王都を出発した僕たちは、
常闇の森へ向かって街道を歩いていた。
普通のスピードで進めば、
半日くらいで森の入口に着くはずだ。

……もちろん、何事もなければの話だけど。


一応、セーラさんから
フォーチュンの使い方のレクチャーは受けた。
でも練習と実際に戦うのは違う。

やっぱり戦うのは怖いし、すごく不安だ。
 
 
 
 
 

トーヤ

うわぁっ!

 

不意に僕の背中から何かがぶつかってきた。

慌てて振り向いてみると、
そこにはカレンの笑顔があった。
どうやら僕は軽く体当たりを食らったらしい。
 
 

カレン

そんなに暗い顔しないのっ!
大丈夫よ、
あたしたちがいるんだから。

タック

ザコモンスターなら
オイラたちがあっという間に
倒してやるよ~。

セーラ

でもでもぉ、
相手によってはトーヤくんにも
出番を作ってあげてほしいですぅ。

セーラ

フォーチュンの性能を
見たいですし、
使わないと扱いに
慣れませんからぁ。

カレン

……あぁ、それもそうね。
少しは戦い方も
勉強しておかないと
いけないかも。

トーヤ

で、でもどう戦えばいいのか
分からないよ……。

タック

それならオイラが戦況を見て、
指示を出してやるよ。
任せておけ。

カレン

あ、それだと安心ですね。
タックさんは激しい戦いを何度も
経験してきてるんですもんね。

タック

安心しろ、トーヤ。
前で戦うのはカレンとセーラだ。
お前が目立って戦う機会は
あんまりないさ~♪

 

ケタケタと明るく笑うタックさん。
カレンとセーラさんも温かい目で
僕を見守ってくれている。


――そうだよね、
攻撃はあくまでもみんなの補助という
形なんだもんね。

僕のメインは回復担当。きっと大丈夫さっ!
 
 

トーヤ

が、がんばりますっ!

タック

――と、噂をすれば何とやらだ。
モンスターのお出ましだぞ。

トーヤ

えっ!?

 

タックさんは立ち止まり、
真顔になって辺りを警戒した。

カレンとセーラさんは咄嗟に身構えて
自分の武器に手をかける。
 
 

ぐるるるるる……。

 

道の前方へ視線を向けると、
そこには何頭かのオオカミの姿があった。
彼らは低く唸りながら牙をむき出しにして、
僕たちへ敵意を向けている。

周りを見回してみると、
茂みの中からさらに数頭が現れる。
 
 

トーヤ

うわぁっ!
囲まれちゃってるっ!

セーラ

さすがにこれだと
逃げるのは難しいですねぇ。

カレン

むしろあたしがあいつらを
逃がさないわよっ!
残らず葬ってあげるわっ!

 

カレンは鞘からレイピアを抜いて構えた。
表情は凛としていて、すごくカッコイイ。


続いてセーラさんが腰に差していた、
片刃のバトルアックスを手に取る。

重量感のある武器で、
彼女の優しい見た目からは
その使い手だなんて想像もつかない。
 
 

タック

お前ら、単独行動はするなよっ?
標的になっちまうからな!
お互いに背中合わせになって、
全方向からの攻撃に備えるんだっ!

タック

そして飛びかかってきたヤツを
確実に迎撃しろ!

カレン

承知っ!

セーラ

はいですぅっ!

タック

トーヤには防御魔法をかけてやる。
ちょっと待ってろ。

タック

…………。

 

タックさんは何かを呟いた。
すると温かな光が僕を包み込む。
 
 
 

タック

これである程度は
ダメージを軽減できるだろう。

トーヤ

ありがとうございます。

タック

それと今回の相手は
オイラやトーヤが中心になって
攻撃を仕掛けていくぞ?

トーヤ

えぇっ? 僕もですかっ!?
さっきと話が違いますよぉっ!

タック

こいつらみたいに
近寄らせたくない相手には
遠隔攻撃のできるヤツが
メインになった方がいい。

タック

オイラの弓と
お前のスタッフ・スリングで
積極的に攻撃していくぞ。

タック

もしかしたらその攻撃に怯んで
退いてくれるかもしれないしな。

 

タックさんは服の下から小弓を取り出した。

重厚で荘厳な色つやをしていて、
傍目にもよく手入れされているのが分かる。
 
 

セーラ

トーヤくん、
使い方は教えた通りですぅ。
きっとできますよぉ。

カレン

がんばって、トーヤ!
もし飛びかかってくるヤツがいたら
あたしが倒してあげるからっ♪

 

2人の期待に満ちた視線が僕に向いている。


よ、よーしっ!
こうなったら覚悟を決めて戦ってやるっ!
 
 

トーヤ

わ、分かった。
やってみるよっ!

 
 
僕は背中に背負っていたフォーチュンを
手に取った。
そして一度、大きく深呼吸。

すると不思議と心が落ち着いてきて、
やれそうな気がしてくる。


早速、僕は地面に落ちている小石を拾い、
それをフォーチュンの先端に付いている
革の切れ端の部分にセットした。

そのあとはフォーチュンを構え、
標的を定める。
 
 

ううううう……。

 

僕は群れの一番後方にいる、
一回り大きい個体に狙いを定めた。

あの位置なら射程範囲内だし、
近すぎても逆に命中精度が下がるからね。


――うん、
セーラさんに教えてもらったことが
きちんと実行できている。

あとは命中させられれば……。
 
 

トーヤ

いくぞっ!

 

僕はフォーチュンを握りしめ、
それを一気に振り下ろすッ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第9幕 初めての戦闘っ!

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