スマフォに写真を表示し、猫神に渡す。
猫神は興味津々にそれを覗き込んだ。
どうよこいつ?
スマフォに写真を表示し、猫神に渡す。
猫神は興味津々にそれを覗き込んだ。
わぁ……凛々しい黒猫にゃあ……神城君の飼ってる猫にゃあ?
僕の飼猫だね。一歳の雄の雑種で名前は『黒い獣』、愛称は『くろけも』だ。並の人間よりはよっぽど優秀だよ
な、名前のセンスがないですにゃあ……
黒い獣って……確かに黒い獣だけど……
あまりに凛々しい顔に見とれているのか、沈黙する猫神。
猫界では相当な美猫とは本人の談である。勿論僕に猫の美的感覚が理解できるわけがないが、猫神ならばそういうのを判断する才能を持っていてもおかしくない。
で、どうさ?
どうさって……何が……
いや、年齢もちょうどいいし、友達がいない猫神の友達にぴったりかなあと思ってさ
くろけもの気持ちを考慮していないが、彼は僕に忠実だし、心が広いから可哀想な猫神を見ればきっと納得してくれるだろう。今度金賞の缶詰買ってやろう。
……
本気なのか冗談なのか嫌がらせなのか……判断に迷いますにゃあ……
そんな顔したってお婿さんにはあげないよ?
本人の気持ちは考慮してあげたいけど、猫神とうちのくろけもじゃあ器量も違うし能力も違うし、家柄も全然見合ってないしね。
!?
大丈夫、焦らなくても猫神にもいつか相応の運命の猫が現れるさ
そそそ、そんな事、考えてないです!
心外そうににゃあにゃあ抗議してくる猫神。せっかくこっちは丁寧にお断りしているっていうのに。
ツンデレか。これ以上に属性を積み重ねるのか。
お前がそういう風に属性積み重ねると、これから新しく会った人が属性被った場合に猫神のぱくりって単語が一瞬浮かんじゃうんだけど。
まぁ、所詮猫だし、こちらが大人の対応をしよう。
やれやれ。わかったわかった、そういう事にしておいてやるよ
にゃ、にゃーにゃーにゃにゃーにゃー!(な、何で私が妥協したみたいになってるにゃ!? ちょっと色々混ざってるけど基本的に私は人間だにゃあ! 猫と結婚したりしないにゃあ!)
にゃーにゃーな言葉は鼓膜に優しくない。
多分、ベースで使っている言語がこっちなのだろう。もしかしたら家では猫語を喋ってるのかもしれない。
が、大抵の人間は猫語を理解できない。
こいつが友達が出来ないのはその辺が強く影響していそうだね。仕方ない、矯正してやるか。
にゃうんにゃー(うざってえな。日本語で喋れ、皮剥いで三味線にするぞ)
!? ご、ごめんなさい!
こんなに騒いでるのに、笹宮さんは相変わらず微塵もこちらに注意を払っていない。ディスプレイを見た感じだと、もう少しで原稿は完成しそうだった。
もうちょっと猫神の相手をするか。
で、でも私も女の子なので、理想があるにゃあ!
ほう。
小指の爪の先程も興味がないけど、試しに言ってみなよ
下らない話でも暇つぶしくらいにはなるだろう。
案外そういうのがインスピレーションに繋がっているのだと思う。そうでなくとも、笹宮さんの唯一の友だちになった猫神の事を知るのは悪くない事だ。
猫神は若干泣きそうになりながらも続ける。
神城君はいちいち私に厳しいにゃあ。
まずは……優しい人がいいにゃあ
なるほど……うちのくろけもは優しいし、そこはオーケーなわけか
え!?
若干親馬鹿かもしれないけど、うちのくろけも程優しい猫は早々いないと思う。少なくとも、他に飼ってる猫であるしろけもよりはくろけもの方が優しい。
次は?
え……ええ!?
ええっと……わ、私を守れるくらい強さがあるといいかにゃあ……
笹宮さんだったら軍を出してでも守るんだけど猫神に果たして守る価値があるのかどうか……
にゃ!?
まぁ野暮なことはいいっこなしか。
価値云々ではないのだろう、女性というのは守られたいものだという意味の分からない理屈を聞いたことがある。
まぁ、うちのくろけもは強いからそれもクリアかな。流石に僕よりは弱いけど
……神城君ってもしかして猫馬鹿にゃ?
象形拳をマスターしてるし、五人くらいまでなら軽く倒せるはず
ど、どんな猫にゃ……
象形拳とは動物を模した型を持つ中国拳法である。十二種類の型があるが猫の型はない。
しかしこうして聞いてみると、うちのくろけものハイスペックな事と言ったら……やはり猫神には勿体無いな。四天王の一人に出来そうだ。
で、次の条件は?
……何としてでもくろけもを外してほしいにゃあ。
猫が持ってないもの……持ってないもの……
お……お金?
もう一生遊んで暮らせるだけの額持ってるくせに金銭を条件にするとは……別に人の基準に文句を付けたいわけじゃないけど、有り体に言ってゴミクズだね
愛に生きろよ、愛に。
!?
そ、そこまで言わなくてもいいにゃあ……私はよくてもお父さんが許さないのにゃあ……きっと
うじうじ言葉を紡ぐ猫神。今更言い訳はいらねーんだよ!
父親に縛られるとは何という惰弱か。
うちの家訓は家族を殺してでも自我を通せである。神城家のその帝王学が神城グループの今の栄えを作り出しているのだ。
まぁでも、くろけもはクリアだね。金なら湯水のごとくあるし、くろけものためならいくらでも使えるよ
か、神城君……
なんだ、全て条件はクリアしてるじゃないか。
権力だろうが金だろうが頭脳だろうが運動能力だろうが、うちのくろけも程優れた猫はいないよ、いや本当に。
まぁ、どうしてもくろけもを娶りたいんだったら本人同士で話し合ってその結果って事なら僕は全面的に応援するよ
飼い主として、口を出したいことは山程あるけど、それら全てを我慢し、くろけもの幸福だけを考えよう。それがきっと飼い主の義務なのだ。
いい話にうんうん内心で頷いていると、猫神が台無しな事を言った。
私、結婚するなら人がいいです
え!?
さ、さっきからそう言ってます!
何でそんな意外そうな眼で見るんですか!?
私も人間ですよ? に・ん・げ・ん!
いや、別に気づいてたけどね……
むしろ、猫と結婚したいと言い出したら逆に心配になるよ。
しかし、そうなると猫神の先祖の業の深さが知れるな。
数十代前の伝説、もはやその真偽を知る余地はないが。
神城君? 神城君!? き、聞いてますか!? くろけもはいらないですから!
猫神はそんな僕の内心を察することもなく、抗議するかのようににゃあにゃあ叫ぶ。その剣幕に少し引く。
しかし、こんなに本気になってくるとは……こいつ、僕の事馬鹿だと思ってるんじゃないだろうな
代わりに男を紹介して欲しいって事か
にゃ!?
か、神城君と猫神さん、私の隣で何の話してるの?
隣を向くと、神がかった速度で原稿を終わらせた笹宮さんが慄いていた。