俺はどう見てもリア充だ
第六話「どう見てもリア充だ」
俺はどう見てもリア充だ
第六話「どう見てもリア充だ」
もうすぐ冬休みだな
その前にクリスマスだよ、恵。
……今夜はクリスマスイブ
おま、やめろよそういうこと言うのっ
なんで? って聞くまでもないね。恵はぼっちだから
てめぇ……壮一だってぼっちだろうが!
ぼ、僕は別に……望んでそうしてるから
強がんなって。
ま、どーせまたこの三人でバカやって終わりだろ。なぁ、仁太郎
む? ああ、そうだな
少し考え事をしていた俺は、突然話を振られてなんとか答える。
一応、話は耳には入っていたのだが……割とどうでもいい話で助かったな。
なんか今日は上の空だね。
……なにかあった?
いや別に、なにもないが
んー? ああ、お前も見てたのか
な、なにをだ?
思わずぎくりとなる。
咄嗟にさっきまで見ていた方に目を向けてしまい、余計にしまったと思う。
ああ、僕も気になってたんだ。
……清里さん
気になるよなー、今日の清里さん。いったいなにがあったんだろ
お、お前らも気になってたのか?
そりゃ気になるだろー
うん。だって……ね。いつもみたいに、男子に囲まれてないんだから
……そうだな
二人が視線を向けるのを見て、俺も再び清里の方を見る。
そこには……。
私、あのゲームで勝てなかったのがどうしてもわからなくて
わたしはどうしてかわかってるけどね~
あたしも。でもどうしようもないと思うよー
清里は、いつもの男子連中ではなく、今澤と有原の二人と会話をしているのだ。
そして俺の睨んだ通り、男子連中はどうしたらいいのかわからないのか、遠巻きに見るだけで近寄ろうとしない。女子たちも不審な目を向けるが、むしろ好都合とでも思ったのか、いつもは清里を取り巻いている男子に話しかけにいった。
……問題無さそうだな
大丈夫だとは思っていたが、ほんの少しだけ心配だったのだ。
なにより今日はクリスマスイブ。積極的に動こうとする男子がいるかもしれなかった。
でもどうやら、それは杞憂だったらしい。
珍しいよな。清里があんな風に女子と話してるの
そうだね。清里さんもだけど……今澤さんと有原さんが他の女子と会話してるのも初めて見たかもしれない
そうなのか? さすが壮一、詳しいな
べ、べつにそんなんじゃ
ま、いいんじゃないか? 三人とも楽しそうだぞ
……あー、それはそーだな
確かに……うん
清里は本当に楽しそうに笑っている。あの笑顔に、クラスの何人が気付いているだろうか。
そんな風に彼女たちを見ていると、不意に三人と目が合う。
そして頷きあい、今澤と有原が席から立ち上がってこっちに歩いて来た。
な、なんだ?
落ち着きなよ……。恵に用事があるわけじゃないと思うから。たぶん
二人が俺の前に立つと、恵は俺の肩を掴んで後ろに隠れ、壮一はそっぽを向いて興味が無さそうにしながら、身体を斜めにしてめいいっぱい耳をこっちに向けた。
親友二人の様子に若干呆れつつ、俺は今澤と有原に声をかけた。
どうした? 二人とも
仁太郎くん、明日って暇?
まぁ暇だな。なにもないぞ
カラオケボックスでゲーム会やろうと思うんだけど……どうかな?
お、いいな。俺はオッケーだぞ
よかったー。
……それでね、じんた君。六人までのゲームとか、持って行こうと思うんだ
せっかくだから、フルメンバーでやってみたいんだけど~……
有原と今澤が、俺の後ろと横にちらちらと視線を向ける。ちなみに後ろの恵は完全に固まっている。相変わらず女子に免疫の無いやつだ。
一方の壮一は、ガタッと机から滑り落ちそうになり、一人でばたばたしている。
ああ、こいつらで良ければ誘っておく。どうせ暇だろうから人数に入れておいてくれ
本当? ありがと~、仁太郎くん
それじゃ、詳しいことはまたあとでねー、じんた君
二人は嬉しそうに、清里の元へと帰って行く。
が、今澤がなにかを思い出したように戻ってきて、俺にそっと耳打ちをした。
優理子ちゃん、今まで周りに積極的な人っていなかったみたい。だから意外とすごく乙女だったりするから、がんばってね。仁太郎くん
……? なんの話だ?
