僕は女王様からギーマ老師のところで
修行をしてみてはどうかと勧められた。
これは願ってもないチャンス。
ただ、そのためには
みんなとお別れをしなければならない。
作業室に戻ってからも、
頭の中はそのことで一杯で
調薬に集中できなかった。
そのせいで薬の調薬に何度も失敗している。
いつもならあり得ないような
ミスが原因で……。
僕は女王様からギーマ老師のところで
修行をしてみてはどうかと勧められた。
これは願ってもないチャンス。
ただ、そのためには
みんなとお別れをしなければならない。
作業室に戻ってからも、
頭の中はそのことで一杯で
調薬に集中できなかった。
そのせいで薬の調薬に何度も失敗している。
いつもならあり得ないような
ミスが原因で……。
はぁ……。
自然にため息が出る。
どうするのが一番いいのだろうか?
でも簡単に決められるなら、
こんなに悩むことはないよね……。
考え込んでいるとドアをノックする音がした。
直後、僕が返事をする前に
ドアが開いて誰かが部屋に入ってくる。
トーヤ!
あ……カレン……。
用事は済んだの?
うん、さっきね。
だったらなんで診察室に来ないの?
あたし、待ってたんだからねっ?
え?
あまりにも遅いから、
様子を見に来たのよ!
何か約束してたっけ?
調薬してほしい薬があるって
言ったでしょ!
そうしたら、用事が済んだら
薬の種類を聞きに診察室へ来るって
トーヤが言ったんじゃないのっ!
――あっ!
それを聞いて僕はようやく思い出した。
そうだ、確かにそういう約束をしていた。
例のことで頭がいっぱいで、
ほかのことにまで意識が回らなかったよ……。
……ゴメン、忘れてた。
しっかりしてよ、もうっ!
う……。
それじゃ、調薬してほしい薬の
種類を言うからね?
カレン、
悪いけど今日は調薬できない。
どうも調子が悪くて……。
えっ? 風邪でもひいた?
看てあげよっか?
いや、病気じゃないんだ。
きっと精神が不安定で、
調薬がうまくいかないんだと思う。
っ!?
カレンは小さく息を呑んで机の上を見やった。
そしてそこにある、
調薬に失敗した液体や散らかったままの道具、
乱雑に置かれた薬草類に気付いて
眉を曇らせる。
……トーヤ、何があったの?
あ……えっと……。
何もなかったら、
こんなことにはならないでしょ。
実はね……。
僕は女王様とした話の内容を
カレンに打ち明けた。
すると全てを聞き終わった彼女は、
真顔で僕を真っ直ぐ見つめてくる。
よく見てみると、
かすかに唇や握った拳が震えている。
急な話だし、
やっぱりショックを与えちゃったかなぁ……。
それでトーヤは
どうするつもりなの?
分からない。迷っているんだ。
迷ってるって、どうして?
だってトーヤにとって、
これはすごくチャンスなのよ?
うん、それはそうなんだ。
ギーマ老師のところで
修行ができれば、
勉強になるのは確かだと思う。
だったら迷うことなんて
ないでしょ?
でもそのためには、
ここを離れなければならない。
カレンともしばらくは
お別れしないと
いけなくなるんだよ?
バカっ!
あたしのことなんて
どうでもいいのっ!
トーヤがどうしたいのか、
それが一番大事でしょっ!
どうでもいいわけないよっ!
そんなことも分からないなんて、
バカはカレンだっ!
っ!?
僕にとってみんなは
なによりも大切な存在なんだ。
僕は……みんなと……
カレンとお別れしたくないよ……。
僕はいつの間にか涙が零れていた。
王城で優しくしてくれたみんな――。
その思い出がどんどん浮かんできて、
感情が抑えきれなくなって
しまったんだと思う。
王城へ来たばかりのころ、
僕は下民出身だからということで
裏では今よりもヒドイ仕打ちを受けていた。
でもカレンは初めて会った時から
僕を温かく迎えてくれた。
カレンはなんとも思っていないかも
しれないけど、
僕はすごく救われたんだよ?
あの時から僕はキミのこと、
誰よりも大切に思っているんだ……。
照れくさいし、僕は意気地なしだから、
決して本人の前では言えないけど。
…………。
……分かった。
だったらあたしも
トーヤと一緒に行くわ。
へっ?
今、なんて言ったの?
一緒に行くって聞こえたんだけど?
僕が目を丸くしていると、
カレンはフッと頬を緩めた。
さすがにデリンさんたちは
王城を離れるわけには
いかないでしょ?
だからせめてあたしは
トーヤについていってあげる。
それなら少しは寂しくないでしょ?
医者のあたしとしても、
ギーマ老師には学ぶことが
多いでしょうし……。
で、でもお城のお医者さんが
足りなくなっちゃうよ!
大丈夫。
あたしの代わりになる医者なんて
いくらでもいるんだから。
でもトーヤにとって、
あたしはあたししかいない。
あ……。
それにあたしにだって……
トーヤの代わりは……
いないし……。
トーヤさえ良ければ……
あたしはどこにだって
ついていくから……。
頬を赤く染めながらクスクスと微笑むカレン。
それを見た瞬間、僕の心臓は大きく脈動した。
嬉しくてドキドキして、
体の奥が燃えるように熱い。
こんな感覚、初めて感じるかもしれない。
――カレン、一緒に来てくれる?
もちろんよっ!
僕の進む道は決まった。
もう心の中に迷いなんてない。
不安もあるけれど、
カレンと一緒なら乗り越えられるさ、きっと!
次回へ続く!