オオカミとの戦闘が終わってから
しばらくして、
カレンは僕たちに合流した。

彼女は明るく微笑みながら――
 
 

カレン

もう大丈夫!
さっきは怒鳴ってゴメンねっ♪

 
――なんて言っていたけど、
やっぱり気になってしまう。

だって目の周りが赤くなっていたし、
少し鼻声だったから。
つまりかなり泣いていたってことだもん。


それでスッキリしたのならいいんだけど、
もし心にモヤモヤを抱え込んだままなら、
ちょっと心配だなぁ……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
それから数時間後、
僕たちは常闇の森の入口に到着した。

ただ、日没の時間がすぐに迫っていたため
この日は森の探索をせず、
街道の脇で野宿をすることになった。



そして薪を集めて火を焚いたり、
食事の準備をしたりしているうちに
空はすっかり暗くなっていたのだった。

食事を終えたあとは、
交代で見張りをしながら休むことになる。


見張りの担当は
深夜までがカレンとセーラさん、
そのあとは朝まで僕とタックさんだ。

疲れていたせいか、
僕は横になってすぐに眠ってしまっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

あ……。

タック

ん? 起きたみたいだな。

 
僕が手で目を擦りながら起き上がって
見てみると、
タックさんは焚き火の前に座って
お茶を飲んでいた。

周りを見回してみると、
カレンとシーラは毛布を被って
横になっている。
虫の鳴き声に混じり、寝息が聞こえてくる。



――え?

つまりとっくに見張りの交代時間は
過ぎているってことっ!?
 
 

トーヤ

あのっ、タックさん。
もしかして僕、寝坊をしたんじゃ?

タック

ははは、気にするな。
ほんのちょっとだ。

トーヤ

すみません……。

タック

お前もお茶を飲むか?

トーヤ

あ、いただきます。

 
僕がそう答えると、
タックさんは焚き火に掛けていた
ヤカンを手に取って
空いていたカップに注いだ。

するとカップから湯気が立ち上り、
香ばしい匂いが漂ってくる。
 
 

タック

コイツを飲むと
少しは眠気が抑えられる。

トーヤ

へぇ、そうなんですか。

 
カップを覗きこむと、
そこに入っていたのは真っ黒の液体だった。
今までに見たことがないお茶だ。

僕は早速、それを一口啜る。
 
 

トーヤ

う……苦いですね……。

タック

慣れれば美味く感じるようになる。
それによく味わうと
酸味やうま味もするはずだ。

 
試しにじっくりと味わってみると、
確かに複雑な味がした。

すごく奥深くて、うまく表現できないなぁ。
 
 

タック

コイツはある木の種を炒って
それを煎じたものだ。
眠気を抑える効果のほかに、
南方の一部地域では
精神安定の薬として使われている。

トーヤ

そうなんですか?
僕の知らない薬が
まだまだたくさんあるんですね。
薬草師として
未熟さを実感します……。

タック

よりレベルの高い薬草師になるには
もっと知識や経験を得ないとな。

トーヤ

はいっ、努力します!

タック

でもな、
賢者と呼ばれているオイラでさえ、
知っていることよりも
知らないことの方が多いんだ。

タック

それだけ世界は広くて複雑で
不思議なもの。
きっと全てのことわりが
理解されることはないだろう。

タック

だから知らないことを
恥じる必要はない。
でも知ろうとする気持ちだけは
忘れるな?

トーヤ

分かりましたっ!

タック

いい返事だ。

トーヤ

早速ですけど、
このお茶の原料と製法について
教えていただけますか?

タック

よし、任せておけっ♪

 
こうして僕は明け方まで、
タックさんからお茶や色々な植物について
教えてもらった。

もしかしたら植物の知識だけなら、
薬草師である僕よりもタックさんの方が
詳しいかもしれない。

これで薬の製造技術まであったら、
王城での僕の存在意義が
なくなっちゃうところだよ……。


僕は薬草師といっても、
本当に駆け出しなんだなぁと
思い知らされてしまった。

――もっともっと努力しなきゃ!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
朝になり、
カレンとセーラさんは目を覚ました。
そのあと僕たちは朝食を済ませ、
荷物をまとめると森へ材料の採取に向かう。



人魂草とホタル草、破邪華の根は
森の中を少し歩き回っただけで
すぐに見つかった。
これは常闇の森の環境なら生育しやすいので、
予想通りなんだけどね。


問題となるのが魔樹の実と地獄茸、
悪魔カエデの樹液。

まず魔樹の実は
樹木型のモンスター『トレント』の
一種である『魔樹』になる実だ。
つまり魔樹の隙を見て実を取るか、
戦闘で倒さなければならない。

まれに地面に落ちていることもあるけど、
そんな偶然はなかなかないからね。


地獄茸は倒木に生えるキノコなんだけど、
条件が整っていないと生えないので
何か所も見て回らないと見つけられない。


一番厄介なのは悪魔カエデの樹液。
その木のウロに住んでいる
デビルペッカーという
キツツキ型モンスターが凶暴で、
木に近付くだけで確実に攻撃を受けてしまう。
 
 

カレン

さて、次は何を採取しに
行きましょうか?

タック

魔樹ならオイラが交渉して、
実をもらってやるよ。
エルフであるオイラなら
それが可能だ。

カレン

本当ですかっ?
それは助かります。

セーラ

ではでは、みんなで行きましょ~。

タック

ここはオイラに任せてくれ。
魔樹を警戒させないためにもな。
特にセーラが一緒だと
絶対に揉めごとになる。

セーラ

どうしてですぅ?

タック

トレント族は火や斧を嫌う。
セーラはバトルアックスを
持っているだろ?

セーラ

そういうことですかぁ。
納得ですぅ。

トーヤ

じゃ、僕たちは地獄茸と
悪魔カエデの樹液を探します。

タック

よし、そっちは任せた。
日没になったら
またここへ集合しよう。

トーヤ

分かりました。

 
こうして僕たちはタックさんと別れ、
地獄茸と悪魔カエデの樹液を
探すことになった。

まずはどちらを先にしようかな……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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