読書の邪魔をするのは気が引けるけど、
声をかけないと
気付いてもらえそうにない。



……そんなに面白い本なのかな?

いやいやいや、
今はそれを気にしている場合じゃなかった!
 
 

トーヤ

あ、あのぉ……。

セーラ

…………。

トーヤ

こんにちはぁ……。

セーラ

…………。

 
 
――返事がない。
でも、屍ってわけではないよね?

もう少し大きな声でハッキリと言った方が
いいのかなぁ……。


それとも僕、無視されてるとか?
もしそうだったら、嫌だなぁ。
 
 

カレン

ちょっと!
声をかけてるでしょうが!

トーヤ

カ、カレンっ!?

 
 
業を煮やしたカレンが
とうとう商人さんを怒鳴りつけてしまった。

でもそれでようやく商人さんは
顔を上げてくれて、
僕たちの方を見やる。
 
 

セーラ

あっ、いらっしゃいませぇ。

セーラ

……ん?
もしかしてあなた、
前にナイフを買ってくれました?

トーヤ

そうですけど、
僕のことを
覚えててくれたんですか?

セーラ

もちろん。
だってあれ以来、
何も商品が売れていませんからぁ。
あのナイフだって、
半年ぶりに売れたものですしぃ。

タック

お前、
それでよく食っていけてるな……。

セーラ

本業は別にあるのでぇ。
こちらは読書のついでに趣味で
やってるようなものですからぁ。

タック

本業って何だ?

セーラ

乙女の秘密を
見ず知らずの人になんて
話せませんよぉ♪

タック

へいへい……。
それよりも
品物を見させてもらうぞ?

セーラ

う~、ノリ悪いですよぉ。
少しはツッコミを
入れてくれないとぉ。

タック

……今までの旅で
ボケ連中を相手にしてきて
オイラは疲れてるんだ。
勘弁してくれ。

トーヤ

それが誰なのか、
何人か心当たりがあるかも……。

 
 
その後、
タックさんは並べられている商品を
じっくりと品定めしていった。


僕とカレンはあれこれと話をしながら、
気になるものを手にとってみる。

そして一通り見たあとで、
彼女は横の壁に立てかけられている
ロングソードに目を留めた。


布の上に並べられているものだけかと
思ったけど、
あっちにも商品があったんだね。

僕、気がつかなかったよ……。
 
 

カレン

へぇ、このロングソード、
魔法玉が埋め込まれてるわね。
刃もしっかりと
鍛造されたものだわ。

トーヤ

鍛造?

カレン

金属を叩いて成型するやり方よ。
鍛冶職人の腕によって
商品の出来は大きく変わるわ。

トーヤ

そうなんだ。

カレン

最近は安く量産できる鋳造――
つまり金属を融かして型に入れて
固めただけものが増えてるの。
でもあんなの、
切れ味を無視した粗悪品よ。

セーラ

…………。

カレン

あれは剣というより打撃武器。
金属製の柄が長い『こん棒』ね。
剣なんて名乗るのは詐欺よ。

トーヤ

そ、そこまで言わなくても……。

カレン

でもこの剣は違うわ。
魔法玉を武具に埋め込むには、
魔法の才能や手間が必要になるの。
安物にそんな加工は絶対しない。

カレン

だからこの武器はしっかりとした
商品ってことになるわね。

トーヤ

へぇーっ!
その魔法玉って、
付いていると何か効果があるの?

カレン

えぇ、特定の魔法が使えるわ。
例えばこのロングソードは
炎の魔法を操れるわね。

トーヤ

それって魔法が使えない
僕にも扱えるっ?

カレン

もちろん!
誰でも効果を発動させられるわ。

トーヤ

わぁああぁっ!
僕にも魔法が使えるんだぁ!

 
 
すごい、そんな武器があるなんて!
そうだと知ったら、欲しくなってきちゃった。

そうかぁ、僕にも魔法が使えるのかぁっ!
 
 

カレン

……でもこれ、
トーヤには重すぎるわね。

トーヤ

あ……。

 

確かにそのロングソードは
刀身が僕の身長以上ある。
振り回すどころか
持ち運びをするのだって一苦労だ。


うぅ……悔しい……。
残念だけど、これを使いこなすのは無理だ。

魔法玉が付いている軽い武器はないのかな?
 
 

カレン

ざっと商品を見たけど、
この店って
良い品物が多いじゃない。

セーラ

カレンちゃんも
目が肥えてるみたいですねぇ。
話を聞いていて感心しましたぁ。

トーヤ

まだ名乗り合ってもいないのに
ちゃん付けで呼んでる……。
気さくというか、
馴れ馴れしいというか……。

セーラ

皆さん、うちの店に来てみますぅ?
もっと色々な武器がありますよぉ?

タック

近くなのか?

セーラ

えぇ、メインストリートを
1本外れた裏通りですぅ。

セーラ

私の名前はセーラ。
その店で武器にかかわる
商売をしていますぅ。

タック

オイラはタックだっ♪

トーヤ

僕はトーヤです。
それと僕の隣にいるのがカレン。

セーラ

よろしくですぅ~。

カレン

そのお店にレイピアはあります?

セーラ

もちろん。
あなたの持っているレイピアより
いいものを
ご紹介できると思いますよぉ。

セーラ

あなたのレイピアは
名工ムラサの晩年の作品ですよね?
一目で分かりましたよぉ。

セーラ

それ以上の品物って
なかなか
見つからないですものねぇ。
はいはい、よく分かりますぅ!

 
 
セーラさんはカレンが腰に差している
レイピアを見つめながら微笑んだ。


なんかセーラさん、
武器を見る時の目はすごく優しい感じがする。

キラキラと輝いているっていうか、
根っから好きなんだなぁというのが
伝わってくる。
 
 

カレン

あ……いえ……。
いい品物だってことは
分かりますけど、
作者までは知りません……。

セーラ

うちの店には名工ムラサが
全盛期に作った作品が
たくさんありますぅ。
きっとご満足いただけるものが
見つかると思いますよぉ。

セーラ

実はトーヤくんが買ったナイフも
その人の作品なんですぅ。

トーヤ

へぇ、そうなんですか?
僕、初めて知りました……。

 
 
名工と呼ばれた人が作ったのなら、
僕が使いやすいと感じていたのも
なんなとなく分かる気がする。

ただ、それにしては
二束三文で売られていたような気もするけど。
 
 

タック

よしっ、そこへ行ってみよう。
オイラ、ちょっと興味が出てきた。

セーラ

ではではっ、
れっつ・ごーですぅ!

 

こうして僕たちは
セーラさんのお店へ向かうことになった。

いい武器が見つかるといいなぁ……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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