旅の準備を終え、
僕とカレンは王城の門の前に到着した。

そして目の前には
頬を膨らませたタックさんと
ケタケタ笑っているレインさんの姿がある。


タックさんは賢者デタックルといって、
300年前に活躍した伝説の勇者アレク様、
その子孫である勇者アレスくんの
どちらにも同行して魔王と戦ったすごい人だ。

種族はエルフ族で、
今は故郷へ戻ってのんびり暮らしているはず
なんだけど……。
 
 

タック

……なんでオイラが
協力するって話になってるんだよ?

レイン

ダメなの?
まさか仲間の危機に
協力しないとか、
そんな薄情者じゃないわよね?

タック

そういうことじゃねぇっ!

レイン

だったら怒ってる意味が
分からないんだけど?

タック

まずはオイラに相談しろよ!
勝手に話を進めるなっ!
もしオイラの都合が悪かったら
どうするつもりだっ!

レイン

どーせ暇なんでしょ?
グダグダ言ってないで、
少しは世界の役に立ちなさいよ。

タック

お~ま~え~は~ッ!!!

 
 
怒りをあらわにするタックさんを尻目に、
レインさんは涼しい顔をしていた。
完全にレインさんのペースで話が進んでいる。


この2人ってすごく仲がいいって
聞いていたんだけど、
そんな感じがしないなぁ……。
 
 

レイン

というわけで、
あんたたちには賢者デタックル様が
同行してくれるわ。

レイン

ちょっと頼りないところも
あるけど、
それなりに使えるヤツだから
なんとかなるでしょ。

タック

デタックル様とか言って
持ち上げておきながら、
舌の根も乾かないうちに
ぞんざいに扱いやがって!

タック

そんな酷い態度なら、
オイラ帰るぞっ!

レイン

まぁまぁ。
頼りにしてるわよ、タック。
あんたしか頼れる相手が
いないんだからさ。

タック

…………。

タック

ったく……。

 
 
結局、最終的にタックさんが折れた。

――というよりは、
抵抗するのを諦めたという感じ。


レインさんも強引というか、
僕がタックさんの立場なら困っちゃうなぁ。
でもなぜか憎めないのは、
あの明るくてサッパリとした性格だからかも。
 
 

カレン

あの、
デタックル様はどうして魔界へ?

タック

ちょっとした用があってな。
あとは魔界の様子も
見ておきたかったし~♪

レイン

やっぱり暇なんじゃない。
だったら文句言わずに
協力しなさいよ。

タック

うるせ~! あっちいけ!
シッシッ!

レイン

あはは、はいはいー。

レイン

カレン、トーヤ。
薬の方は頼んだからね。

カレン

はい、お任せください。

レイン

あっ、そうそう。
トーヤにはこれを渡しておくわ。

 
 
そう言ってレインさんは帽子を脱ぎ、
その中から封筒を取り出した。

そういえば、あの帽子はモノを収納できる
魔法道具でもあるって聞いたことがあるなぁ。
 
 

トーヤ

これは何ですか?

レイン

ラブレターっ♪

カレン

っ!

トーヤ

えぇっ!?

レイン

あっはは、ウソウソ!
期待させてゴメンねぇ。

トーヤ

は、反応に困る冗談は
やめてください……。

レイン

ゴメン、ゴメン。

レイン

――もしもの時は、
その封筒を開けなさい。
きっと道しるべになると思う。

トーヤ

は、はい……。

レイン

じゃ、しばらくのお別れね……。

レイン

また元気な姿で会いましょう!

 
 
レインさんは僕の肩をポンと軽く叩くと、
走って王城へ戻っていった。



……あれ? なんだろう?

ちょっとだけレインさんの瞳が
寂しそうだったような……。
気のせいなのかな?


考えても仕方ないので、
僕は受け取った封筒を懐の中にしまい、
タックさんとカレンの方へ向き直った。
 
 

タック

それにしても、
ちょっと見ないうちに
トーヤも立派になったじゃね~か♪
出会った頃と比べたら、
たくましく感じるぞ。

トーヤ

そ、そうですか?
てへへ……。

カレン

……もう、デタックル様。
あまりトーヤを
調子に乗らせないでください。

タック

そうだ、今からオイラのことを
『デタックル』と呼ぶのは禁止だ。
何者なのか周りにバレちまう。
旅先では誰に狙われるか
分からないからな。

タック

今後は『タック』と呼んでくれ。

カレン

分かりました、
デタ……タックさん。

タック

うんうん、それでいいっ♪

 
 
微笑みながら満足げに頷くタックさん。

でも僕はアレスくんを通じて
タックさんと以前から交流があるから、
『タックさん』って呼んじゃってるけどね。
 
 

タック

で、オイラたちはどこへ行くんだ?

カレン

北東にある常闇の森です。
そこなら材料が
だいたい揃うと思います。

カレン

薬に必要な材料は人魂草とホタル草、
魔樹の実、地獄茸、悪魔カエデの樹液、
破邪華の根ですね。

タック

ん? いくつかは
手に入れるのが面倒だな。
モンスター由来のものが
含まれてるじゃないか。

カレン

さすが賢者様。
ご存じなのですね?

タック

まぁな~♪
知識だけはある。

タック

でもオイラだけで戦うのは
骨が折れるな。
カレンは戦えるのか?

カレン

ちょっとくらいなら。
攻撃魔法も物理攻撃も
いけます。

タック

トーヤはどうだ?
少しは戦う力を身につけたか?

トーヤ

えっ!?

 
 
僕はタックさんに問いかけられ、
ドキッとした。


以前から体を鍛えたり瞑想をしたり、
少しずつ努力はしている。
でも相変わらず結果は出なくて、
力も魔法力も上がってきていない。



これは下民である僕の
生まれ持った体質なのかも……。
 
 

トーヤ

あ……いえ……。
ごめんなさい……。

カレン

トーヤ……。

タック

はははっ! まぁ、いいさ。
だったら
回復要員になってもらうだけだ。

タック

トーヤ、どんなヤツにでも
得意不得意はある。
アレスだってそうだったんだ。
剣も魔法も全然ダメだった。

タック

それでもアイツは
自分にできることを
最大限に発揮して戦った。
そしてみんなと力を合わせて
魔王ノーサスを倒した。
オイラはそれでいいんだと思う。

トーヤ

えっ?

タック

つまり1人で戦う必要は
ないってことさ。
もし力が足りないなら
仲間と補完し合えばいい。

トーヤ

タックさん……。

タック

トーヤ、お前は薬草や薬に詳しい。
その力で仲間を助けろ。
それならできるよな?

トーヤ

は、はいっ!
お任せくださいっ!
回復薬なら
たくさん持ってきましたし、
足りなくなったら作りますっ!

タック

任せたからなっ!

カレン

ふふっ♪

 
 
こうして僕たちは王城を出発したのだった。

まずは街の中を抜けて、
街道への出入り口を目指そう!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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