カレンがこんなに焦っているなんて、
ただごとじゃない。
アポロが使おうとしている魔法は
何なんだろう?
カレンがこんなに焦っているなんて、
ただごとじゃない。
アポロが使おうとしている魔法は
何なんだろう?
カレン、知ってるの?
あれは破邪魔法よ!
破邪魔法って?
対魔族用に特化した
攻撃魔法の一系統なの!
アイツが使おうとしているのは
最上位の『滅魔爆裂陣』だわ!
はわわわぁっ!
破邪魔法って魔族は
使えないはずでしたよねぇっ?
つまりアポロは
魔族以外の種族ってこと?
――ふふふ、違うな。
僕の声が聞こえたのか、
アポロはニタニタしながら答えた。
ただ、依然として魔法の錬成は
続いているようで、
少しずつ光が大きくなってきている。
俺は正真正銘の魔族!
全ての系統の魔法を操れる
特殊な体質と才能を
持っているのだ!
ゆえに本来であれば
魔族には扱えない破邪魔法も
使えるわけだ。
それこそが
魔界最高の魔術師たるゆえん!
自信満々に言い放つアポロ。
さっきまでのどこか抜けたような雰囲気は
一切感じられない。
どうやら今の言葉はウソじゃないみたいだ。
でもそれってつまり、
すごくピンチってことなんじゃないのっ!?
カ、カレン、どうしようっ?
まずいわ……。
破邪魔法は魔族の使う魔法を
弱める力を持ってるのよ。
つまり私たちが攻撃魔法で
破邪魔法を相殺するには、
アイツの使う魔法より
数倍は威力が高くないとダメ!
えぇーっ!?
結界魔法でもそれは同じだから、
並の結界では破壊されてしまうわ。
そんな……。
この場は逃げるのが得策ね。
悔しいけど……。
カレンは奥歯を噛みしめながら俯いた。
悪人に背を向けるということに
抵抗があるのかもしれないな。
カレンは正義感が強いから……。
あのあのぉ……。
その時、セーラさんがカレンの服の袖を
指で軽く突っついた。
――どうしたんだろう?
私に考えがあるんですけどぉ。
考えですか?
えへへ、私に任せてくださいぃっ!
得意気に微笑むセーラさん。
考えがあるっていうけど、
何をするつもりなんだろう?
僕たちの魔法は効果が薄いというのに……。
セーラさんは荷物袋の中に手を入れ、
ゴソゴソと中を探った。
そして手のひらよりも少しだけ大きい
金属製の盾を取り出す。
表面は鏡のように磨かれていて、
降り注ぐ太陽の光を眩く反射している。
それは何ですか?
私が作った盾ですぅ。
これには魔法玉が
埋め込まれていてぇ、
あらゆる魔法を
反射させられるのですぅ。
そっか!
それならアポロの破邪魔法も
跳ね返せるわけですねっ?
その通りなのですぅ。
さすがセーラさんっ!
いい物を持ってますねっ!
これで形勢逆転ですっ!!
セーラさんは盾をアポロの方に向けたまま、
一歩前へ出た。
それに気付いたアポロは訝しげな顔をする。
何の真似だ?
さぁ? 何でしょう?
そんな小さくてちゃちな盾で
俺の魔法を防げるとでも
思っているのか?
どうなんでしょうねぇ?
ふんっ! そんなハッタリに
騙されるものかっ!
――食らえっ!
アポロは破邪魔法を僕たちに向けて放った。
眩い光がこちらへ真っ直ぐに飛んでくる。
するとセーラさんは盾をしっかりと握って
迫ってくる光へ向けた!
そしてついに破邪魔法の光が盾にぶつかる!!
次の瞬間、光は盾に反射して
アポロの方へと軌道を変えた。
何が起きたのか分からないアポロは
目を丸くしたまま立ち尽くしている。
――っ!?
――クリエイト!
不意にどこからか大きな声が響いた。
するとアポロと光との間の地面から
岩の巨人がせり上がってくる。
程なく跳ね返した破邪魔法は巨人に命中し、
粉々に砕け散った。
辺りには岩の破片と砂埃が舞っている。
ユリア……。
バカっ!
この場は逃げるのよっ!
いつの間にかアポロの横には
女の子が立っていた。
僕たちの方へ視線を向け、
警戒をしているような雰囲気だ。
う……。
ほらっ、早くしなさいよっ!
あ……あぁ……。
2人は森の奥の方へ向かって駆け出した。
でもアポロはなぜか途中で立ち止まり、
僕たちに向かって指を差す。
今日のところは許してやろう!
貴様ら、命拾いしたなっ!
そう言い捨てると、
アポロはその場から去っていった。
よほど逃げ足が速いのか、
あっという間に姿は見えなくなる。
命拾いしたのは
どっちなんだか……。
いいじゃないですかぁ。
戦いが終わったことですしぃ。
そうだよ。
財布も無事だったんだしさ。
まぁね。
でもトーヤも今後は
隙ができないようにしなさいよ?
うん、気をつけるよ。
こうしてちょっとしたアクシデントは
幕を閉じた。
でもなんだか彼とはまた会えそうな気がする。
――根拠はないけど、そんな気がするんだ。
その時はまた盗人としてなのか、
あるいは別の立場なのかは分からないけど。
できれば好意的な形だったら嬉しいな。
次回へ続く……。