やっと終わるんだ
やっと終わるんだ
来世で会えたんだもの。
ウソは言ってなかったわね。
でも、誰が思うのよ。
きっと、また会えるから。
が、八百年後だなんて……。
挙句の果てに、
他に好きな子ができたんだ
って、何?
伝説の悲恋の終わりが、
こんなあっさりしてるなんてね。
まあまあ
ホントにホントに
キミのことが好きなんだ。
ずっとずっと
……好きでいるから。
ウソばっかり……。
何も覚えてなくて、
すぐに心変わりしたくせに。
聡士に初めて会った時、彼だと思った。
雰囲気や、言ってることが似てる気がしたから。
でも、聡士は私のこと、好きでもなんでもなかったみたいだ。
そういえば……、
あ……、
ちょっと友達が……。
って、よく言ってたかも。
一緒に帰る?
って、声かけても、
ごめん、
友達と帰る約束してるんだ。
今度の休み
空いてるんだけど……。
ごめん……、
友達が……。
そういうのが多かった……。
きっと
あの女と一緒だったのよ。
あ~あ
覚えてなかったもの。
……。
あんなに大騒ぎしても、
忘れちゃうんだ……。
その程度の相手だった
ってことよね……。
……そのようなことは。
そもそも悲恋って何よ、悲恋って。
人の恋路の評価を勝手に悲恋にしないでほしいわ。
悲恋っていうより、茶番よ。
コメディーよ。
伝説でも何でもないわよ。
何が「静御前は吾妻鏡にしか載ってないから、京で一番の白拍子とは言い難い」よ
気になってネットで調べたことがあるが、今も昔も悪口ばかり書いてある。
まあまあ
まあまあ
あんたらは私の舞を
観てたわけじゃないでしょ?
雨が降るのよ雨が。
天候を変えることさえできるのよ。
いろんなところで舞って、
天気予報を外れさせてやるんだからね。
でも、私が舞わなくても、天気予報って外れるよね。
私のせいじゃないわね。
ふふふっ
ふふふっ
ふっふふふ~w
あいつに会ってなかったら
こんなに辛い思い、しなくてすんだのに……。
そのおかげで、名前が歴史に残ってるけど……。
歴史なんて、どうでもいい。
私は静香。
静御前じゃない。
でも、彼女の記憶は、私の中に残っている。
忘れたくないと、叫んでいるかのように……。
ボクが一緒に居たいだけなんだ。
ヤツは歯が浮くようなセリフを、いともあっさり言っていた。
しかも、それがある程度似合っていた。
私は好きじゃないわよ。
そんなこと言われても、
全然嬉しくないし。
いいよ。
それでも。
静といられれば
ボクが幸せだから。
知らないっ
もう……。
嬉しい……。
私がそう思っていたこと、伝わっていたんだろうか?
ちゃんと伝わっていたら、
こんな簡単に捨てられなかったかもしれない。
女にがっついてなくって、むしろ暴漢から守ってくれる感じだった。
嫌がってる娘に乱暴なことをするな。
そういえば、そんな感じだったな……。
正義感があって、間違ったことが嫌いで。
これでは東の者はやっぱり野蛮だと言われてしまう。
自分の生まれた地を、京の者に蔑ませる口実を与えてしまっているのだぞ。
お前の兄弟、母親の顔を思い出してみろ。お前の大切な人たちがバカにされてしまうのだぞ。
いいのか? それでも。
ってか、泣くぞ、母親。
ちくるぞ。
それで、男が大人しくなると、
すまなかったな、娘さん。
怖い思いをさせてしまったね。
この者も本当は気のいいヤツなのだ。
ってのを繰り返して妾を増やしていた……。
それを見て、この手があったのかと思った源氏の人たちは、乱暴をしようとしている人がいると、たしなめて横取りするようになった。
その甲斐あってなのか、義経の部隊の統制はとれていた。
おまけにその手法で失敗した人の相談にも乗っていた。
ボクと同じことをして失敗した?
まず、自分の顔を見てみろ。
ボクとは作りが違うだろ?
……そこをズバっと言っちゃうのか? と思っていると、
お前はガタイが立派なのだ。
それを生かせ。
あっさりと褒めたよ。
明らかに暴漢に見える。
なんてこと言うんだ……。
だから、女子が「ひー襲われるー」と思っているところで、武骨な一言で助けてやれば
「この人、見かけよりいい人かも」
なよっとした演技が思っていた以上に上手かった……。
と、なってうまくいくんじゃないか?
