あなたのお名前何ですか?
その2

静香

どうして、
今まで会いに来てくれなかったの?

経次郎

……。

経次郎

忘れてた方がいいと思ったんだ。

経次郎

いい思い出ばかりじゃないから。

彼は笑ったけど、どこか悲しそうだった。

経次郎

怒られると
思ったし。

静香

別に
怒ってないわよ。

経次郎

そう?
怒ってるのかと思った。

静香

生まれつき
こういう顔なの。

経次郎

笑った方が
かわいいと思うよ。

静香

かわいくなくて
悪かったわね。

経次郎

そんなこと言ってないよ。
静香はとってもかわいいよ。

静香

そんなことないから。

経次郎

触れないでおこう……。

経次郎

キミがボクのこと
思い出したのはいつ?

静香

……聡士に会ってから。

勘違いをして……。

でも、聡士にはどこか義経を思い出すような何かがあった。

経次郎

そう。

静香

別に、聡士が好きだったんじゃなくって、あんただって思ったから付き合ってたってだけだから。

経次郎

うん。

……嬉しそう。

経次郎

でも、付き合ってたっていうのは、事実だよね。

静香

……。
…………。

表情は一緒なのに、怖え………………。

静香

私も悪いと思ったわよ。
でも、あんたにそんなこと言われたくないわよ!

静香

まあ、いいけど。
ちょっとは気にしててくれたみたいだし……。

静香

あ……、あんたは、
いつ思い出したの?

静香

……私のこと。

経次郎

小5でこっちに引っ越してきて、
キミを見た時。

静香

小5……?

経次郎

学校に行くようになった、
次の日くらいかな?

家を出て歩いていると、キミが前を歩いていた。

静香

……。

経次郎

あ、かわいい子……。

静香

……。

経次郎

ん?

経次郎

……静?

経次郎

あのしかめた眉、
優美な手足の動き。

経次郎

世の中を斜に構えて見て、
思っていたことは決して口には出さず、

経次郎

でも、旦那のことは
常にののしりさげすみ、
挙句の果てに

好きだし。

経次郎

と言い放つ
脅威のつんデレ。

経次郎

つんデレ界の
究極の最終兵器

経次郎

つんデレ界の
最上位の女神様。

なんだ?
 それは!!

経次郎

間違いない。
彼女はボクの別れた妻、

経次郎

静御前だ。

静香

突っ込みどころが満載過ぎて、
もはや何も言えない……。

経次郎

晴天の霹靂って感じだったな~。

経次郎

それから、キミのことを調べたよ。

静香

やっぱりストーカー?

経次郎

常識の範囲内でだよ。

経次郎

きつかったからね。

経次郎

自分の過去と向き合うのって……。

静香

…………。

経次郎

だから、そんなにしてないよ、
ストーカー。

静香

そんなに……?

静香

この前は、
付きまとってたでしょ?

あの変質者は、こいつなんじゃないか?
義経の時と同じ感じだったし。

経次郎

キミが振られそうだって思ったから、ちょっと心配で……。

静香

なんで振られそうだって
思ったわけ?

経次郎

聡士とたまに話してたから。

静香

はぁ?!

聡士

好きな子できちゃったんだけど、どうしよう。

今カノと別れてから
お付き合いしなさい。

聡士

そうか。そうしよう。

静香

……。

静香

間違ってない、
間違ってないけど……。

経次郎

それで、倉庫前からつけてた。

静香

……。

経次郎

何度か声をかけようとしたんだけど、無理だった。

経次郎

小学校の頃も無理だったんだよね。

通学路でも……。

経次郎

あの……。

静香

……。

学校でも……。

経次郎

あの……。

静香

……。

街中でも……。

経次郎

あの~。

静香

……。

経次郎

あの恐怖がよみがえったよ。

静香

知らなかった……。

経次郎

川に飛び込むんじゃないかって心配したけど、桜の下で舞ってたから。

静香

私の忘れ去りたい過去を……。

経次郎

綺麗だったよ。やっぱり静なんだなって思った。

静香

……。

ま、いっか。

経次郎

声をかけたら逃げられたけど。

静香

やっぱり
あの変質者はこいつか……。

前世と同じことしやがった……。

経次郎

嫌われてるんだなって思って、わからないように様子を見ようって思ったんだよ。

静香

……。

どうしてこいつは……。
嫌ってるわけないでしょ……。

経次郎

それで、なんか柚葉ちゃんと一緒に遊歩道行くみたいだったから、聡士を連れてついていったんだよ。

静香

柚葉ちゃん?!

なんで、聡士の彼女をそんなに親しげに呼ぶわけ?

経次郎

聡士はつかみ合いの喧嘩が始まったらどうしようって心配してたみたいだけど、

経次郎

柚葉ちゃんの言葉に感動したのといたたまれなくなったのとで出て行ってた。

静香

なんで、その後、
連絡くれなかったの?

経次郎

だって、聡士に振られて泣いてただろ

静香

はああああ?!

経次郎

振られて落ち込んでいるところで声をかけるなんて、弱みに付け込んでるみたいで嫌だったんだ。

経次郎

聡士は

聡士

そんなもん気にせずに行け……。

経次郎

って言ってたけど。

静香

男同士でそんな相談してるんじゃない!

やっぱり変わってない、こいつ……。

経次郎

嬉しくないだろ?
そんな告白。

あんたに告白されたら、どんな状況でも嬉しいわよ!

あほんだら!!

静香

あんたはどうして
いつもいつもそうなのよ!

静香

私の気持ちを勝手におかしな風に
ねつ造するんじゃない!

経次郎

え?

静香

私は聡士に振られて
泣いてたんじゃなくって……!

あんたに会えて嬉しかったからよ!

静香

ダメだ。

静香

言うのがばかばかしくなってきた……。

静香

てか、言えるか。
あほんだら……。

経次郎

あ……。

彼は、顔を上げて、この道の先の遊歩道の方を見ていた。

経次郎

綺麗だね、桜

静香

……。

経次郎

行こっか。

静香

あんたが行こうって言ったから
来たんでしょ?

経次郎

うん。

ヤツは嬉しそうに私の隣を歩いていた。

あなたのお名前、何ですか?その2

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