俺はどう見てもリア充だ
第五話「本当のリア充」
俺はどう見てもリア充だ
第五話「本当のリア充」
ね、ちょっとだけ時間いい?
清里に袖を引っ張られ、振り返る。
構わないが……
俺が答えると、清里は先に立ち、昨日一人でいた公園へと入っていく。
その後についていくと、清里はベンチに座って空を眺めた。その顔は……。
楽しそうだな、清里
……うん。楽しい。仁太郎君のおかげだよ
そうか。なら、昨日今日と連れ回した甲斐があったよ
清里は俺を見て笑顔を作り、そしてそのまま、俯いてしまう。
仁太郎君、私のこと観察してたって言ってたよね?
ああ。俺は周りから非リア充だと言われているからな。リア充と呼ばれている清里となにが違うのか、知りたかったんだ。
……今はもう、違いなんてどうでもいいことだが
そっか。
私は……どうでもよくは、ないかな
……清里?
清里は顔を上げて、力のない笑みを浮かべる。
私はさ、仁太郎君のことが気になってたんだ
俺のことが?
うん。堂々と自分がリア充だって言い切れる。どれだけ充実しているか胸を張って説明できる仁太郎君が羨ましかった
俺は当たり前のことを言っていただけなんだが
それがすごいんだよ。
私は、周りからリア充だって言われることはあっても、自分からリア充だなんて言うことはできなかったよ。私には、自分がどうリア充なのかなんて、説明できないよ
…………
理由はもう、わかるよね? 仁太郎君の言う通り、私はリア充なんかじゃない。非リア充だからだよ。
それなのに自分でリア充だなんて言ったら、嘘つきになっちゃう
清里優理子は、実は非リア充だった。
確かに俺はそう結論づけた。
仁太郎君、よく言ってるよね。リア充とは、リアルが充実していることだって。
私のリアルは充実なんかしていなかった。一緒に帰る友だちも、寄り道する友だちも……いない。いつも一人で、空っぽだった
…………
だからね、今日よーくわかったの。リア充かどうかなんて、周りが見ただけじゃわからない。
だって、陽子ちゃんと美和ちゃん、二人ともとっても楽しそうだった。
知ってる? 女子同士でお弁当食べてるとね、あの二人は地味で協調性が無いって言われてるんだよ? ぜんぜん、そんなことないのに。話をすれば、とっても明るくて楽しい子だってわかるのに
そうだな、そこは俺も同意見だ
女子同士の話はわからないが、クラスでそう思われていることは知っている。
しかし一緒にゲームをしてみてわかった。二人はゲームのことになると人が変わったように明るく話をする。とても充実した笑みを浮かべるのだ。
二人に比べたら、私なんて本当に非リア充だと思う
なにを言っているんだ
俺は清里の正面に立つ。彼女は少し驚いた顔で俺を見上げた。
さっきまでの清里は、本当に楽しそうだった。ここ数日観察して、あんな笑顔を見たのはさっきが初めてだった。
……今の清里は、充実しているよ
私が……。でも……
納得いかないなら、明日から今澤と有原の二人と話すようにすればいい
え……?
他の連中なんて気にするな。お前が積極的に二人に声をかけていけば、男子たちも声を掛けづらくなるはずだ
そう、かな? 二人に迷惑にならないかな……
俺の見立てだと、大丈夫だと思うけどな。あの二人、頑固なくらいマイペースだ。例え何かあっても気にしないだろう。それに……
少なくとも、清里のことをリア充だと、近寄りがたい高嶺の花だと思っている連中には、彼女の行動を邪魔することはできないはずだ。なにより女子同士なら、早々嫉妬も起きないだろう。
万が一の時は俺がなんとかすればいい
どうやって、なんてのはその時考える。
とにかく、安心していい
……うん。仁太郎君がそう言うなら、信じてみようかな?
清里は今度ははっきりと笑みを浮かべる。
これで……。清里も、非リア充ではなくなった。
俺は満足し、彼女の顔を見る。
……そうだ。一つ聞いていいか?
うん? なに?
話が最初に戻るんだが、リア充と非リア充についてだ。
恵や壮一が言うには、その二つの大きな違いは、恋人がいるかどうからしいんだ。一般的には、だが
う~ん……確かに、そうかもね
で、だ。リア充と呼ばれてきた清里は、恋人がいるのか?
え……えぇ? い、いまそれを聞くの?
