俺はどう見てもリア充だ

第二話「リア充との出会い」








幸重 仁太郎

清里優理子がリア充だと、周りは言っているが……

 才色兼備でクラスの人気者。おまけに恋人がいるという噂まである。
 まさにリア充の鑑らしいが、俺には疑問だった。


 俺が非リア充代表、彼女がリア充代表だと言われていると知ってから、いったいどこに違いがあるのかと気になり、俺はここしばらく清里優理子を観察していたのだ。

 しかしその結果……彼女がリア充であるということに、疑問が生じた。

幸重 仁太郎

まず、彼女は下校時いつも一人だ

 教室では、休み時間になるといつも誰かと話をしている。一人でいる姿はあまり見たことがない。
 それなのに、放課後はいつも一人で帰っているのだ。

幸重 仁太郎

しばらく見ていて気付いたが、どうやらあの噂のせいみたいだな

 清里優理子には恋人がいる。

 つまり放課後は彼氏のための時間だと、周りのみんなが気を遣っているのだ。
 だったらクラスでも気を遣えよと思わなくもないが、同じ空間にいるとどうしても、チャンスがあるかもと淡い期待を抱いてしまうらしい。
 男とは難儀な生き物なのだ。さすがの俺も、そこを否定するつもりはない。

幸重 仁太郎

だったらもっとがっつけよと思わなくもないが、やはりそこは高嶺の花というヤツなのかもな

 高嶺の花。完璧過ぎるから、近寄りがたい。
 眩しくて、親しくなる前に諦めてしまう。
 きっとそうなるギリギリのところまでしか進めないのだ。
 本当に、難儀な話だ。

幸重 仁太郎

だけどもっと問題なのは、女子の方だな

 これは壮一もチラッと言っていたことだが、あまり女子連中とは仲良くしているように見えない。

 理由は簡単だ。
 普段の教室では、男子が囲んでしまうから話すタイミングがない。
 放課後はさっきと同じ理由で気を遣われてしまい、遊びに誘われることも無い。
 昼の弁当は女子と食べているが、逆に言えばそれくらいしか付き合いが無いのだ。仲良くなるには足りないだろう。

幸重 仁太郎

もっとも、嫉妬とかもあるだろうけどな

 モテまくりの清里をよく思わない女子もいるかもしれない。言い寄っている男子のうちの誰かに好意を寄せていたりすれば、嫉妬だってするだろう。
 明確に目の敵にしている女子はいないように思うが、潜在的な敵はいるのではないだろうか。
 表に出せば逆に男子に嫌われかねないから、隠している可能性は高い。

幸重 仁太郎

そしてなにより、一番の疑問は……

 放課後、俺はこっそり清里の後をつける。
 いつものように一人で校門を出て、その足ですぐ近くの公園へと入っていく。



清里 優理子

…………





 誰もいない、静かな公園。
 清里はベンチを軽く払って、そこに座って溜息をつく。
 そしてぼうっと、空を眺めていた。

幸重 仁太郎

あれが……リア充? あんなに寂しそうな姿なのに?



 寂しくて、なにも無い。空虚な瞳。
 小さくて頼りなさそうな背中。

幸重 仁太郎

そもそも本当に、清里に彼氏がいるのか?



 とてもじゃないが、これから恋人に会うのを楽しみにしているようには見えない。

幸重 仁太郎

本当は、非リア充なんじゃないか?


 清里のあんな姿を見るのは初めてではない。

 放課後だけじゃない。学校でも、滅多にないがちょっとした隙に一人になったりすると、ああいう目をする時がある。
 とてもじゃないが、リアルが充実している目ではない。


幸重 仁太郎

見ていられないな





 俺は目を逸らし、歩き出す。

 もう十分だ。観察の必要はない。
 答えは出た。俺と清里は、全然違う。

 俺はリア充で、彼女は非リア充だったのだ。








幸重 仁太郎

だから……放っておけない

幸重 仁太郎

清里。こんなところでなにしてるんだ?

清里 優理子

え……?

 接近にまったく気付いていなかったらしく、声をかけるとぽかんとした顔で俺を見る。










清里 優理子

…………えっ!? あ、幸重君?! なんでっ……!

 約五秒、固まっていたが、状況を把握して慌てて立ち上がる。そしてこっちを向こうとして、

 ガンッ!

 とベンチに膝をぶつけた。

清里 優理子

あっ……! つっ……!

幸重 仁太郎

お、おい、大丈夫か?

清里 優理子

だ、だい、じょうぶ……

幸重 仁太郎

……とりあえず座れよ

清里 優理子

うん……ごめん

 清里はゆっくりベンチに座り、ぶつけた足をさする。
 俺はそのベンチの横に立った。

清里 優理子

ゆ、幸重君……いつからそこにいたの?

幸重 仁太郎

少し前からだ。ぼうっと、空を眺めていたな

清里 優理子

うぅ……変なところ見られちゃったね、あはは……

 ようやく落ち着いてきたのか、顔をあげて照れたように笑う。
 いつもクラスで浮かべている笑顔と同じだ。

幸重 仁太郎

清里。別に無理に笑う必要ないぞ

清里 優理子

え、ええ……?

幸重 仁太郎

ここ数日、お前のことを観察していてわかった

清里 優理子

観察? ……って、もしかして幸重君、私のあとを追ってここへ来たわけじゃないよね?

幸重 仁太郎

ああ、そうだ。後を追って来た

清里 優理子

そうだって、それ軽くストーカーだよ……?

幸重 仁太郎

どうしても答えを知りたかったんだ。変な意味は無い

清里 優理子

うーん……。
答えって、いったい何の?

幸重 仁太郎

決まっている

 さすがに怪訝な表情の清里に、俺ははっきりと言う。

幸重 仁太郎

俺がリア充であり、清里が非リア充であるという答えだ!



 この時俺の頭にはもう、俺と清里の違いはなんなのか、という最初の疑問は無くなっていた。
 だから言い直す。


幸重 仁太郎

いや、俺がリア充かどうかはこの際関係ないな。問題なのはお前が非リア充だということだ

清里 優理子

わ、私が非リア充って……それは

幸重 仁太郎

とにかく! 俺はわかってしまった! 知ってしまった! だから、一緒に来てくれ!

清里 優理子

ゆ、幸重君? 待って、よくわからないんだけど? 一緒にって、どこに? なにしに?

幸重 仁太郎

どこか、遊びにだ! 清里、お前のリアルを充実させてやる!

清里 優理子

え……えええぇぇ?!

 俺は清里の腕を引っ張って立ち上がらせて、そのまま公園を出るのだった。












続く

第二話「リア充との出会い」

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