俺はどう見てもリア充だ

第四話「みんなで遊ぶ」









 翌日、放課後。
 教室には、今澤と有原の二人と俺。

 そこへ――。

清里 優理子

お、おまたせ?

 一度教室を出て行っていた、清里が戻ってきた。

幸重 仁太郎

来たな。ちょうど俺たち以外みんな帰ったところだ


 清里が来たのに気付くと、今澤たちは立ち上がって机を動かし始める。俺もそれを手伝い、四つの机を向かい合わせにした。

幸重 仁太郎

清里、こっちに座ってくれ

清里 優理子

うん……それで、なにをするの? 私まだなにも聞いてないんだけど

幸重 仁太郎

今からこの4人でゲームをしようと思う

清里 優理子

ゲーム……?

 清里が首を傾げていると、有原が鞄から手帳ほどの大きさの箱を取り出した。
 そこには『ニワトリのえじき』と書かれていた。
 今澤が箱を受け取って蓋を開けると、中には何枚ものカードが入っており、手際よく取り出していく。

清里 優理子

これ、数字が書いてあるけど、トランプじゃないよね?

幸重 仁太郎

そうだ。このゲームはこの専用のカードを使って遊ぶんだが……えーっと、今澤頼む

今澤 陽子

うん。私が説明するね~、清里さん

清里 優理子

よ、よろしくお願いします……

今澤 陽子

まずカードには、手札用のカードと場でめくるカードが15枚ずつあって~……

 今澤が説明をしている間に、俺と有原でゲームの準備を進めておく。
 マットを敷いて、人数分のカードを配り、山札をセットすると、ちょうどだいたいの説明が終わったようだ。







清里 優理子

ルールはだいたいわかったよ。まだちゃんと理解できてないかもしれないけど

今澤 陽子

あとはやって覚えよう~

清里 優理子

うん……でも、待って。つまり今日はここで4人でこういうゲームをやろうって話なのね?

幸重 仁太郎

ああ。さっきそう言ったと思うが

清里 優理子

そうだけど……。でも、どうしてこのメンバーなのかなって、思って

幸重 仁太郎

なにかおかしいか?


 3人揃って首を傾げると、清里は面食らったような顔になる。

清里 優理子

だ、だって、仁太郎君と……今澤さんと有原さんが仲良いなんて、知らなかったから


 少し目を逸らしながら言うのを見て、俺はようやく清里がなにを言いたいのかわかった。

幸重 仁太郎

ああ、確かに珍しい組み合わせに見えるか

清里 優理子

そ、そうは言ってないよ?

幸重 仁太郎

いや、珍しいだろ。俺たちがたまにこうやって放課後にゲームをしていることは、たぶん誰も知らないんじゃないか? 恵や壮一にも話してないからな


 俺がそう言うと、今澤と有原もうんうんと頷く。

今澤 陽子

最初はわたしたち二人でゲームしてたんだよ

有原 美和

そしたら、じんた君に見られちゃって

幸重 仁太郎

うむ。なにやら面白そうなことをしているなと思ってな。ゲームに混ぜてもらったのがきっかけだ

今澤 陽子

プレイヤーが多い方がゲームは面白いから

有原 美和

むしろ二人じゃつまんないのもあるからねぇ。じんた君には感謝してるよー

清里 優理子

…………

 清里は話を聞いてぽかんとしている。そこまで驚くような話だっただろうか。

幸重 仁太郎

ほら、清里。早くゲームをやろう

清里 優理子

え、あ、うん。そうだね


 言われてハッと我に返り、自分の手札を取って手の中で並び替え始めた。

幸重 仁太郎

とりあえず軽くやってみるか
















.





















幸重 仁太郎

……また最下位だと?

清里 優理子

やったー! また勝ったよ!
陽子ちゃん、美和ちゃん!