いや、まぁ……
昨日声をかけた時は、いないと判断し、非リア充だろうと決めつけた。
だがきちんと確かめたわけではない。
……いや、だからって今聞く必要があったか?
どうして俺は、今聞こうと思ったんだ?
清里の顔を見たら、ふと疑問が湧いたんだ。
それで俺は……
ええっと、秘密……じゃ、駄目かな
!! そ、そうか。そうだな、悪い
秘密……。ここで秘密にされることが、どういう意味なのか。
さすがに、察するべきだろう……。
何故だろう、心がざわざわする。
……そうだ。疑問が湧き、心がざわついて、それで聞いてしまったんだ。
……でも、仁太郎君にならいっか。本当は、誰に聞かれても曖昧に誤魔化してたんだけど
そ、そうなのか?
うん。はっきり言ったことはないんだ。
……私には、恋人なんていないよ
っ……! そ、そうなのか
心臓が一瞬で早鐘のように脈打ち、軽く目眩がしてふらつきかける。
……動揺? いや、安心……?
やっぱり。じゃあなんで周りにそう言わないんだって、思ったでしょ?
ま……まあな。それは、そうだろう
なにか誤解してくれたようで、俺は辛うじて声を絞り出し、そう返す。
が……確かに、彼女の言う通りだ。
なんで、言わないんだ? そうすればリア充だなんて言われなかったかもしれないぞ?
うん……。でも、言うともっと大変なことになるって、知ってるから
…………ああ、それもそうか
恋人がいないとわかれば……それこそ男子が積極的に動き、面倒なことになりそうだ。
中学の時、色々あって……。だから誤解されてるならもうそれでいいかなって、ね
でもおかげで、非リア充になってしまっていたぞ?
そうだね……。でも、もういいよ。
うん、仁太郎君のおかげで、リア充かどうかなんて、私もどうでもよくなっちゃった
そう言って清里は少しだけ笑う。
それは違うぞ、清里
え……?
さっき俺が、リア充と非リア充、その違いなんてどうでもいいと言ったのは……
俺は腰に手を当て、清里に笑いかける。
清里が本当のリア充になったからだ。二人ともリア充なら、違いなんてもうどうでもいいだろう?
仁太郎君……。
あはは、敵わないなぁ
そうしてしばらくの間、俺たちは公園で笑い合っていた。
そろそろ帰ろっか
そうだな。もう完全に日が暮れている
昨日と同じように、駅までの道を二人で並んで歩く。
今日はもう暗いし、もちろん駅まで送るが……。
昨日はなんで駅まで一緒に帰ろうと思ったんだ? ゲーセンで解散でもよかったと思うが
えぇ? 仁太郎君……それ、本気で言ってる?
う、まぁ……。なんだ、俺はおかしなことを聞いたか?
もう……
清里は少し呆れた顔でため息をつくが、すぐに恥ずかしそうに顔を赤くした。
あ、あのね。私が非リア充だったことはよくわかったと思うけど
ああ……まぁ
もちろん、今まで恋人なんていなかったよ?
お、おう。そうか
だからね、その……男の子と二人で遊びに行く、なんて、初めてだったんだよ
ああ。…………って、そう、なのか?
そうなんだよ。だからね……えっと、まだわからない?
わかるような、わからないような……
上手く頭が回らない。つまり……男子と二人で遊ぶのは昨日が初めてであり、俺とが初めてだったらしい。
世間一般的にね? そういうのって、その……デートって、言うよね?
でぇと……
うん……デート
でぇと……
でぇと…………
で……え……と
でーと…………
デ…………
デ……エ……
ト…………
デート?
…………!!
そ、そうとは限らないと思うぞ!
だが……そうとも、言うかも知れないな。
……すまん、俺もあまりそういうのは、わからないというか
デート。
しばらくその言葉が理解できず混乱してしまった。
昨日自分がしたことの意味。
清里がなにを言いたいのか。
……いやしかし、果たしてあれを、デートと呼んでいいのか?
俺には、判断ができなかった。
昨日はまったく自覚がなかったが、そうなると俺にとっても初めての経験だ。
そしてもし、デートなのだとしたら……。
だから、別れ際があんな風にほったらかしなのは、ちょっと嫌だなって……
…………!
初めて、だったし
……その、本当にすまん
そこからはもう、無言で駅までの道を歩くことになる。
ただ、隣を歩く清里は、嬉しいような、恥ずかしいような、照れた顔をしていて、俺はその横顔すらもまともに見れなくなっていた。
続く