舞い散る桜の下で

経次郎

満開だね。

桜は満開を少し過ぎたころ。

桜色の世界で、ちらちらちらちら、花びらが舞っていた。

桜の精霊

わ~いw わ~いw

桜の精霊

いらっしゃ~い。

桜の精霊

待ってたよ~、
おふたりさ~ん。

慶子

……。

桜の精霊

桜の精霊

お三人さん、
ご来場~。

静香

居酒屋か!

そのままふたり……、だけじゃなかったけど、おまけのようにいる弁慶と桜の精霊たちと歩いた。

桜の精霊

きゃっぽーいw

桜の精霊

ひらひら、ひらひらw

桜の精霊

ひらりんりん~w

満開になっていたからか、

静香

こないだよりも、
数が多い。

桜の精霊

はらはら、ひらひらw

桜の精霊

らんら、らんら~w

経次郎

綺麗だね。
桜……。

静香

そうね……。

確かに、桜は綺麗で……。

経次郎

夢みたいだな。
静香とこうして、桜、観れるなんて。

桜の精霊

でしょっ、でしょっ

桜の精霊

ボクたち
夢みたいに綺麗でしょっ

静香

綺麗は綺麗なんだけど……。

慶子


これもいるし。

桜の精霊

さあ、存分に、
我らを愛でるがよい~w

桜の精霊

がよい~。

桜は、これでもかと舞い散っていた。

桜の精霊

きゃいっ、きゃいっ

経次郎

うわっ

ヤツの周りに桜が溢れる。

桜の精霊

どうだw
美しかろうw

桜の精霊

ぞんぶんに
楽しまれよ~w

桜の精霊

なんのっ

桜の精霊

ふふふっ

花びらが、クルクル回って。

静香

思ってた以上に
自己主張が激しいな……。

桜の精霊

ふふふっ、ふふふ。

静香

でも、
ホントに綺麗……。

桜の精霊

えへんっ

桜の精霊

えへんっ!

経次郎

やっと
笑ってくれた。

静香

え?

桜の精霊

ふふっ

経次郎

あ……
戻った……。

桜の精霊

気にするでない。

桜の精霊

照れておるだけじゃw

桜の精霊

けじゃっ

経次郎

そっか。

静香

今、
精霊に返事した?

見えるの、私だけじゃないんだ……。

桜の精霊

心が澄んでいる者には
我らが見える。

静香

心、澄んでるのか?
あいつ……。

経次郎

……。

なんか、胡散臭そうなんだけど……。

桜の精霊

そうでなくても見えるよ。

桜の精霊

これ、
それを言うでない。

桜の精霊

ダメなの?

桜の精霊

ありがたみの問題じゃ。

静香

そんなもん
気にしてんじゃないわよ。

桜の精霊

ぴゃっ!

ひらひらと、桜の花びらが精霊ごと飛んでった……。

桜の精霊

あ~れ~。

桜の精霊

ま~w

経次郎

慶子、ちょっと、
あっちに行っておいで。

そう言って、ヤツは周りにいた花びらをかき集め、弁慶の手のひらに乗せる。

慶子

……。

桜の精霊

わ~いw

桜の精霊

ひゃっほ~w

たくさんの桜の精霊が、弁慶のいたるところに現れた。

静香

ゴスロリに
似合いすぎる……。

桜の精霊

ひゃっほっw

経次郎

みんなといれば、
淋しくないだろ?

慶子

……。

とうなずいて、

慶子

私とおしゃべりしてよっか。

と、弁慶は桜の精霊たちに言う。

桜の精霊

きゃい

桜の精霊

きゃい

静香

誰ですか?
あれ……。

慶子

えへへっ

と、弁慶が遠ざかる。

静香

変わりすぎだろ!

弁慶

殿をお守りできるは
恐悦至極にございます。

静香

わりと
イケメンだったのに……。

どうでもいいんだけど、いいのか?
イケメンが、ゴスロリになって……。

静香

ごっつい俳優が演じてること多いけど、
弁慶、イケメンだったのに……。

弁慶が遠ざかると、精霊たちもいなくなった……。

静香

ひとりくらい、
残っててもよかったかも……。

桜の精霊

呼んだ?

静香

……って、
現れられても。

いないと淋しいけど、いると面倒?

