僕たちは裏通りにある、
セーラさんのお店へやってきた。
外観は古い感じで、
木製の看板は経年による汚れと日焼けで
文字が読みにくくなっている。
辛うじて『ケトル商店』って読めるかな?
店の中は薄暗くて、
営業しているのか不安になるような感じ。
人の気配はなく、静まりかえっている。
商品も陳列されているというより、
雑に積んで置かれているだけだ。
埃がかなり積もっていて、
そばを通るだけで巻き上がってしまう。
僕たちは裏通りにある、
セーラさんのお店へやってきた。
外観は古い感じで、
木製の看板は経年による汚れと日焼けで
文字が読みにくくなっている。
辛うじて『ケトル商店』って読めるかな?
店の中は薄暗くて、
営業しているのか不安になるような感じ。
人の気配はなく、静まりかえっている。
商品も陳列されているというより、
雑に積んで置かれているだけだ。
埃がかなり積もっていて、
そばを通るだけで巻き上がってしまう。
おい、こっちの店も
儲かっているようには見えないぞ?
武器を売る気が
まるで感じられない。
なんで生活できているのか、
ますます謎になったぜ……。
そこらに置いてあるガラクタは、
うちの製品を買ったお客さんが
勝手に置いていったもの
なんですよぉ。
売り物は奥で作ってますぅ。
……あ、でも、
今は注文が入っていないので、
何も作業はしていませんけどぉ。
なんだとっ!?
ということは、
ここは武器の販売店じゃなくて、
工房なのかっ?
はいぃ。うちは製造が本業ですぅ。
刃の研ぎもやってますけどぉ。
セーラさんは近くに置いてあった
短刀を手に取り、
切っ先を僕たちの方へ向けて突き出した。
しかも結構勢いよく……。
幸い、誰にも当たらなかったから
良かったけど。
うわぁっ、危ねぇっ!
バ、バカっ! 殺す気かっ?
あ、ごめんなさいぃ。
ついついぃっ!
つまりここは鍛冶屋ってこと?
鍛冶屋は刃物しか
扱わないじゃないですかぁ。
でも私は武器全般を作りますぅ。
はぁっ?
お前が作ってるのかよっ?
別に職人がいるんじゃないのかっ?
いないですよぉ。
店内に人の気配がしますかぁ?
ちょっと待って!
じゃ、市場で売ってた
ロングソードもっ?
いえいえ、
あれは祖父が作ったものですぅ。
あんな無骨でセンスのない武器を
私が作るわけ
ないじゃないですかぁ。
セーラさんは手を横に振りながら、
楽しげに大笑いした。
顔には『冗談はやめてください』とでも
書いてあるかのようだ。
それって態度も言葉も
さりげなくヒドイような気が……。
それでも品物としては
きちんとしてますので
ご安心ください。
確かあれって、
名工ナントカさんが
作ったのよね?
それにしてはバカにしているように
聞こえるんだけど……。
名工ムラサですぅ。
私の祖父であり、
師匠でもありますぅ。
名工と呼ばれていたとはいえ、
今は私の方が腕は上ですけどぉ。
……お前の師匠なら
さらっとディスるのやめろ。
私は事実を言っているだけですぅ。
それに弟子が師匠を
超えるというのは、
最高の恩返しなんですよぉ?
きっと地獄で私のことを
誇りに思ってくれているに
違いありません。
そう言うと、セーラさんは顔の前で合掌した。
ムラサさんに対して恨みでもあるのかな?
例えば、武器職人の修行が厳しかったとか。
それに対してタックさんは
呆気にとられながら頭を抱える。
地獄かよ……。
そこは嘘でも
天国って言ってやれ……。
ムラサさんは
お亡くなりになっているんですか?
えぇ、50年ほど前に病気でぇ。
私が230歳くらいの時
ですねぇ……。
そんなことよりも、
カレンちゃんは
レイピアをお探しでしたよねぇ。
倉庫に仕舞い込んであるので、
ちょっと待っててくださいぃ。
そう言ってセーラさんは店の奥に引っ込んだ。
それからしばらくして、
手に1本のレイピアを持って戻ってくる。
それは透き通るような刀身の輝きと
歪みのない美しいフォルム。
柄には繊細な模様が彫り込まれていた。
実用品なんだろうけど、
飾っておくだけの芸術品としても
充分に通用する逸品だ。
ずっと見ていても飽きない魅力がある。
セーラさんはそのレイピアをカレンに手渡す。
っ!?
それが名工ムラサ全盛期の
作品『ミヤビ』ですぅ。
カレンちゃんが使っている
晩年の作品と比べると、
刀身から気迫が
伝わってきませんかぁ?
よく分かりませんけど、
手に持った時の感触というか、
パワーみたいなものは感じますっ!
なんなのっ、これっ!
レイピアがあたしの体の
一部になったみたいな
感覚ですよっ!
……どうやらカレンちゃんは、
その作品と相性が
良かったみたいですねぇ。
祖父の作品は
特に使い手を選びますぅ。
合う人が持てば、
威力や耐久性は
格段に上がりますぅ。
逆に合わない人にとっては、
量産品と変わらないものに
なりますぅ。
名品と呼ばれるものは、
武器に限らずそんな感じだな。
持ち主の潜在的な力を引き出す技、
それだけは祖父に
適わないんですよねぇ……。
っ!
セーラさんが呟いた微かな声が
僕には聞こえた。
彼女の顔へ視線を向けると、
遠い目をして寂しそうな雰囲気が感じられる。
何か想うところがあるんだろうな……。
でも僕は少し安心したかも。
なんだかんだヒドイことを言っていても、
おじいさんのこと、
認めている部分もあるって分かったから。
さてっ、
トーヤくんはどんな武器が
よろしいですかぁ?
ぼ、僕ですかっ!?
不意に話を振られ、
素っ頓狂な声を上げてしまった。
僕は慌てて視線を逸らしたけど、
ジッと顔を見ていたことに
気付かれちゃったかも。
なんか気恥ずかしくて、
顔がどんどん熱くなってくるよぉ……。
次回へ続く!