勝手にやってよ……。
勝手にやってよ……。
放課後、川べりの遊歩道に来ていた。
きゃ～。
きれ～。
聡士の彼女と……。
ここ、隠れた穴場ってヤツじゃないですか？
聡士先輩と来たい～
別れないんだ。
ちょうなんとかだとしても、
イケメンですから
あ……、そう。
この子、何気にすごいかもしれない……。
でも、恋愛対象について、前世が何かなんて、本来関係あるわけない。
私みたいに前世で約束したんなら別だけどね。
それに、さっき調べたんですけど、
土佐のちょうなんとかって、
けっこうイイ感じなんですよ。
そう言ってスマホを見せられた。
長宗我部元親
長宗我部家２１代当主。戦国時代から安土桃山時代にかけての土佐国の戦国大名。幼いころは色白でおとなしかったため、「姫若子」と呼ばれていたが、初陣の後は「鬼若子」と呼ばれた。
１５８５年に四国を統一した。
けっこ、すごくないですか？
ふーん。
そういえばヤツ……。
……。
義経は予州とも呼ばれていた。
当時は治めていた土地の名前で呼ばれることもあって、予州は伊予の別名、今の愛媛で、ということは四国だ。
まちがえても、
仕方がないわよね。
共通点が多いもの……。
色白とか四国治めてるとか……。
でも、間違えるって、いいのか？
運命の相手を……。
……。
先輩？
……なに？
やっぱり聡士先輩と、
別れたくないって思ってないですか？
そんなこと思ってないわよ。
これっぽっちも。
違うこと考えてたもの。
でも、ちょうなんとかって、けっこうイイ感じの戦国大名だし。
前世が有名人だと、
何かいいことあるの？
え？
自慢できるじゃないですか。
なんだ？
それは……。
それであなたが
変わるわけじゃないでしょ？
それに今は聡士もただの高校生よ。
聡士は、戦国大名の名残のようなものなどどこにもなかった。
チャラくていい加減な。
私にとって聡士は、ただ軽いだけの男。
彼の前世がもっと地味なものだったら、
あなたは別れるの？
長宗我部も地味な気がしないでもない。
それでも一応、大名だし……。
ふつうは百姓とか、そういう感じよね？
そんなこと言って、
私が聡士先輩と別れたら、
後釜に入ろうって思ってませんか？
そう見えるの？
私には先輩が何を考えているのか、
わかりません。
付き合わないわよ。
義経じゃないのに付き合ったって意味ないでしょ。
義経じゃないと、
付き合わないんですか？
そうね。
先輩こそ、前世に捕らわれすぎていませんか？
！
ちゃんと聡士先輩のこと、
見てあげてください！
自分が何を言ってるか
わかってるの？
わかってますよ！
聡士先輩は、とってもカッコよくって、とっても素敵な人なんです。
前世がなんだっていいじゃないですか！
聡士先輩は……、
静香先輩のこと……。
柚葉……。
もういいよ……。
聡士が彼女の肩を抱く。
……。
どこからわいてきた？
ってか、私たちの話、聞いてたのか？
聡士先輩……。
聡士の彼女は、私のことなど無視して聡士をガン見する。
何、人の気持ちを
勝手に代弁してんだよ。
だって……。
私、気付いてたんです。
聡士先輩、静香先輩のこと、
まだ好きですよね？
そう言うと、聡士の彼女はどばっと涙を流した。
う、えっく……。
……。
なんていうか、卑怯な感じがしたのは、私の気持ちが濁っているせいか？
良いわね。
こんなにあっさり涙が出てくる女って……。
ふつうに羨ましいわ。
マジで……。
私、分かってたんです。
静香先輩に、こんな私が、敵うはずないんだし……。
ボクが好きなのは、
柚葉だよ。
……柚葉（ゆずは）って言うんだ。
「聡士の彼女」って名前のわけないし。
あるわよね、名前、フツー……。
……。
……。
私はぼんやりと抱き合う二人を見ていた……。
元カノの前で、するかな？
フツー。
っていうか、人けがなくても天下の往来、桜が綺麗な遊歩道で、ラブシーンを繰り広げるんじゃないわよ。
桜の花に、また新たなトラウマが付いた……。
みゅ～
みゅ～
あんたたち、いたの？
手を伸ばすと、ちょんと手のひらに乗った。
気にするな！
ファイトだ
……。
気にするわよ！
みゅっ！
……。
