僕は渾身の力でフォーチュンを振り下ろした。
僕は渾身の力でフォーチュンを振り下ろした。
いっけぇえええぇっ!
放たれた小石は、
唸りを上げるかのようなスピードで
オオカミに向かって飛んでいった。
その速さは、
手で投げるのとは比べものにならない。
そして小石は目標から少しズレたものの、
オオカミの胴体にヒットするっ!
ぎゃんっ!
や、やった……。
やったぁっ! 当たったぁ!
間髪を入れず、
倒れ込んだオオカミに向かって
タックさんが矢を放つ。
うりゃぁっ!
矢は空気を切り裂き、
真っ直ぐオオカミへ向かっていった。
そのまま命中するのかと思ったんだけど、
わずかに逸れ、
オオカミの顔をかすめて地面に突き刺さった。
――あぁっ、惜しいッ!
ただ、僕たちの攻撃に恐れをなしたのか、
そのオオカミが大きく吠えて、
全頭が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
逃がさないからっ!
カレンは一番近くにいたオオカミを
追いかけようとする。
でもタックさんがすかさず彼女の腕を掴み、
それを止めた。
その表情はいつになく怖い感じだ。
深追いは禁物だ。
無事に切り抜けられたんだから、
いいじゃないか。
でもっ!
あいつらに知恵があるとは
思えないが、
もしこれがワナだったらどうする?
もっと多くの頭数で
待ち構えているかもしれない。
そうなったら助からないぞ?
う……。
その言葉を聞くと、
カレンは口ごもって追おうとするのをやめた。
するとタックさんは胸をなで下ろし、
大きなため息をつく。
血気盛んなのはいいが、
もう少し冷静に状況を判断しろ。
戦闘の目的は
敵を倒すことじゃない。
自分、それと仲間の身を守るために
戦うんだ。
っ!
倒すことが目的の戦闘だって
もちろんある。
でも少なくとも今回は違っただろ?
あのあのぉ、
兄貴は矢をわざと
外したんですよねぇ?
えぇっ?
そうだったんですかっ!?
ふふ、セーラは気付いていたか。
えぇ、もちろん。
兄貴と弓矢は
呼吸がピッタリでしたからぁ。
つまりアレは狙ってあの位置に
放ったということですぅ。
試してみただけさ。
もしあれでも怯まないようなら、
第2射は確実に
当てるつもりだった。
…………。
すごいや、タックさんはそこまで考えて
戦っていたなんて。
弓の腕がすごいのは当然だけど、
瞬時の判断力も的確だ。
さらに魔法まで使えるんだもんね。
アレスくんと一緒に
ノーサスと戦ったというのを実感できたよ。
僕はこんなにすごい人と一緒に
旅をしているのか……。
それにしてもトーヤ、
初陣にしてはよくやったな。
ちゃんと命中したじゃないか。
は、はいっ! なんとかっ!
しかも狙ったのは
群れのリーダーだ。
あの判断は素晴らしいぞ。
オイラはそれを一番評価する。
あ、ありがとうございますっ!
欲を言えば、
攻撃を放ったあとに
次の攻撃の
準備をしてほしかったな。
命中したことに喜んで、
何もしていなかったからな。
これから気をつけますっ!
…………。
先に行きます……。
そうポツリと呟くと、
カレンは1人で先に歩いて行ってしまった。
なんだか声に元気がない。
もしかしたらタックさんに叱られて
落ち込んでいるのかも。
ま、待ってよ、カレン!
慌てて引き留めようとすると、
カレンは僕たちの方に背を向けたまま
立ち止まった。
……ごめん、トーヤ。
少し1人になりたいの。
えっ?
あたしは大丈夫だから。
いざとなったら
魔法だって使えるし。
でも、そんな状態で――
1人にしてって言ってるでしょ!
突然、カレンはこちらに振り向いて怒鳴った。
眉をつり上げつつも、
瞳には涙の粒が輝いている。
奥歯を噛みしめ、
握られた拳は小刻みに震えていた。
くっ!
カレンはそのまま先に走っていってしまった。
僕はどうしたらいいのか分からず、
呆然とその背中を見つめる。
セーラ、
悪いがカレンを追いかけて、
気付かれないように
見守っててやってくれないか?
分かりましたぁ。
セーラさんは頬を緩めて返事をすると、
カレンのあとを追った。
この場には僕とタックさんが残される。
カレン……。
あとはあいつが今回のことを
どう捉えるかだな。
ここから先は本人次第だ。
トーヤ、
お前もカレンもまだ若い。
失敗だってたくさんするだろう。
でもみんな、
そうやって成長していくんだ。
魔族はほとんど
成長をしませんけど?
それは能力的なことだろ。
オイラが言っているのは
精神面のことさ。
魔族であっても精神は成長する。
そして成長するということは、
無限の可能性を秘めている
ということでもあるんだ。
可能性……。
お前らは戦いでも人生でも
スタートラインに
立ったに過ぎない。
全てがこれからなんだ。
色々なことを経験して、勉強して、
少しずつ進むべき道を決めていけ。
お前がどんなゴールを目指すのか、
オイラは楽しみにしているからな?
タックさんは優しく微笑みながら
僕の肩をポンと叩いた。
その眼差しはお日様のように温かい。
どんなゴールを
目指すのか、か……。
そんな難しいこと、
今まで考えたこともなかった。
だからこれからどうしていくのか、
どうすればよいのかがまだよく分からない。
今までは目の前にある物事を
夢中でこなしてきただけだったから……。
――いつか僕にも目指すべきゴールが
見つけられるのかな?
でももしそうなったら、
きっと素敵なんだろうなと僕は思った。
次回へ続く!