コイツ、まじで嫌な策士だ……。
一回、二回の失敗でくよくよするな。
いつかお前の善さをわかってくれる娘が現れるよ。
お前はすごく良いヤツなんだから自信を持て。
それでソイツがうまくいって、ヤツに相談をすれば彼女ができるという噂が立った。
あまりにも相談がくるので、
夜襲をかけるぞ。
と、言いだした。
そんなに体力あるんなら、戦で使えや。
面倒になったらしい……。
夜が暇だから色ごとに行くんだ。
夜襲をかければそんな暇はなくなるし、平家は油断しているし、一石二鳥の効果がある。
戦には勝ったけど、勝つためには手段を選ばないって社会科の時に言われてたわ。
そんなの知るか。
その場にいなかった者の戯言なんて、聞いてらんねーし。
って、言いそう……。
意外とシビアなことがわかってきて、チャラいだけじゃないんだって……。
ギャップ萌え?
キライじゃなかった……。
そういう感じ。
自分で行動を起こさずに、後ろでガタガタ言ってるだけのヤツに、とやかく言われたくはない。
って、感じだったな、そういえば。
よく、愚痴ってた。
兄上の家臣って、ろくでもないのばっかりなんだよね。
前に出るなとかウザいよ。
ボクが前に出ないと、負けるから出てんだろ? おめーらが前に出て勝てるんならボクは後ろで優雅にうちわでもあおいでるさ。
強いのはあんたの部下で
あんたじゃないんじゃないの?
とは思ったけど、言わなかった。
褒美が欲しいだけで来てるくせに、でかい口たたいてんじゃねえよ。
それで反感買ってたけどね。
正義感は強かった。
そこは嫌いじゃなかった。
戦なんて……、人殺しなんて……、
やりたくない……。
でも、やらなきゃ……。
一生懸命生きている人が、
損をするような世の中では
いけないんだ。
兄上ならそれを
変えてくださる。
……。
…………。
家臣はクソだけどな。
そういうところもあった。
強いところも、弱いところも、情けないところも、
大好きだった……。
あの頃は本当に。
その過去は、ウソじゃない。
あの気持ちは、間違いじゃない。
ヤツは自分から「好き」と言わないのに、後から後から女が来た。
自分からは好きって言わないヤツだったのよ……。
それなのに、
聡士先輩、私のこと好きって言ってくれて……。
やっぱりアレが引っかかっているのかも……。
私はもう、ヤツの「特別」
ではないんだ……。
時代が違うもの。
あんな呑気に構えていられなくなったのかもね。
彼は、私以外の女に「好き」って言ったんだ……。
もう変わってしまったんだ。
でも、それを咎めることはできない。
人は変わる。
それは私も同じだ。
変わった私を、静御前ではなく、静香になった私を、彼は愛せなくなったのだ。
それを咎めることなど、私にはできない。
こんなに未練たらたらなの、
カッコ悪いわ。
身が引き裂かれるような思い。
これがそうなんだ。
大好きだった。
ホントに……。
辛くないと言えば、ウソになる。
でも、乗り越えていかないと……。
ねえねえ、
こっちこっちw
こっちに
おいでよ~w
桜の花びらが風に舞っていた。
……。
きゃいきゃいw
きゃ~w
ゆらゆら、ふわふわ。
小さな花びらが一枚……。
その風に誘われるように手を伸ばす。
たらったらった
らんらん♪
なんかもう……
どうでもいいや……。
わ~いw
わ~いw
すぅ……。
目を閉じて、息を吸う……。
綺麗な綺麗な、桜に囲まれた空気を……。
桜の花びらが風に舞い、頬をかすめた。
ほ~れ
もういっちょ~w
♪~
小さな声で、音を出す。
たらりらり~ん♪
手のひらを上に向けると、花びらが乗った。
きゃいきゃい
ほ~いw
また風が吹くと、それは空に飛んで行った。
あ~れ~ま~
空気が変わる……。
異世界に入り込んだような……。
時間が止まったような……。
気が付くと、桜の下で、舞っていた。
♪~
踊ろう
踊ろう♪
♪~♪~
今宵は舞い日和ぞw
あの日も、桜に誘われて舞ったんだ。
♪~
らんらんらん♪
愛されるのが
当たり前だと思ってた。
生まれ変わった彼は、私のこと、なんとも思ってなかった。
そしてすぐに、別の女に……。
これで終わり。
もうおしまい。
だめだめw
もっともっとw
でも、忘れない。
大切だったあの時間を、
忘れたりしない。
愛されて、
幸せだった……。
るららw るららw
辛かったことも、悲しかったことも、
嬉しかったことも。全部、今の私になるために必要だったんだ。
きゃいw きゃいw
ぽよ~んw
私もあなたのこと
愛してたよ……。
引き際は
わかっている。
さようなら。
かつて、
私が愛した人。
それから……
私はずっと、
桜と舞っていた。
…………。