アポロは僕たちと視線が合うと、
一瞬ギョッとした顔をして体を仰け反らせた。
でもすぐに小さく息を呑んで
こちらに駆け寄ってくる。
アポロは僕たちと視線が合うと、
一瞬ギョッとした顔をして体を仰け反らせた。
でもすぐに小さく息を呑んで
こちらに駆け寄ってくる。
そ、そうだっ!
お前らは医者と薬草師だとか
言ってたよなっ?
えぇ、そうだけど……。
頼むっ! ユリアをっ!
ユリアを助けてくれっ!
助けてくれるなら、
俺を役人に突き出そうが
何をしようが、
煮るなり焼くなり
好きにしてくれて構わないっ!
アポロは土下座をして床に頭を擦りつけた。
しかも泣いているのか、
肩が小刻みに震えている。
さすがに僕たちは戸惑ってしまって、
どうしていいのか分からなくなる。
お、落ち着きなさいよ。
そんなに下手に出られたら
調子狂っちゃうじゃない……。
ユリアさんって
一緒にいた女の子だよね?
あぁ、そうだ!
故郷の村から一緒に旅をしてきた、
俺の幼なじみなんだよっ!
倒れちまったんだよっ!
皆さん、ここで話をしていても
仕方がありません。
患者さんのところへ行きましょう。
そうですね。
アポロ、案内しなさい!
ありがとうっ! 恩に着るっ!
アポロは嬉しそうに立ち上がり、
僕たちに向かって深々と頭を下げた。
――ユリアさんのこと、
すごく大切に思っているんだろうな。
僕たちは村はずれにある、
今は使われていない納屋へ案内された。
中へ入ると、床に敷かれたワラの上に
ユリアさんが横たわっている。
顔色は真っ白で、手足が痙攣している。
何かの中毒を起こしている感じだ……。
…………。
はわわぁ!
すごく苦しそうなのですぅ!
これはっ!?
ラジーさん、
心当たりがあるんですか?
キミッ、この子は村の井戸水を
飲んだんじゃないのかいっ?
ラジーさんは挙措を失ってアポロに迫った。
そして彼の肩を掴んで激しく揺する。
するとアポロは戸惑いつつ、小さく頷く。
あ、あぁ……確かに……。
井戸水を湧かして茶を飲んでいた。
俺は茶が好きじゃないから
飲まなかったが。
そういえば、
倒れたのはそのあとだ。
これはマズイですよ。
症状が出ているということは、
すでに毒素が
体内を巡っている証拠。
じゃ、これがさっき話していた
水を飲んだ時の
中毒症状なんですね?
ラジーさんはガックリと肩を落とし、
静かに頭を縦に振った。
それを見て僕やカレンは言葉を失ってしまう。
どうしたらいいのか、正直分からない。
今からじゃ、
吐かせても意味はあまりないだろうな……。
僕たちが呆然と立ち尽くしていると、
アポロがカレンに詰め寄った。
おいっ、なんだよ中毒って!
アンタ、井戸の前の看板を
見なかったの?
井戸水を飲んじゃいけないって
書いてあったでしょ!
う……ぐ……。
お、俺もユリアも
こんなことになるなんて
考えもしなかったんだ。
煮沸すれば大丈夫だって
思ったんだよ……。
見た目は澄んでいたしさ……。
アポロは瞳に涙を滲ませ、
歯を強く食いしばった。
その表情と仕草から
後悔の念がひしひしと伝わってくる。
僕だって薬や毒物の知識がなかったら、
アポロたちと同じように
無警戒で飲んでしまっていてもおかしくない。
神様はどうしていつも僕たちの運命に
差をお付けになるんだろう……。
ここまで症状が出てしまったら、
もう処置のしようがありません。
あとは本人の治癒能力に
期待するしかないです。
回復する可能性は
限りなく低いですが……。
ふざけんなっ!
お前、医者だろっ!
なんとかしてくれよっ!
アポロは大粒の涙をこぼしながら
ラジーさんの胸ぐらを掴んで激しく揺すった。
一方、ラジーさんは視線を逸らし、
眉を曇らせつつ
されるがままになっている。
ユリアさんを助けたいけどその手立てがない。
だからラジーさんもツライんだろうな……。
――今のアポロを見ていると、
ギーマ老師に諭された言葉を思い出して
胸が苦しくなる。
患者さんやその家族にとって、
薬草師や医師は最後の希望なんだ。
そのこと、何があっても忘れちゃいけない。
カレン!
えぇ、分かってる!
カレンは僕の気持ちが
分かっているみたいだった。
声をかけると同時にこちらを向き、
目と目を合わせて頷く。
まるで阿吽の呼吸――
次回へ続く!