桜の精霊

ぴょっ!

経次郎

静香?

静香

弁慶、
別人みたいね……。

経次郎

うん……。
普段は、かわいいよ。

静香

……。

経次郎

あ……、でも、
ボクが好きなのは
静香だから。

静香

……。

静香

え?

経次郎

あ……。

経次郎

やば……、
かわいすぎ……。

経次郎

ボクは昔から
好きな女の子は静香だけだよ。

静香

女の子……。

引っかかるんですけど……。

経次郎

好きな子は……。

言い直したよ……。

静香

いや、それだとまだ
「年下では」って
逃げ道があるぞ……。

経次郎

静香
大好きだよ。

ああ、まあ、これならいいのかな?

静香

いや、騙されるな。まだ、他に
逃げ道があるんじゃないか?

桜の精霊

それはもう
よかろうて……。

桜の精霊

返事、
しなくていいの?

返事?

経次郎

静香?

静香

何よ!

経次郎

静香は、
ボクのこと嫌い?

静香

いつ私があんたのこと嫌いだって言ったのよ!

あれ?
これでいいのか?

桜の精霊

顔、怖い……。

静香

え?

経次郎

うん。

静香

嫌いじゃ……ない。

返事って、そのこと?

静香

ってか
好き……。

経次郎

よかった。

桜の精霊

あれでいいの?

経次郎

うん。

経次郎

付き合っても
いい?

静香

しょ……、しょうがない
……わね。

え?
ちょっと、何よ、それ、どういうこと?

静香

てか、
なんでもっと早く
それ言ってくれないわけ?

静香

私は妻だったんだからね。
なんで今さら言うのよ。

なんで、こんなこと言ってるんだろうって、自分が一番そう思ってるのよ……。

経次郎

ん……。
前世関係なく、
出会いたかったんだよね。

経次郎

だって、もう
義経と静御前じゃないから。

経次郎

だから、
お付き合いから。

静香

あ……。

静香

そっか……。

ここから、
はじめればいいんだ。

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

よかったよかった~。

経次郎

なんかこう、
偶然会って、恋に落ちるみたいな?

静香

…………。

なんだそれは……。

経次郎

そういうの
やってみたくない?

いや、そういうもんなの?
前世の記憶って……。

静香

じゃあ、義経だと思って
聡士と付き合ってた私って……。

経次郎

でも、出会いなんて、
どうでもいいし。

そう言って、ヤツは私の手を握った。

静香

!!

経次郎

あ、かわいい……。

そして、彼は桜並木を歩き出した。
私と一緒に……。

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

静香

なんで三々七拍子?

静香

あ、応援してくれてるのか?

そっか……。

慶子

……。

弁慶が戻ってきた。

静香

ってか、なんで弁慶は
まだべったりしてんの?

時代が違うんだから、一緒じゃなくてもいいじゃない。

経次郎

えっと……、
慶子は……。

と、ヤツが何かを言いかけていると、

桜の精霊

どぉ、どぉ?

と、弁慶について行っていた桜の精霊たちが、あっと言う間に戻ってきてしゃべりだした。

桜の精霊

めでたく
付き合うことに。

桜の精霊

ほぉ~w

桜の精霊

よかった、よかったw

桜の精霊

我らも長き時を
見守っていた甲斐があったというものw

静香

まさか……。

桜の精霊

そのまさかじゃ。

桜の精霊

800年前から
おぬしらを見守っておったのだ。

桜の精霊

だ~w

静香

ソメイヨシノは
江戸時代からでしょ……。

この遊歩道に咲いていたのは、ソメイヨシノだった。

桜の精霊

ぴょっ!

桜の精霊

その頃は
山桜にだな。

桜の精霊

おったのだっ!

静香

ホントかよ……。

慶子

殿、わたくしは
同意しかねます。

急に弁慶が、弁慶になった。

静香

さっきの
ゴスロリ、どこ行った?

経次郎

……。

経次郎は困ったように弁慶を見る。

経次郎

慶子、性格、
どっちかに固定しよっか……。

慶子

なれば、
しばしこちらで。

経次郎

そっちなわけ?