♪~
俺は首を傾げるが、今澤はそれ以上説明する気がないようで、手を振って清里の側へ戻って行ってしまった。
な、な、な、仁太郎、今のはなんだ? ああっ、女子に、女子に!
仁太郎っ! 説明してくれるね? 今の。どういうこと? さあ、早く説明してよ!
お、落ち着けよ壮一。恵はそれ以上力を入れるな。さすがに痛いぞ
やれやれ。俺は二人をなだめる。
聞いていただろ? 明日、ゲームをして遊ぼうというお誘いだ。お前らも来るだろ?
い、い、い、いいの、か? いや、でも俺はっ
ぼ……僕は、そうだな。
……うん、ちょうど予定は空いてるかな。参加してもいいよ?
なんでちょっと上からなんだよ
いや! 仁太郎様! お願いします、僕も、参加させてくださいっ
土下座すんな!
なんだよお前、意外とあっさり捨てるのな、プライド
僕だって仁太郎に土下座する日がくるなんて思わなかったよ。クリスマスのお誘い……僕のプライドなんていくらでも投げ捨ててやるさ
い、いいからもう顔を上げてくれ。ちょっとキャラが変わってるぞ
んで、恵はどうする?
……いや、来い。お前は絶対に来い。いいな?
え、な、ちょっ、なんで俺には命令系なんだよっ
お前は少し女子に慣れろ……。これはいい機会だ
……確かに、そうかもね。仁太郎に同意するよ
マジで言ってんのか?! う、うおおお……
恵が頭を抱えてしゃがみ込む。
……それで? どうして仁太郎があの二人と親しいのさ。そこの説明がまだだよ
わかったわかった。ちゃんと説明してやるから
やれやれ……。
興奮している壮一と混乱している恵。
今澤と有原の二人については簡単に説明できるが、問題は……。
ん……?
と、そこへスマホにメールが届く。
二人のどっちかが明日の時間について送ってきたのかと思い、確認するが……。
清里……?
明日のゲーム会、六人用のゲームをフルメンバーでやりたいと言っていた。
いや例えその言葉が無くても、清里がメンバーに入っていることはわかりきっている。
さっき二人だけで話しかけてきたのは、清里まで一緒に来たら面倒なことになるからだろう。その間に、清里はメールを作成していたわけか。
まぁいい。待ち合わせの確認ならすぐに見た方がいいな
そう思い、その場でメールを開いて……
俺は、固まった。
そのメールの内容とは……
明日のゲーム会、楽しみだね。ゲーム会だけど、クリスマス会でもあるのかな?
それから、ありがとうね、仁太郎くん。
言った通りだったね。陽子ちゃんと美和ちゃんと話してたら、男子が話しかけてこなくなったよ。
一昨日、公園で仁太郎くんに話しかけられてから、世界が変わった気がする。
私は今充実してる。本当に、リア充になれたと思う。
でもね?
二人と話しててわかったんだけど、私にはまだまだ知らないことがいっぱいあるみたい。
明日はゲームをしに行くんだけど、実はカラオケも行ったことがないんだよ。
他にもたくさん、私は……遊び方を知らないみたい。
だから、仁太郎くん。
よかったら、また遊びに連れて行って欲しいな。
昨日は、結局あやふやなままだったから……。
今度はちゃんと、デートとして誘ってもらえると嬉しいです。
俺は顔を上げて、清里の方を見る。
…………!!
ばっちり目が合い、清里は顔を真っ赤にしてすぐさま目を逸らしてしまった。
なるほど、意外と乙女……か。
……恥ずかしいなら、そんなこと書くなよ。
どうしたの? 仁太郎、早く説明してよ
い、いや、なんでもない。ちょっとだけ待っててくれ
俺は壮一にそう断ってから、ダッシュで廊下に出てがらりと窓を開け、冷たい空気に自分の顔をさらす。
……今なら、俺にもわかるかもしれない
世間一般的に言うところの、リア充というヤツが。
了