今澤 陽子

うん! 優理子ちゃん強いね~

有原 美和

ゆりちゃん連続一位。すごいすごい

 女子3人がハイタッチし合う。

 あれから何戦かやったが、清里が強すぎる。
 このゲーム、駆け引きやカウンティングが重要だ。よく考えたら、そういうゲームで頭の良い清里に敵うわけがなかった。

 と思ったのだが……。

清里 優理子

何度かやってると、みんなのクセがわかってきて面白いね

幸重 仁太郎

……清里、本当はこういうゲームやったことあるんじゃないか?

清里 優理子

え? トランプくらいしかないよ?

 どうやら、頭が良い以上にセンスがあるようだ。
 昨日のガンシューティングといい、ゲームの才能があるな……。




今澤 陽子

そろそろ別のゲームにしよっか

清里 優理子

他にもこういうのがあるの?

有原 美和

うん。いっぱいあるよー

幸重 仁太郎

今澤と有原は、二人でゲームが被らないように買っていってるみたいでな。結構な量を持っているらしいぞ

清里 優理子

そうなんだ……へぇ

今澤 陽子

全部は持って来れないけど、今日はすぐできそうなのを選んできたんだ~

有原 美和

もっと難しいのでもよかったかもねー。ゆりちゃん飲み込み早いから

清里 優理子

そ、そう? それで、次はどんなのをやるの? 陽子ちゃん

今澤 陽子

そうだねぇ。今度はダイスを使うのにしよっかな

 それにしても……。さっきのを何戦かやっただけで、随分仲良くなったな。この3人。
 清里が来る前に今澤と有原に聞いたが、清里とはほとんど話したことがないと言っていた。
 それがこうもあっさりうち解けるとは。少し意外だった。

清里 優理子

仁太郎君、ぼうっとしてないでやるよ?

幸重 仁太郎

ああ。次は負けないからな、清里









.
















清里 優理子

あ~、楽しかった。ちょっと悔しいのもあったけどね

 そろそろ日が落ちてきたため、机を元に戻して帰り支度をする。
 清里は満足そうな顔で伸びをしている。

幸重 仁太郎

ま、まぁ、強すぎるよりはいいんじゃないか?

 俺は辛うじてそう言ったものの……正直ただの負け惜しみだ。

 清里は本当にゲームが強い。だが、まったく勝てないわけではなかった。
 というのも……清里優理子、唯一にして最大の弱点。運が大きく絡むゲームは滅法弱いということだ。
 ダイスを使うゲームでは低い数字しか出せず、カードの引きも悪い。そのせいで一位が取れないことが多かった。

 最初のゲームのような駆け引きやカウンティングが重視されるゲームは無双してしまうので、清里とゲームをする時は多少なりとも運の要素が入ったものがいいかもしれない。

今澤 陽子

次はあれ持ってこよっか。あれなら戦略も大事だけど運の要素もあるし

有原 美和

そうだねー。ゆりちゃんにはちょうどよさそう

 二人も同じことを感じたのか、そんな話をしていた。


清里 優理子

あっ……次……




 清里にも聞こえてしまったようだが……気になったのは運がどうこうではないらしい。
 少しだけ困った顔で、二人のことを見ている。

清里 優理子

あの、私……

今澤 陽子

優理子ちゃん、また誘うからね~

有原 美和

今日でゆりちゃんが強いのはわかったからね。次が楽しみ

清里 優理子

あっ……うん! 絶対誘ってね!
それから、どんなゲームがあるのかもっと教えて欲しい!

 ……どうやら、すっかりゲームにハマってしまったようだ。
 俺は3人が笑い合う姿を、腕を組んで眺めるのだった。
















 後片付けを終え、校舎を出る。
 校門の前で今澤と有原の二人と別れると、俺は空を見上げた。

 どうやら、日が完全に落ちる前には帰れそうだ。








 ……と、清里に袖を引っ張られる。



清里 優理子

ね、ちょっとだけ時間いい?















続く

第四話「みんなで遊ぶ」

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