船に乗るためには大金が必要だと判明し、
僕たちは途方に暮れていた。

しかも安い船室に空きがあるのは10日後。
それまで待たなければならない。
 
 

トーヤ

どうしようか?

カレン

野宿して10日待つにしても
かかる経費はゼロじゃないわ。
困ったわね……。

セーラ

運賃に10日分の
滞在費を合計するとぉ、
最低でも2万ルバーは
必要ですよねぇ。

トーヤ

この暑さで野宿はキツイよ。
朝晩は冷えるし。
我慢できなくはないけど……。

カレン

3万ルバーくらいまでなら、
用意しようと思えば
なんとかなる金額ではあるのよ。

カレン

でもこの出費は痛いわね。
今後の旅に支障が出るわ。

 
確かにこんな大きな出費が必要になるなんて
考えてもいなかった。


事前に分かっていれば、
対策の立てようもあったんだけどなぁ。

今さら遅いけど……。
 
 

セーラ

そういえば、喉が渇きましたねぇ。
お水を飲ませてもらうですぅ。

トーヤ

僕も少し飲もうかな。

カレン

あ、私も。

 
やっぱり暑くて汗が出るから、
どうしても喉が渇いちゃう。

それにこまめに水分を採らないと
体に良くない影響があるからね。

脱水症状や熱中症、
血管が詰まって突然死に繋がることもある。
 
 

セーラ

――あれ?
水袋が空っぽですぅ。

 
セーラさんは水袋を逆さまにして振った。

でも水袋の口から数滴の水が垂れるだけ。
ここに着くまでに結構消費したから、
完全になくなってしまったみたいだ。

最後に補給したのは、
砂漠地帯に入る手前だったもんなぁ。
 
 

カレン

じゃ、魔法で水を出しますね。
ここでは買うと高いですから。

カレン

…………。

 
 
 

 
 
カレンは魔法力で魔方陣を描き、
スペルを唱えた。


いつもならその直後に魔方陣から
水が噴き出すはず――。

でも今回はいつまで経っても
何も起きなかった。
 
 

トーヤ

カレン、どうしたの?

カレン

魔法がうまくいかないの……。

トーヤ

えぇっ!?

船員

あっはっは! そりゃそうさ!
ここは特殊な土地だからな。

 
その時、通りがかった船員さんが
僕たちに声をかけてきた。


特殊な土地ってどういうことなんだろう?

砂漠でも水の魔法は使えるはずだし、
魔法を封じられた様子だって
ないんだけどなぁ……。
 
 

カレン

どういうことなんですか?

船員

ここは炎の精霊イフリートが
守護している土地だからな。
水や氷の魔法は無力化される。

船員

この地域が砂漠化しているのも
そのせいだ。
イフリートの力によって一年中、
高温になるからな。

トーヤ

ここに住んでいる人たちは
どうやって水を得ているんですか?

船員

オアシスの水のように、
魔法に由来しない水を
使っている。

船員

あとはほかの地域から
運んできた水とかだな。
いずれにしてもここでは
水の魔法は使えない。

 
そう言うと、
船員さんは港の方へ行ってしまった。


――踏んだり蹴ったりだ。

船の運賃が高い上に、
水の魔法が使えないなんて。


つまりこの町に滞在するには
僕たち3人が10日過ごすだけの水まで
買わないといけない。

しかも単価が信じられないくらいに高い。
小さなコップ一杯で100ルバーもする。

あんなんじゃ、
例え飲んだとしてもすぐに喉が渇いちゃうよ。
 
 

カレン

仕方ないわね。
高いけど水を買いましょう。
このままでは命に関わるわ。

トーヤ

仕方ないね……。
じゃ、財布を出すよ。

 
 
 

 
 
僕は財布を取り出そうと、懐を探った。
その際に手は小さく硬い感触を捉える。


なんだろう、手に当たったのは?


少し考えてから、
それはアポロからもらった
滴りの石だと気がついた。


――次の瞬間、僕はハッとする。
 
 

トーヤ

ねぇ、アポロからもらった
『滴りの石』は使えないかな?
あれって魔法力と引き替えに
水が出るんだよね?

カレン

でも水の魔法は使えないのよ?

トーヤ

これは魔法力そのものを
消費しているだけであって、
水の魔法を使うわけじゃないよ。

トーヤ

それにアポロはこれをこの町で
売ろうとしていたんだよね?
つまりこの地域でも
有効ってことなんじゃないの?

カレン

あっ!

カレン

そうね、やってみましょう!

 
 
 


  
僕は取り出した滴りの石をカレンに手渡した。


果たしてうまくいくかな?
うまくいってくれると良いな……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第36幕 悪いことは重なるもので……

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