王城へ戻った僕たちは、
それぞれ行動を開始した。
 
 
僕は作業室で高等治癒魔法薬の調薬。
その間にカレンはクレアさんの診察をして、
治療のための準備を色々と整えているみたい。

セーラさんは王城内の工房を使って
フォーチュンやレイピア、
バトルアックスのメンテナンスをしている。

タックさんは王城に着くなり、
女王様のところへ向かった。
きっと今回の顛末の報告に行ったんだろう。
 
 
 
 
 

トーヤ

よしっ、無事に完成したぞっ!

 
完成した薬を、
僕はいくつかの瓶に詰めていった。
カレンから依頼された量を確保して、
残った分は今後の治療のために保管しておく。

ストックがあれば、
また必要になった時にすぐ対応できるからね。
 
 

トーヤ

ん? はい、どうぞ。

デリン

よぅ!

トーヤ

デリンさん。

 
ノックをして部屋に入ってきたのは
デリンさんだった。

庭や食堂、
街の中などで会うことはよくあるけど、
作業室にやってくるのはすごく珍しい。

しかも今の時間帯は、
まだ仕事中のはずだけど……。
 
 

デリン

薬はできたのか?

トーヤ

えぇ、たった今。
これからカレンのところへ
持っていきます。

デリン

そうか、
完成したのならなによりだ。

デリン

今回の件では、
色々と大変だったらしいな。
でもこうして戻ってきたんだから
大したもんだ。

 
デリンさんは微笑みながら僕の背中を叩いた。

力が入りすぎていてちょっと痛いけど、
そんなに嫌な気はしない。
 
 

トーヤ

僕だけの力じゃありませんよ。

トーヤ

それより、何かご用ですか?
怪我でもしたんですか?

デリン

ははは、そうではない。

トーヤ

では、なぜ作業室へ?

デリン

女王様からのことづてだ。
クレアの治療が無事に終わったら、
王室に来てほしいそうだ。

トーヤ

えぇっ!? 女王様が僕をっ?

デリン

詳しくは俺も知らんが、
お前に話があるみたいだな。

デリン

確かに伝えたからな。
俺は仕事に戻る。
近いうちに飯でも食いながら
今回の冒険譚を聞かせてくれ。

 
デリンさんは用件を僕に伝えると、
作業室を出ていった。
もう少し詳しく状況とか情報を
聞きたかったんだけど……。


――女王様、
僕に何の話をするつもりなんだろう?



ま、まさか薬草師をクビにするとか?

で、でも、最近はそこまでの失敗なんて
していないはずだし……。
 
 

トーヤ

う……不安だなぁ……。

 
僕はソワソワしつつも、
完成した薬を届けにカレンのところへ
向かうことにした。
 
今は考えたって仕方ないもんね……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

カレン

これでいいはずだわ。
あとは安静にしていれば、
数日中にも良くなるでしょう。

クレア

…………。

 
レインさんやタックさんが見守る中、
カレンによるクレアさんへの治療が終わった。

ベッドの上で眠っているクレアさんの顔色は、
治療前と比べるとすごく良くなっている。

穏やかな表情で、静かな寝息を立てている。
 
 

レイン

良かったっ!
これでひと安心ねっ!

タック

だな~♪
これもカレンやトーヤ、
それにセーラが頑張ったおかけだ。

レイン

私の護符も役に立ったでしょ?
私も褒めなさいよー?

タック

へいへい、すごいな。

 
タックさんは完全に棒読みだ。

表情も呆れ返っているような感じで、
全然心がこもっていない。

当然、レインさんは頬を膨らませる。
 
 

レイン

なぁに、その態度ぉ?

カレン

レインさん、本当に助かりました。
あの護符がなかったら
私たちは……。

 
タックさんに代わり、
カレンがすかさず感謝の気持ちを述べた。

そして胸に迫ったような瞳で
レインさんを見つめる。
 
 

レイン

……ふふっ、どういたしましてっ♪
カレンたちが無事で良かったわ。
役に立ったのなら光栄よ。

レイン

――さて、
クレアは私が看ているから
みんなはお仕事に戻ったら?

レイン

しばらく留守にしていたから、
色々とやらなきゃいけないことが
あるんじゃないの?

カレン

では何かあったら
連絡してください。
私は診察室でほかの患者さんたちの
診察をしていますので。

タック

オイラはセーラの様子を
見にいってくるよ。

レイン

暇人はお気楽でいいわね~。

タック

オイラだってそのあとに
やる仕事があるんだ!
暇ってわけじゃねぇよ!

レイン

あはははっ、冗談よっ♪
さっさと行きなさいって。

タック

ったく……。

カレン

トーヤは作業室に戻るんでしょ?
ストックが減ってきた薬の調薬を
頼みたいんだけど?

トーヤ

……あ、僕、
少し用事があるんだ。

カレン

用事?

トーヤ

うん、ちょっとね。
そのあとでもいい?

カレン

えぇ……まぁ……。
至急ってわけじゃないから。

トーヤ

用事が済んだら診察室へ行くよ。
作る薬はその時に教えてね。

 
僕はカレンにそう伝えると、
クレアさんの眠る部屋を出た。
 
そのまま女王様のいらっしゃる王室へ向かう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――すごく緊張するなぁ。

王室へと続く通路を歩いているだけで
身が引き締まる思いだ。
背筋だって自然に伸びちゃう。


女王様とお会いする機会は滅多にないし、
こうして個別に呼ばれることなんて初めてだ。

アレスくんを通じてお互いに面識はあるけど、
気の置けない間柄とまでは
なっていないからなぁ……。
 
 

 
 
 
次回へ続く……。
 

第18幕 女王様からの呼び出し

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