石は15万ルバー以上の
価値があるのではないかと
思いますぅ。

カレン

まさかっ、こんな石がっ!?

トーヤ

でも、水がすごく貴重な地域なら
あり得ない話じゃないかも。

セーラ

商人ギルドへ行ってみましょう。
王都の商人ギルドの組合証で
この町のギルドでも
取引や情報交換が出来ますのでぇ。
私は組合員なんですぅ。

カレン

そっか、王都では
商売をしていたんですもんね!

セーラ

ギルドならある程度、
信用のおける取引が
できるはすですぅ。

トーヤ

近くの商店でギルドの場所を
聞いてみましょう!

 
こうして商店を中心に聞き込みをした結果、
商人ギルドの場所が判明した。

そこは港の近くにある問屋街の一角。
薄汚れた建物の階段を下りていった先の
地下にあった。



情報によると表向きは酒場なんだけど、
実はその奥がギルドとなっているらしい。

中へ入ると、カウンターには
筋骨隆々の親父さんが立っている……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第37幕 水問題は解決だけど……

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