待って、待って幸重君！
ちゃんとついて行くから、というか引っ張られると歩きにくいよ

むっ……すまんすまん。なんかこう、使命感に燃えてしまって。つい

幸重君って、意外と強引なんだね……

そうか？　それより、幸重って呼びにくければ仁太郎でもいいぞ。クラスのほとんどのヤツはそう呼ぶしな

別の意味で呼びにくいんだけど……。
わかったよ、仁太郎君

それで？　遊びに行くって、どこに？

そうだな。清里はどこか行きたいところはあるか？

え？　わ、私が行きたいところ？
そんな、急に言われても……遊ぶところなんて

別にクラスメイトがよく行きそうな場所、じゃなくてもいいんだぞ？　というかわからないだろ、そういうの

うっ……そ、そんなことは、ないよ？
あ、でも本屋に行きたいかも……

わかった。じゃあまずは本屋だ

いいの？　遊ぶ場所じゃないと思うけど

本を見たいんだろ？　それで楽しければいいんだよ

…………そういうものなのかな

それで、なにか欲しい本があるのか？

ううん、今は特に……。推理小説の棚が見たいだけだから

お、いいな。俺も一時期ハマっていたんだ。ええと、ほらこれ。『水底に煌めく』って知ってるか？

うん、読んだよ。……でもこれ、オチがすごく微妙だったと思うんだけど

そうだな。だが、だからこそ色々想像ができてな。俺は好きだ

それって深読みできるってこと……？
私はそういう風には思えなかったよ

それが当然だろうな。ネットでの評判も悪い

仁太郎君ってやっぱり変わってるね。
……私はこれかな。『霧下家殺人事件』が好き。ちょっと古いんだけどね

おお、それ俺が初めて読んだ推理小説だ。それ読んで推理小説にハマったんだよな

そうなの？

……うん、それわかるかも。すごく印象に残ってるんだよね

読み終わったあと、しばらく頭の中に残っていたな

私も、クライマックスが衝撃的で……なかなか頭から離れなかったよ

……久しぶりに読み直してみるかな

私も読みたくなってきちゃった

あ～楽しかった。本屋でこんなに楽しめるなんて思わなかった

そうだろう？　遊べる場所だけが楽しいとは限らないんだ

そうだけど……たぶん、それだけが楽しかった理由じゃないと思うよ

どういうことだ？

それは……う、ううん。なんでもない。
それより、この後はどうするの？

まだ時間はあるな。他に行きたいところはあるか？

うーん……。
次は、仁太郎君に決めて欲しいかな？

俺か？　そうだな……定番だけど、ゲーセン行くか？　今度は本当に遊ぶ場所だぞ

ゲームセンター……こ、恐くないよね？

いつの時代の人間だよ。……いや、そうか。行くの初めてか？

うん……。なんとなく、一人だと入りにくいよ

そうでもないんだがな。ま、今は二人だ。行ってみよう

う、うん……！

はぁ～……ここが、ゲームセンター……。お、音がすごいね？

そうだな、結構大声で話さないと会話もできない

あ、これＵＦＯキャッチャーだよね

……そうだな

小さい頃やったことある気がする

なんだ、来たことあるんじゃないか

小さすぎて覚えてなかったし、それにゲームセンターじゃなかったと思う

ああ、デパートとかにもあったりするか

ね、仁太郎君、これ取れる

無理だ

……即答だね

苦手なんだ、ＵＦＯキャッチャー

なるほどね……。じゃあ得意なのは？

そうだな、得意とまではいかないが、あれは恵たちとよくやってたぞ

東島君と？　えっと、あれはどんなゲームなの？

ゾンビを銃で撃つゲームなんだが、やってみるか？

これのゲーム代くらいは出すぞ

え、いいの……？

半ば無理矢理連れ出したからな

少しは自覚があるんだね……。
それじゃ、遠慮無く。ありがとう

うわあ、結構リアルだね。さすがにちょっと気持ち悪い

……と言いながら的確にヘッドショットしていくのな

大きいの出てきた！　弱点は頭でいいの？

そうだな。だがその前に

あ、腕を攻撃すると武器を落とすんだ。じゃあその後に頭を狙った方がいいかな？

あ、ああ……

楽しかった～！

なぁ清里、今のゲーム初めてだよな？

うん。当然だよ。ゲームセンター自体初めてだから

家になにかゲーム機があったりするか？

ううん？　持ってないよ。あ、お父さんのがあるけど、私は触ったこと無い

……そうか

それにしても、最後のボスはずるいよね。初めてじゃ避けられないよ

いわゆる初見殺しだな。いやでも、それまでにもそういうのはあったんだが

今度また挑戦してみたいな

……ま、楽しそうだからいいか。
よし、また今度な

さて、もう少しなにか……ん？

あ、あれって、うちのクラスの……！

おーい、今澤、有原！

え、ちょっと仁太郎君？！

あれ、仁太郎くんだ～……

本当だ。東島君と古平君は一緒じゃないんだね

今日はちょっと清里に……ってなんで隠れてるんだ？

もう……。えっと、こ、こんにちは

え、清里さん？

珍しい組み合わせだねー。じんた君

実は今、清里に色々遊びを教えていてな

そうなんだ。仁太郎くんらしいね

ちょっとビックリしたけど、じんた君だもんね。納得納得

え、えっと……？　仁太郎君、二人と仲良いの？

まぁちょっとな。少し前に……あ、そうだ。いいこと思いついたぞ

清里、明日の放課後も時間貰えるか？　教室に残って欲しいんだが

それは……うん、構わないけど。でもちょっと待って、状況がわからないんだけど

あ、仁太郎くん、もしかして

そういうことだ。二人とも、協力してくれるか？

もちろんだよ。やったー、これで四人だね、ようちゃん

うん！　やったね美和ちゃん！

え、え、え？　どういうこと？

それじゃ、わたし帰って明日の準備するね～

あたしもー。なに持っていこうか？　相談しながら帰ろうね

よし、じゃあ今日はここまでにしとくか。
続きは明日ってことで、解散――

解散……って、ま、待って！

もうなにがなんだかわからないけど、でも……仁太郎君

なんだ？

ここで解散はやめよう？　その、せめて駅まで一緒に行こうよ

ん？　まぁそれもそうだな。
よし、行くか