マジであいつ誰だ?
マジであいつ誰だ?
彼は間違いなく私の好きだった人。
あの雰囲気、あの間合い、肩すかしをくらわせるような話術。
そして、あの笑顔。
他人が焦れば焦るほど、ぽやんとお花が咲いたような笑顔になる。
それでみんな、煙に巻かれたように冷静になる。
自分がなんとかしなければ、と思うのかもしれない。
同じ笑顔だった。
もう、義経とか静とか関係なく、彼は私の好きな人。
それは確実。
今度こそ絶対
……なのに、彼は自分の名前を言わなかった。
前世の時もそうだったけどさ……。
せめて、
連絡先くらい置いてけ……。
あの運命的な出会いから、一週間……。
なぜだかわからないけれど、気が付くといなくなっていて……。
それから、何の接触もなかった……。
……。
……………………。
制服は……、
東高のだったけど……。
私は西高に通っている。
ウチの高校は服装が自由で、制服を着ても良いし、私服でも良い。
学校指定の制服もあるけど、中学の時のでもいいし、別の高校のでもいい。
だいたい半数くらいが制服で、半数くらいは私服だ。
でも、制服が飽きたら私服にしてもいいし、その逆もある。
私は制服を買う時、母が買ってきてくれるというから頼んだら、このセーラー服を用意してくれた。
セーラー服って憧れだったの。
それを着て高校に行く静香ちゃん、
見てみたかったのよ~♡
継母でもなんでもなく、この人から私は生まれた……。
「どうしても」と言うから頼んだのだが……。
自分で行きゃ
よかったかも……。
校則では何を着てもいいのだから、私服でもいいはずなのに……。
静香ちゃん、着てくれないの?
ママ、悲しいな……。
泣かなくてもいいでしょ……。
着るわよ。
着てけばいいんでしょ!
わ~いw
だから静香ちゃん大好き~w
一瞬で涙が消えるって、すごすぎ……。
私はこれができないから、ある意味尊敬する……。
…………。
静香ちゃん似合う~w
美人~w
さすがママとパパの娘~w
……このセーラー服を着る以外の選択肢は与えられなかった。
帰りに東高に
行ってみようかな……。
うちの高校という可能性もなくはないけど、丸2年通っていて会ったことがないのは、やっぱり違うんだろう。
転入生の話も聞いてないし。
東高は、その名の通り、市の東にあって、ウチの高校からも東にある。
電車やバスを使えば、30分くらいで行けるし、歩いても一時間しないで行ける。
急ぐからバスを使おうかな?
でも、バスは時間通りに来ないから……。
面倒だよね。
電車で行っても、けっきょく駅から歩くし……。
行ってもどこを探したらいいかも
わからないし……。
あれは幻だったのではないかと思えてしまう。
桜の花が見せてくれた、一夜の幻だったのではないかと……。
夜じゃないわね。
夕方だった。
逢魔が時の幻……。
もうちょっと
いい表現はないかしら……。
魔に逢う時間って、ちょっとカッコいいわよね。
トワイライトゾーン ファントム。
…………。
そんなのはどうでもいいわよ。
連絡が来ないということは、これでもう約束は果たされたとか思ってるんじゃないかしら?
きっと、
また会えるから。
そう言ってたけど、
八百年ごしの
約束が守れて良かった。
とか思ってるんじゃない?
それで、
これで面倒な前世の
ガチャガチャは終わり!
明日から
新しい恋愛するぞ~。
思ってそうで怖いわ……。
絶対、そんなことない。
彼は正真正銘、
私が好きだった人。
幻なんかじゃないし、
今でも私を想ってくれている。
何度も何度も、そう自分に言い聞かせていた。
東高に行って、彼を探すんだ。
今日、見つからなかったら明日。
明日見つからなかったら、明後日。
見つかるまで通い続ける。
でも、高校生じゃない可能性も
捨てきれない……。
静さんいますか~。
って来た時も年齢不詳だった。
15~6歳だと思ったけど、実際は26歳だった……。
その時、静は16歳で、
年下かもって思ってた……。
現代社会に置き換えてみると、社会人4年目みたいな新人が、高校生を嫁にしたってことだよね……。
平安時代で良かった。
今なら捕まるわよ……。
時代が違うんだから、しょうがないわよ。
とにかく彼は若く見える。
学生じゃなくても
制服着そうだし……。
目的のためなら、わりと手段は選ばない。
でも、何が何でも! って感じじゃなくて、
これくらいなら
やるよ~。
みたいな彼なりの境界線みたいなのはあったようだけど。
制服くらいなら、きっと
これくらいなら
やるよ~。
の範囲内だろう。
どうして私の周りには
年齢不詳が多いのかしら……。
ママなんてレベル
ハンパないし……。
………………。
………………。
高校生だったとして、そして、彼を見つけたら……………。
どうしよう……。
ヤツには「好き」を言ったらいけない。
言えば、きっと捨てられる……。
吉野の時、私はそれを言ってしまった。
あんたバカじゃないの?
間抜けでしょ、おたんこなすでしょ!?
そう言われても、
反論できないんだけど……。
やっぱりアホだわ!
私は、あんたのことが好きなの!
だから行くなって言ってるのよ!
え?
そのままヤツは固まった。
今までそんなこと
言ったことなかったのに
言えるか!
あほんだら!!
……。
ヤツはとても悲しそうにうつむいた。
ごめん……。
やっぱり連れていけない。
男の方が良いから?
え?
ホントは女より
男の方が好きなんでしょ?
だから私が邪魔になったんだわ!
お願い……。
ソレやめて……。
違うから……。
静のことは大好きだよ。
弁慶より?
どうして弁慶が
出てくるんだよ……。
だって、アイツ、
私よりあんたと居る時間長いし。
殿!
っていう下僕感、ハンパない。
しかも何気にイケメンだし。
それなのにアイツ、ヤツ一筋なのよ!
おかしいでしょ!
時間の長さなんて関係ないよ。
弁慶は大事な仲間。
静は大事なボクの奥さんだよ。
どっちが大事かなんて、
比べることはできないよ。
教科書のような正論……。
…………。
ボクは、静を危険な目に
逢わせたくないんだ。
確かに危険だった。
矢は飛んでくるし、刺客は山ほどやってきたし。
どこに敵がいるのかもわからなくて、誰が敵なのかもわからなくて、神経も参っていた。
それは、彼も同じだったのかもしれない。
あんな中で、正気を保っているのは、きつかったのかもしれない。
私は、素直に涙を流したり、安らぎを与えてあげられる女じゃなかった。
アホんだら。
おたんこなす。
ばーか、ばーか
そんなことしか言ってなかったもの。
あんたが好きなの!
だから連れて行きなさい!
「好き」なんて、言わなきゃよかった。
私が置いて行かれたのは、「好き」って言ったからだ……。