桜の精霊

ぴぃ……。

慶子

前世でようやくこのおなごと
縁が切れましたのですぞ。

慶子

現世でそれをまた結ぶ
必要はございませぬ。

桜の精霊

反対される二人、
きゃっ。

うるせーよ……。

経次郎

だって、
約束してたから。

桜の精霊

……。

経次郎

「また会える」
って。

吉野の悪夢、ふたたび……。

慶子

ですが……、

静香

ちょっと待ちなさい。

経次郎

ん?

桜の精霊

……。

桜の精霊

……。

静香

あんた、
前世でそれ言った時、

静香

いつ会うつもりでいた?

経次郎

いつ……?

静香

私はあの時代で
すぐに会えるって
解釈してたんだけど。

経次郎

ん~。

経次郎

ボク、当時から
予知能力みたいなのがあってさ。

慶子

確かに殿は
神がかっておいででした。

静香

何の話、
はじめたのよ!

経次郎

合戦の時もなんだけど、
「行けそう!」って思うと、
行けちゃったんだよね。

慶子

そうでしたか。

慶子

さすがは殿にございます。
常人離れしていらしたはずです。

静香

カンだけで
平家倒したってこと?

前(前世)からおかしいとは思ってた……。

静香

こんなに
のほほんとしたヤツが

「強い」って思えないんだけど……。

経次郎

吉野山で、
思ったんだ。

義経

きっと、彼女とは
また会える。

義経

来世で必ず……。

静香

はあああああああ?!

経次郎

その通りに
なったし。

静香

じゃあ、私の、

私が会わなければ
彼は生きていられる。

静香

は、何だったのよ!!

桜の精霊

ぴ?

桜の精霊

ぴ?

桜の精霊

ぴぃ~w

桜の精霊たちが、急に顔色を変えて逃げ出した。

静香

そんな不確かなもんに頼ってんじゃないわよ!!

桜の精霊

ぴっ

経次郎

あれ?

静香

そもそも、来世があるかどうかなんてわからないじゃない。

生まれ変わった今だって、次に死んだ時、また生まれ変われるかどうか、わからない。

「記憶がある」

ただ、それだけ。
本当に前世が静御前だったのか、あまりよくわからない。

静香

それに
会える可能性
低いでしょ?

ハンパなく低いぞっ!

経次郎

でも、
会えたよ。

経次郎

ボクのカンの方が
正しかった。

静香

こいつは……。

変わってない。

静香

こういうトコ。

ノリだけで生きてる感じ。

経次郎

キミには
幸せになってもらいたいんだ。

経次郎

前世でボクは
キミを不幸にしてしまったから。

静香

……。

経次郎

ホントは、平和な時代に生まれて、
幸せになったキミを、こっそり見守っていられたらって、思ってた。

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊が、ヤツの肩に現れた。

経次郎

ふふっ

楽しそうに、ヤツは笑った。

経次郎

でも、聡士と付き合うって知って……

経次郎

嫌だなって思っちゃったんだ。

経次郎

静香のこと
好きだったんだって、

経次郎

気づいた。

静香

気づくのが
遅いわよ!

経次郎

気づいたから
付き合って。

軽いっ!
やっぱり軽い、軽すぎよ!!

静香

し、しかたがなく
……なんだから。

静香

そこまで言われたら
しかたがないから

静香

付き合ってあげるって
だけなんだからね。

経次郎

キミはどう思っていても良いよ。
ボクが一緒にいたいだけだから。

静香

あ……。

やっぱり彼だと思った。
同じ言葉、同じ口調……。

静香

前世と同じ意味で言ってたら
ただじゃおかないんだからね。

経次郎

あ~ハイ
大丈夫です。

経次郎

キミもボクのこと
好きってことだよね。

静香

ばっかじゃない?!

それでいいけど、言わないでよ……。

慶子

殿、わたくしは
反対でございます。

慶子

殿ならば
どんなおなごだろうと
より取り見取りではござらぬか。

経次郎

そんなことないよ。
ボク、全然モテないし。

慶子

殿はおモテになります。

経次郎

慶子は面白いことを言うね。

慶子

殿!

静香

なんか
信じられないかも……。

経次郎

静香……。

彼が私の手を握り直す。

静香

あ……。

この先何度生まれ変わっても、記憶がなくなっても……、

彼のことを、
好きでいるのかもしれない。

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

桜の精霊

ぴっ

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