出直してこい――
その言葉に僕は頭の中が真っ白になってしまった。
でもすぐに我を取り戻し、
慌ててギーマ老師に声をかける。
出直してこい――
その言葉に僕は頭の中が真っ白になってしまった。
でもすぐに我を取り戻し、
慌ててギーマ老師に声をかける。
も、もう少し時間をくださいっ!
ダメだ。もし俺が一刻を争う
重病人だったらどうする?
お願いしたら
病魔が時間の猶予をくれるのか?
それは……。
僕は何も言い返せなかった。
――ギーマ老師の言う通りだ。
病気によっては一瞬の処置の遅れが命取りになる。
でも今の僕には何の処置もできない。
これは完全に薬草師としての力不足だ。
もともとな、
お前らが転移魔法で来たってのが
気に食わなかったんだ。
自分の足でここまで来るくらいの
根性見せやがれってんだ!
で、でも女王様がクレアさんに
案内させるって……。
甘いんだよ、その考え方が!
その申し出を断って、
地道に自分の足で歩いてみせろ!
…………。
確かに転移魔法を使えば、
王城からここまで一瞬だ。
その代わり、そこには何もない。
だが、旅をして辿り着いたなら、
その過程で様々な知識や経験が
得られただろう。
それがあれば、
俺をどう治療すればいいのか
すぐに分かったかもな?
っ!?
確かに結果は大事だ。
だが、天才でもない限り、
その結果ってヤツは出ない。
結果をコンスタントに出すには
積み重ねが必要なんだよ。
俺だって生まれつき
薬草師だったわけじゃない。
失敗だって何度あったことか。
そういう積み重ねの上に
今があるんだ。
っ!
――そうだ、
今でこそ立派な勇者となったアレスくんも
最初は何の力もない少年だったって
本人が言っていた。
経験や知識を積み重ねることが大事だと、
タックさんも話していた。
僕も隠れ里にいるころは、
弱虫で泣き虫で臆病な魔族だった。
でも努力したおかげか、
今は少しはマシになったと思う。
どんな物事にも近道なんてなくて、
地道にひとつずつ乗り越えていく――
それがきっと成長ってヤツなんだ!
それとトーヤ!
テメェは薬草師のクセに
診察は専門外だと?
バカ野郎っ!
ヒッ!
専門外のことは何もしないのか?
しかもテメェは診察する素振りすら
見せなかった。
――ふざけんなっ!
俺たちは薬草師と医者が
別もんだって分かってる。
でもな、患者から見れば
薬草師も医者も
同じようなもんなんだ。
もし苦しんでいる患者が
薬草師のお前に
あんなことを言われたら
どう感じると思ってるんだ?
あ……。
専門外だったとしても
分かることはあるかもしれない。
症状を見て薬を処方したって経験は
ないのかよ?
そ、それは……あります……。
だったらなぜ、
今回はそれをしなかった?
医者であるカレンがいたからか?
お前、それでいいのかよ?
そんな気持ちでいるなら、
駆け出しの薬草師どころか
落第薬草師だぞ。
う……うぐ……。
ギーマ老師の言葉が何度も胸に突き刺さる。
すごく苦しい。
でもこの苦しさは全て自分の責任だ。
――落第薬草師。
本当にその通りだ。
もし王城で薬草師を続けていたら、
果たしてそのことに気付いただろうか?
それをきちんと指摘してくれたギーマ老師に
今は感謝しないといけない……。
ちょっと!
そんな言い方っ――
カレン、テメェも反省しろよ?
さっき俺に診察魔法を使っただろ?
あれだけで
全ての怪我や病気の判断が
出来ると思ってるのか?
えっ?
診察魔法は万能じゃない。
見分けられないものもある。
それが分かっていないってことは、
お前は経験が不足してる証拠だ。
診察魔法で発見できない
怪我や病気なんてありませんっ!
じゃ、俺の治療をさっさとやれよ。
う……。
それっきりカレンは黙ってしまった。
瞳に涙を溜めて俯いている。
カレン、心が傷付いていないか心配だよ……。
一方、そんなカレンを見ても
ギーマ老師は特に反応を示さず言葉を続ける。
診察魔法で異常がないってだけで、
匙を投げるって姿勢もダメだな。
なぜほかの手段で
診察しようとしない?
診察魔法の便利さに
あぐらをかいてるんじゃねぇよ。
お前も医者失格だな。
くっ……。
カレンは今にも泣き出しそうだ。
拳を強く握りしめ、
必死に我慢しているみたいだけど。
っ!
ギーマ老師に対して、
ちょっとだけ怒りの炎が燃え上がった。
彼の言っていることは正しいし勉強になる。
だけど……なぜか怒りが湧いたんだ……。
こんな感情を抱いたのは初めてだから、
なんでそうなったのかは分からないけど……。
手厳しいわね、ギーマ。
おい、クレア。
本当にミューリエが
こいつらを推薦したのか?
センスの欠片も感じないぞ?
あのあのぉ、
ちょっといいですかぁ?
セーラさん?
今まで横で事態を見守っていたセーラさんが、
ギーマ老師と僕たちの間に割って入った。
全員の視線が彼女の方へと向く。
なんだ、武器屋?
武器屋じゃなくて、
武器職人なんですけどぉ。
えっとぉ、私ぃ、
ギーマさんの悪いところが
分かっちゃいましたぁ。
えぇっ!?
本当なのっ?
えぇ、なんとなくですけどぉ。
ほぉ、言ってみな。
ギーマ老師は興味深げにセーラさんに
問いかけた。
セーラさんは本当にギーマ老師について
何か分かったのかな?
診察をしたわけではないし、
医者でも薬草師でもないというのに……。
次回へ続く!