僕があたふたしていると、
セーラさんはクスッと笑って見つめてくる。
僕があたふたしていると、
セーラさんはクスッと笑って見つめてくる。
武器の種類を言ってくれれば、
お薦めの品物をご紹介しますよぉ。
あ、えっと、僕は今まで
武器を持ったことがなくて……。
ふぇっ?
セーラさんは目を丸くしていた。
でもそれも無理はないよね……。
だって少し前までの魔族社会では
戦うことが日常茶飯事で、
何らかの武器を持っているのが
当たり前だったんだから。
――ただし、
それは逃げることしか選択肢のない
僕たちのような下民を除いての話だけど。
こうなったら、
もう身分のことを話すしかない……。
僕はお腹に力を入れ、意を決して口を開く。
あの……その……
僕、下民だったんです。
……えっ?
トーヤくん、下民なんですかぁっ?
セーラさんは目を白黒させながら
僕を見やった。
……なんだかその視線が心地悪い。
気のせいかもしれないけど、
まるで汚らわしいものでも
見ているかのような気配が感じられる。
身分制度がなくなったといっても、
浸透しきっているとは言えないなぁ……。
トーヤくん、
本当に下民だったんですかぁ?
……はい、事実です。
力も魔法力もなくて。
ちょっと!
今は身分なんて関係ない時代なの!
もしトーヤを差別するなら――
いえ、そういう意味じゃ
ないんですぅ。
トーヤくんから強い力が
伝わってくるんですぅ。
だから下民だったとは思えなくて。
えっ?
もしかしたら、
まだ力が眠ったままなのかもぉ。
ほぉ……。
あと、私は武器以外のことには
あまり興味がありません。
身分なんか気にしませんよぉ。
だからご安心くださいぃ。
セーラさんは優しく微笑んで、
僕の頭を撫でてきた。
なんかいい匂いが漂ってくる。
まるでお姉ちゃんが、
僕を慰めてくれているみたい。
自然と胸がドキドキしてきちゃった。
気持ちいい……。
っ!
トーヤくんの状況は
分かりましたぁ。
力の弱い人でも使える
武器ですよねぇ?
それなら『スタッフ・スリング』は
いかかですかぁ?
おぉっ、それは名案だなっ♪
なんですか、それ?
木製の杖の先端に
投石機を取り付けたものですぅ。
スリングだと自在に操るのに
ある程度の訓練がいりますぅ。
でもスタッフ・スリングは
あまり力はいりませんし、
すぐ操れるようになりますぅ。
回復担当のトーヤは
戦闘で後方にいることが
多くなるだろう。
スタッフ・スリングなら
遠距離攻撃ができるから、
ピッタリのチョイスだ。
ふーん、そんな武器があるんだね。
どんなものなんだろう?
本当に僕にも扱えるのかな?
セーラさん、
実物を見せてもらっても
いいですか?
了解ですぅ。
ちょっと待っててくださいねぇ。
セーラさんはまた店の奥へ入っていった。
ただ、今回はすぐに
品物を持って戻ってくる。
その手に握られていたのは、
1メートルくらいの長さがある木製の杖。
先端は2叉に分かれていて、
そこに革製の切れ端とヒモが
取り付けられている。
これがスタッフ・スリングですぅ。
革の部分に石や金属片をセットして
杖を振り下ろしますぅ。
すると遠心力で石などが
飛んでいくので、
それを標的に当てて
攻撃するわけですねぇ。
へぇ、面白いですね。
多少かさばりますけど、
移動中は背中に背負っておけば
問題ないでしょう。
では、トーヤくん。
どーぞぉっ!
そう言ってセーラさんは
僕にスタッフ・スリングを差し出してきた。
それを僕は両手でしっかりと受け取る。
っ!?
すごい!
なんだろう、この手にフィットする感じは!?
それに不思議と力が沸き上がってくる。
こんな経験、今までにしたことがないッ!!
いかかですかぁ?
セーラさん、
この武器すごいですっ!
持っているだけで、
不思議と力が湧いてきますっ!
体がすごく熱いですっ!!
それに心地よくて最高ですよっ!!!
うふふっ、
よっぽど
気に入ったみたいですねぇ。
もちろんですよっ!
気分が高まってきますっ!
そんなに喜んでくれると、
私も嬉しいですねぇ。
実はそれ、私の作品なんですぅ。
こんなに喜んでくれた人、
初めて見るかもしれません。
名前は付いているんですか?
いえ、それはまだですがぁ……。
そうだ、せっかくですからぁ、
トーヤくんが付けてくださいよぉ。
僕がですかっ!?
はいぃっ!
きっとその子も喜ぶと思いますぅ。
そうだなぁ……。
僕はどんな名前がいいのか、
じっくり考えようとした。
でも頭の中には即座に1つの単語が浮かぶ。
しかもそれはこの武器に
ピッタリの名前だと思う。
これはヒラメキというか、
神様に導かれたかのような気さえする。
それなら『フォーチュン』って
どうですか?
なるほど~♪
あたしも賛成っ!
本当にいい名前ですねぇ。
それでいきましょう。
セーラさんもなんだか嬉しそう。
このスタッフ・スリングも
喜んでくれてるに違いないっ!
よろしくね、フォーチュン!
これで2人とも
買うものは決まったな。
セーラ、代金はいくらだ?
いえ、どちらも差し上げますぅ。
えぇっ? いいんですかっ?
それはいくらなんでも
悪いですよっ!
その代わり、お願いがありますぅ。
フォーチュンを使って戦うところを
私に見せてもらえませんか?
えっ?
トーヤくんとフォーチュン、
その出会いはまさに運命的ですぅ。
私の作品の中で
こんなに相性のいいコンピは
初めて見ましたぁ。
だからきっと、
今後の作品作りの参考に
なりそうな気がするんですぅ。
どうします、タックさん。
タックさんは少し考え込んだ。
そしてセーラさんの表情をじっと観察してから
おもむろに口を開く。
……セーラは戦えるか?
もちろんですぅ!
刀鍛冶の作業などもしているので
腕力だけはありますぅ。
魔法は少し苦手ですけどぉ……。
接近戦ならお任せくださいぃ!
タックさん!
どうかセーラさんを
旅に加えてあげてくださいっ!
お願いしますっ!!
こんなに素敵な武器と
巡り合わせてくれたセーラさんに
恩返しがしたいんですっ!
僕はタックさんに向かって深々と頭を下げた。
そのままの姿勢で返事を待つ。
あたしからもお願いします。
こんなに素晴らしいレイピアを
いただいたんです。
断れないじゃないですか。
トーヤくん、カレンちゃん……。
それからわずかに間が空いたあと、
タックさんの大きく息をつく音が聞こえた。
僕は少しだけ顔を上げて様子を窺う。
するとタックさんはカラカラと、
晴れやかな笑みを浮かべていた。
お前たちがいいんなら、
オイラに異存はないさ。
セーラに邪気はないみたいだしな。
やったぁっ!
ありがとうこざいますっ!
僕はすかさずカレンやセーラさんと
ハイタッチをした。
そして2人と手を繋いで
ピョンピョン飛び跳ねながら喜び合う。
よろしくですぅ!
タックの兄貴ぃ!!
あ、兄貴って……。
でも悪い気はしないな~♪
ふふっ!
僕にピッタリの武器、
そして素敵な仲間と出会うことができた。
これもきっと神様のおかげだ。
――ありがとうございますっ!
さぁ、いよいよ常闇の森へ向けて出発だっ!
次回へ続く!