セーラさんはギーマ老師の悪い部分が
分かったって言ってるけど、
本当なのかな?

――僕は半信半疑で彼女の言葉を待つ。
 
 

セーラ

まず口が悪いですねぇ。
もっと言い方があると思いますぅ。
あれじゃ、
トーヤくんとカレンちゃんが
可哀想ですよぉ。

トーヤ

……えっ!?

トーヤ

ちょっ、ちょっとセーラさん!
そういうことじゃ――

ギーマ

トーヤ! 黙って聞け!

トーヤ

う……。

 
ギーマ老師に激しく叱責されてしまった。
しかもセーラさんの話の内容は的外れなのに、
彼はすごく真剣な表情をして聞いている。


自分のことを酷く言われて怒っているのかな?

でもそういう雰囲気は伝わってこない。
どういうことなんだろう……。
 
 

ギーマ

――セーラ、続けな。

セーラ

あとは性格や態度も悪いですぅ。
そして体が何ともないのなら、
病名はきっと仮病ですねぇ。
こういうどうしようもない人に
つける薬はありません。

クレア

プッ、ククク……。

ギーマ

…………。

ギーマ

……セーラ、大正解。
お前は合格だ。

トーヤ

ええっ!?

カレン

そんなっ?

 
意外な反応だった。
ギーマ老師はニヤニヤと笑っている。
あれだけ悪口を言われたのに満足げだ。

罵られて嬉しいだなんて、
そういう趣味――というわけではないよね?
 
 

ギーマ

さすが職人ってだけはあるな。
その既成概念にとらわれない視点、
観察力と物怖じしない精神。
それが大切なんだ。

ギーマ

トーヤもカレンも
俺が病気だと勝手に判断した。
だが、患者の中には健康なのに
病気だと思い込んで
不調を訴えるヤツだっている。

ギーマ

あらゆる可能性を考えて
判断しないとな。
根拠もなく選択肢の幅を狭めるから
答えに辿り着けなくなるんだ。

トーヤ

そんなぁ……。

カレン

ズルイですよ……。

ギーマ

カレン、ついでだから覚えておけ。
診察魔法は具体的な症状と
直接的な原因を
判断するのには有効だ。
だが、精神的な病気は
分かりづらい。

ギーマ

もし心に起因する病だった場合、
診察魔法だけで判断すると
失敗するぞ?

ギーマ

一時的に体の不調を和らげる
治療はできても
根本的な治療にはならないからな。
今後は気をつけろ。

カレン

っ!

トーヤ

あ……。

 
ギーマ老師、確かに口は悪いし厳しいけど
それは僕たちが
憎くて言っているわけじゃないんだ。


全ては患者さんのため、僕たちのため。
そう考えるとこの厳しい対応も、
経験不足な僕たちに対する
苦いお薬みたいなものなのかもしれないな。

……ちょっと劇薬だったけどね。
 
 

ギーマ

セーラ、お前は見所がある。
俺のところでの修行を
認めてやろう。

セーラ

お断りしますぅ。
私は武器職人を
辞める気はないですし、
薬草師の修行をする気も
最初からありませんからぁ。

セーラ

私の代わりに
トーヤくんとカレンちゃんに
もう一度チャンスを
あげてほしいですぅ。

ギーマ

それはダメだ。
今のままじゃ
教えてやる気にならねぇ。

トーヤ

ギーマ老師!

ギーマ

ん? なんだ?

トーヤ

僕が経験不足なのは分かりました。
薬草師としての心構えが
できていなかったことも認めます。

ギーマ

ほぉ?

トーヤ

だから僕は王城へ戻って、
自分の足で
ここへまた訪ねて来ます。

トーヤ

旅の中で経験と知識と心構えを
磨いてきます。
だからもし辿り着けた時は
弟子入りさせてもらえますか?

カレン

私もっ!
このまま引き下がれませんっ!
それにトーヤにどこまでも
付き合うつもりですし!

セーラ

私もお供しますぅ!

ギーマ

無駄だと思うがな。
ここがどこだか知ってるのか?
魔竜山の山頂付近なんだぜ?

トーヤ

――いぃっ!?

セーラ

はわわぁっ!
ま、魔竜山ですかぁっ?

カレン

魔竜山って、
魔界に住む竜の領域でしょっ!?
ドラゴン以外の種族が立ち入ると
生きて戻れないって噂の……。

ギーマ

あぁ、その魔竜山だ。
俺はそこに結界を張って
住んでるんだ。
辿り着けるのか?

ギーマ

やめとけ、
無駄死にするだけだぜ?

 
ギーマ老師は僕たちを蔑むように
ヘラヘラと薄笑いを浮かべている。

でも、もう僕は最初からダメだって
諦めたりしない。

冷静に考えるんだ、きっと何か手段が……。
 
 
 
 
 

トーヤ

っ!

トーヤ

そうだっ!
今は結界を張っていたとしても
最初にここへ辿り着いた時は、
素の状態だったはずだっ!

トーヤ

つまり何らかの手段は絶対にある。
そしてその答えは旅の途中で
見つけられるんじゃないのかな?

カレン

確かにそうよねっ!

セーラ

その通りですよぉ、トーヤくんっ!

トーヤ

だったら辿り着くまで諦めず、
何度だって挑戦し続けてみせるっ!

ギーマ

……ふーん、なるほどな。
トーヤのこと、
雀の涙くらいは見直したぜ。

トーヤ

何があっても諦めない心を持つ
親友がいるんです。
少しは彼の魂が僕に勇気を
くれたのかもしれません。

クレア

ふふっ、アレスのことね?

ギーマ

よしっ、いいだろう!
もしお前たちが転移魔法を使わず、
自分の足でここに辿り着けたら
弟子入りさせてやる。

トーヤ

あ、ありがとうございますっ!

ギーマ

餞別代わりに
ヒントをくれてやろう。
王城を出発するなら
西のサンドパークへ寄ってみな。

トーヤ

何かあるんですか?

ギーマ

さぁな。あとは自分たちで
道を切り開いて見せろや。

トーヤ

はいっ!

ギーマ

……なるほど、面白い連中だ。
ミューリエが推薦した理由、
ようやく分かったぜ。

 
 
 
 
 
その後、僕たちはクレアさんの転移魔法で
王城の門の前へと戻った。

そしてそのまま町を出て、
最初の目的地となるサンドパークへと
向かうのだった。



――絶対にギーマ老師のところへ辿り着いて
弟子入りしてみせるっ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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