知らないのは
私だけ……?

ママ

もうすぐ経次郎くんが
義息子になるのね~♡

何の話をしているわけ?

経次郎

はい。
お義母さん

何、言っちゃってるわけ?!

静香

まだ名字も教えて
もらってないのに!

聡士が「経次郎」って言っただけなんだからね。
もしかしたら、「経次郎」はあだ名かもしれないじゃない。

静香

でも、ママも呼んでるし
それが本名だよね……。

っていうか、

静香

将来、自分の名前が何になるのかもわかってないってことなんだからね。

それに、まだ結婚しないかもしれないし。
ってか、そんな話、早すぎるにも程があるでしょ?

静香

コイツに会ったの一週間前で、付き合うことになったのは今日なんだから。

あれ?
やけにスピーディ?

静香

いいけどね。
元々妻なんだし。

ママ

きゃ~、
なんか新鮮~w

喜ばないでよ……。

経次郎

お義母さん。

静香

お前も乗るな!

ママ

経次郎くんのお誕生日は6月6日だから、もうすぐ18になるね。
そしたら籍入れてね。

なんで誕生日まで知ってるの?
しかも何気にオーメンだし……。

ってか、籍ってなによ!

ママ

うちは一人娘だから、経次郎くん、
婿養子でいいね。

じゃあ、名字変わらなくていいんだ……。

静香

って、展開早すぎでしょ!

出会って2ヶ月で学生結婚?

静香

イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ

ナイ、絶対にそれはナイ。

ママ

そしたら慶子ちゃんも一緒に来てね。
経次郎くんが義息子だから、慶子ちゃんも義娘になるんだよねw

静香

え?

静香

なんで?

ママ

慶子ちゃんは経次郎くんの妹だよ?
知ってるんじゃないの?

静香

知らない。
同じクラスでしょ?

え? 双子?

ママ

経次郎くんが6月6日に生まれて、
慶子ちゃんは3月31日に生まれたんだって。

経次郎

父も母も同じ兄妹だよ。

はい?!

母が食事の用意のために席を立った隙に、小声で話しかける。

静香

何なの?
それ、初耳なんだけど……。

経次郎

父さん、海尊でさ、怪しい術、
使ったみたいなんだよね

常陸坊海尊……。

静香

あの天狗まがいの怪しいヤツか!

弁慶と並ぶ義経郎党のひとりだ。

義経が亡くなった衣川の戦いでは難を逃れ、その後400年、伝説を語って回ったという逸話がある。

静香

また面倒くさいのが……。

海尊なら、室町時代に義経を英雄に仕立て上げることができたかもしれないけど……。

経次郎

気が付いたら、経次郎だった……。

経次郎

いろいろな儀式をすっとばして転生してる気がする……。

静香

何それ?

経次郎

衣川で死んだ後、「さあ、これから参りましょう」みたいなことを言われてる途中で、引っ張られたような?

静香

え?

まさかと思うけど、死後の世界の話?

経次郎

ってか、「(現世に)行ってきま~す」みたいな感じで、霊界の人たちを振り切って来たみたいな記憶がある。

静香

はい?

経次郎

だからさ、怖いんだよね。
次、経次郎が死んだら、義経の分も業(カルマ)の解消とか言って、地獄めぐりさせられたりするんじゃないかな? って。

経次郎

ボクの記憶が比較的残っているのは、地獄できちんとお務めを果たしていないのかもしれない。

何を言ってるの?

静香

「お務め」って、地獄を刑務所みたいに言うんじゃないわよ。

経次郎

だから、クリスチャンになろうかと、けっこうマジで思ってるんだ。

経次郎

ただ、キリスト教には、輪廻転生の考え方はないらしい。

静香

それ、何か困るわけ?

そんなのどっちだっていいでしょ?

経次郎

生まれ変わってまたキミに会うことができなくなるじゃないか。

静香

ちょ……!
何バカなこと言ってるのよ!

そういうのって、宗教、関係あるのか?

静香

てかアンタ、また死のうとしてるわけ?

経次郎

死んだらどこに連れて行かれるかわからないから、死にたくないって言ったんだよ。

経次郎

絶対、何がなんでも、ちょっとやそっとのことじゃ死ぬつもりないから。

静香

そういうつもりならいいわよ。

経次郎

経次郎は一切悪事は働いていなかったけど、義経は違うからね。

静香

そんなに怖いのか?

地獄に堕ちるのが……。

経次郎

十戒を聞いて、「ヤベ義経ほとんどやってる」って思ったし。

静香

十戒って……。
それ、キリスト教でしょ?

経次郎

宗教なんて、どれも似たりよったりだろ?

それじゃあ、改宗しても意味がないんじゃ……。

経次郎

「清く正しく美しく。どんなことがあっても死なないぞ~」をモットーに生きているんだ。

静香

そうしてくれると嬉しいけど……。

経次郎

一日一善。

静香

それでいいのか?
なんか、胡散臭い偽善団体みたいに思えるのはどうしてだろう……。

経次郎

だから、経次郎は、『悪』とみなされることは、絶対にやらないって思っているんだよ。

静香

ストーカーはいいの?

経次郎

好きな女の子を黙ってじっと見守っていただけだよ。

静香

それって犯罪なのよ。

経次郎

静香は嫌だった?
ボクがキミを隠れて見てたこと。

静香

嫌っていうか……。
えっと、その……。

それ以前の問題じゃない……?

静香

黙って見てないで、ちゃんと声をかけてほしかったかな?

経次郎

声はかけてたよ。
気付いてもらえなかったけど。

そうだった……。

静香

もうちょっとわかりやすく……。

いまさらそんなことを言ってもな……。

静香

……。

もしも、時間を戻せるなら、小学生だった私に教えたい……。

静香

あ……。

ママ

はいはーい♡

台所にいた母のスリッパの足音。

パパ

ただいま。

父が帰ってきたようだ。

ママ

パパ、お帰りなさ~い♡

玄関で父を迎える母の声が聞こえてきた。

経次郎

お父さん?

静香

うん。
帰ってきたみたい。

ぼそぼそと父と母が話している声が聞こえてきた。
そして、少しの時間の後、

パパ

いらっしゃいませ!

静香

怖いし。
パパの顔、いつも以上に怖いし……。

父がが現れた。

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