あいつは誰なの?!
あいつは誰なの?!
日が落ちてしまった後の遊歩道は、街灯も少なく、あまり明るくはなかった。
これ、何のラケットかしら。
テニスとは違うみたいね。
クリケットだかラクロスだかなんだか?
何のラケットでもいいわ。
変質者を殴るだけだから。
もし、ヤツ……、
義経なら避けるはず。
伝説の英雄なんだから、避けるわよね。
でも、ホントは弱かったのかも?
口先だけは達者だったけど……。
口先だけで平家を倒したって、あるんじゃないか?
めっちゃ弱そうだったもの……。
その場合、このラケットは当たるのではないか?
…………。
でも、何の関係もない変質者にも、
太刀打ちできないかも……。
そうよね。
よく考えたら、私はか弱い女子なのよ。
普通に考えて、これって危ないんじゃないかしら?
いつもいないのか、散歩している人も、マラソンをしている人もいない。
周囲には誰もいなかった……。
ぽつっ
ん?
頬に何かが当たり、空を見上げた。
雨が降ってきた。
雨乞いの技は、未だ健在だったのか?
平安時代は雨が降らないと、なんやかんやと神事があった。
雨を降らそうと白拍子が舞ったこともあった。
あの時は、99人の白拍子が舞っても雨は降らなくて、100人目に私が舞うことになった。
チョー緊張なんですけど……。
つーかよくもまあ
100人も集めたわよね。
てかさ、なんかもう、雨乞いどうでもいいって感じだよね。
自分たちが、
どんちゃん騒ぎたいだけだよね?
ため息が出た。
いつも通りに舞えばいいか。
こんな連中のためじゃなく、
雨が降らずに困っている人たちのために舞おう。
そう覚悟を決めると、緊張も薄まり、舞うことができた。
でも、いつの間にか、何かのためにというのはなくなっていた。
舞いたいから舞う。
ただそれだけだった。
舞い終わると、頬に何かが当たった。
待望の雨が降ってきた。
さすが天下に名だたる
白拍子。
ほんに舞いも
見事であった。
とか言ってたけど、
おめーら見てねーだろ?
どんちゃんしてただけじゃん。
降りが強くなると、自分が濡れないように、屋根のあるところへと皆、逃げ出した。
雨が降ってほしいなんて、
思ってなかったっぽいな。
雨に打たれながらそう思った。
このことで後白河法皇のはげオヤジの覚えがめでたくなり、ヤツに会うきっかけにもなった。
こんなことができると、やっぱり自分は静御前だったのだという確信を持ってしまう。
……偶然って可能性は高いけど。
空は……
今も昔も
変わらないか……。
んー
帰ろう。
誰もいないんだから、ここにいても仕方がない。
雨も降ってきたことだし……。
…………。
濡れるから……、
帰るか。
静香のことも
心配だし。