レインさんは深刻そうな表情をしていた。
いつもは元気で太陽みたいな人なのに、
今はなんだか覇気が感じられない。
少し落ち着きもない気がする。


どうしたんだろう?
こんなレインさんを見るのは初めてだ。



ちなみにレインさんもデリンさんと同様、
アレスくんと一緒にノーサスと戦った1人だ。
今は女王様の相談役 兼 平界との仲立ちを
担っている。

彼女は魔族ではないけど、
デリンさんに匹敵するくらいに強いらしい。
なんでもご先祖が偉大な魔術師なんだって。
 
 

トーヤ

レインさん、どうしたんですか?
お腹でも痛いんですか?

レイン

……え?

トーヤ

だって表情が暗いので……。

 
 
僕は心配そうにレインさんの様子を窺う。

するとレインさんはキョトンとして、
僕を静かに見やった。


そして程なく――
 
 

レイン

プッ! あははははっ!

 
 
突然、レインさんは大笑いをした。
瞳に涙を浮かべ、お腹を抱えている。


え? どうしちやったの?
何がそんなに可笑しいんだろう?

まさかワライダケでも食べちゃったのかな?
でも今は自生している季節じゃないから、
間違って食べちゃったってことはないはずだ。

まさか乾燥させて粉末にしたものを――
 
 

トーヤ

痛っ!

 
 
僕はカレンに思いっきり後頭部を叩かれた。

視線を向けると、
頬を膨らませてこちらを睨んでいる。
 
 

カレン

おバカッ!!
そんなわけがないでしょ!

トーヤ

え? えぇっ?

レイン

あっははははっ!
トーヤってホントに面白いわねっ!
天然ってヤツぅ?

カレン

す、すみませんっ!
コイツ、バカなもので
どうか許してやってくださいっ!

カレン

ほらっ、
アンタも頭を下げなさいよっ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

うわわ……。

 
 
僕はカレンに頭を掴まれ、
強引に頭を下げさせられた。

そして何度も上下に激しく振られる。
 
 

トーヤ

はわわっ、世界が揺れるぅ……。

レイン

いいのよ。
私も深刻になりすぎてたみたい。
おかげで少しは冷静になれたわ。

カレン

で、レインさん。
どうなさったのですか?
わざわざここに
いらっしゃるなんて。

レイン

……ちょっと来てもらえるかな?
2人に看てもらいたい人がいるの。

 
 
レインさんは表情を引き締め、
僕たちを見やった。


看てほしいということは、
きっと誰かが病気なんだろう。

僕とカレンは顔を見合わせ、静かに頷く。
 
 

カレン

分かりました。
すぐに準備をします。
トーヤ、診察の道具を揃えて。

トーヤ

分かった。

 
 
僕たちはすぐに準備を済ませ、
レインさんの先導で王城内の一室へ移動した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 

クレア

う……。

 
 
ベッドではクレアさんが苦しそうな表情で
横になっていた。
顔には玉のような汗が無数に浮かび上がり、
肌の血色も良くない。

なんだろう、
生命力が少しずつ失われていっているような
なんか嫌な気配がする。


クレアさんは女王様の側近で、
公務にも深く関わっている。
国の重要な人物であることには間違いない。

その彼女にもしものことがあれば、
現体制が確立しきっていない今の状況下では
混乱に陥ってしまいかねない。
 
 

カレン

これはっ!

 
 
カレンはクレアさんの状態を見た瞬間、
驚愕の声を上げた。
そして一気に表情が険しくなり、
押し黙って触診をしていく。

そのあと、
手のひらをクレアさんの額に当てて
神経を集中させた。
すると徐々にその手が淡い光を放ち出す。
 
 

カレン

…………。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

っ!

 
 
――これは『診察魔法』だ。

魔法力の流れによって体の悪い部分を判断し、
さらに原因や詳しい病状も分かる魔法。

先天的に才能のある者だけが使える
高度な魔法の一種で、
僕のように下民だった人間には
決して身につけることのできないものだ。
 
 

トーヤ

…………。

 
 
いくら身分が平等になったとしても、
やっぱり生まれた時点で何らかの差は
ついてしまっているものなんだ。

努力では埋められないことだって
たくさんある。

それでも僕らは同じ立ち位置で
生きていかなければならない。




神様はなんでこんな差をつけるのだろう?
 
 

トーヤ

…………。

カレン

トーヤ!

トーヤ

……えっ?

カレン

何、ボーッとしてるのっ?
早く魔力調整薬を出しなさい!

トーヤ

あっ、う、うんっ!

 
 
いつの間にか診察魔法は終わっていたらしく、
僕は叱責されてしまった。

我を取り戻した僕は、
薬箱の中から指定された薬を取り出す。
 
 

 
 
魔力調整薬――

これは体内の乱れた魔法力を整えることで
不調を和らげるという薬だ。
魔法力の高い者ほど効果は高い。



でもこれは病気そのものを撃退する
薬ではなくて、
即効性の薬がない時に使うものだ。

だから根本的な回復には至らないし、
時間が経てば経つほど弱っていって
いずれは命を奪いかねない。
 
 

カレン

レインさん、
クレアさんはいつからこの状態に?

レイン

今朝、体調が悪いから休むって
連絡を受けてね。
それでさっき仕事が落ち着いて
様子を見にいったら
ただならぬ感じだったの。

レイン

……ちょっと嫌な気配も
感じたし……ね……。

カレン

それ、正解です。
クレアさんは
病呪にかかっています。

レイン

病呪っ!?

 
 
レインさんは思わず大きな声を上げた。
ただ、すぐにクレアさんの病状を思い出し、
慌てて口を手で塞ぐ。

この驚き方を見る限り、
これはただごとじゃないかもしれない。



それにしても病呪ってなんだろう?
初めて聞く言葉だけど……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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