やがて前方に王室の扉が見えてきた。
横には怖そうな衛兵さんが2人立っている。

僕はその人たちに近付いて声をかける。
 
 

トーヤ

あ、あの……薬草師のトーヤです。
女王様から呼び出しを
受けたのですが?

……知らんな。
我々は何も聞いていないぞ?

トーヤ

えっ?
でもデリンさんが――

女王様はお忙しい。
貴様のような身分卑しい者を
相手にしている暇など
あろうはずがない。

下がれ、下民が!

トーヤ

……っ!

 
衛兵さんたちは冷たい瞳で
僕を見下ろしていた。

まるで汚いものでも見るかのような視線。
僕が涙を我慢しながら唇を噛むと、
2人は口元を緩めつつクックと喉の奥で笑う。



……この人たち、
僕が女王様に呼び出されたことを
本当は知っているんだ。

でも僕が下民出身だからって差別してる。
きっと僕を女王様に会わせないつもりだ。
 
 

トーヤ

くっ……。

 
僕は拳を握りしめ、
衛兵さんたちを睨み付けた。
でも2人は全く意に介していない感じだ。

下民だから力も魔法もなくて、
もし抵抗されても
軽くあしらうことができると思っているんだ。



でも僕だって諦めずに戦えば
乗り越えられることがあるんだって、
常闇の森への旅で知った。

――今までのように、
簡単に引き下がってたまるもんか!
 
 

トーヤ

女王様に会わせてください。

ダメに決まっているだろう。
さっさと立ち去れっ!

トーヤ

嫌ですっ!
ここを通してくれるまで
僕はこの場を動きませんっ!

な、なんだとっ!?
牢屋にぶち込むぞっ!

トーヤ

女王様っ! 女王様ぁ~!
トーヤですっ!

バ、バカっ!
騒ぐんじゃないっ!

 
衛兵さんたちは
僕が大声を上げるのを見て狼狽えた。

顔色は真っ青で、
かなり慌てているのが分かる。
僕を止めようとするけど、
捕まらないようにその手を避けるように動く。


あんなにけたたましい音を立てて、
自分たちも騒ぎを大きくしていると
いうことに気付いていないらしい。

それだけ冷静さを失っているのだろう。
 
 

トーヤ

女王様っ、女王様っ!

くっ、くそっ!
黙れ、下民のガキがぁっ!

 
衛兵の1人が腰に差していた剣を抜いた。
その切っ先を僕に向けてくる。
 
 

トーヤ

ヒッ!

お、おい、
さすがにそれはまずいぞ……。

ふんっ、
下民のガキを殺したところで
誰も文句は言わんさ。

おい、クソガキ! 命乞いをしろ!
そうすれば
見逃してやってもいいぞ?

 
こ、この程度で屈して堪るかっ!

怖いけど、ここで退いたら僕の負けだ!
そんなのっ、絶対に嫌だっ!!!!!


僕はお腹に力を入れ、衛兵さんを睨み返す。
 
 

トーヤ

ぼ、僕は命乞いなんてしません!

生意気なぁあああぁっ!

 
衛兵さんが僕に向かってこようと身構えた。

万が一に備え、
僕も腰に差しているナイフに手を添える。




――その時だった!
 
 
 

ミューリエ

何を騒いでいるっ!?

 
不意に扉が開き、女王様がお見えになった。
そして僕たちを鋭い視線で睨み付ける。

その迫力と威圧感で
僕はすくみ上がってしまった。

衛兵さんたちも目を丸くして動きを止める。
 
 

ミューリエ

……何があった?
なぜ剣を抜いている?

あ……いえ……
怪しい気配を感じまして……。

ど、どうやら
気のせいのようでございました。
あはははは……。

ミューリエ

……そうか。

 
女王様は衛兵たちをギロリと睨み付けたあと、
僕の方へそのままの視線を向けてくる。

その瞬間、全身に寒気が走り、
奥歯が震えて止まらなくなってしまう。


でもすぐに僕には
柔らかな笑みを向けてくれた。
ひとまず安心だけど、
まだ胸がドキドキしてるよ……。  
 

ミューリエ

トーヤ、来ていたのか。
呼び出して悪かったな。
王室へ入ってくれ。

トーヤ

は、はいぃ……。

 
女王様が見守る中、
僕は恐る恐る王室へ入った。

そこはまだ通路になっていて、
ここをさらに奥へ進んだ先が
執務室になっている。


僕は先にゆっくりと歩いていく。
 
 

ミューリエ

お前たちは引き続き
見張りを頼むぞ。

はいっ!

 
後ろから衛兵さんの
恐縮しきった声が聞こえてきた。

その直後、扉が閉まる音がフロアに響き渡る。
 
 

ミューリエ

トーヤ!

 
振り向くと女王様が駆け寄ってきていた。
僕は足を止め、その場で待つ。

そして女王様は僕に追いつくなり、
深々と頭をお下げになった。


――うわうわっ、恐縮しちゃうよっ!
 
 

トーヤ

あ、あの……。

ミューリエ

……トーヤ、
衛兵たちの非礼を許してくれ。
何があったのか、
だいたいの想像はつく。

トーヤ

そ、そんなっ、
女王様は何も悪くないですよっ!

トーヤ

僕に力がないのが
悪いわけですし……。

ミューリエ

お前は何も悪くないだろう。
自らの城の中でさえ、
統率のできない私に
全ての責任がある。

ミューリエ

こんな時、自分の力不足を
痛感させられる……。

トーヤ

あ、あのっ、
もうこの話はやめませんかっ?

トーヤ

キリがないですよ。
それにきっと誰も悪くないんです。
僕だって
そんなに気にしてませんし。

ミューリエ

……そう言ってくれると
私も救われたような気分になる。
ありがとう。

トーヤ

それで僕に何かご用ですか?

ミューリエ

それについては執務室で
ゆっくりと話そう。
よいな?

トーヤ

はいっ!

 
こうして僕たちは
執務室へと向かったのだった。


――それにしても、話って何だろう?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第19幕 引き下がるもんかっ!

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