ジェノベーゼ
ジェノベーゼ
イタリア・リグノア州のジェノバ県生まれのソースで、バジルペーストに松の実、チーズ、オリーブオイルなどを加えたもの。ピッツアやパスタなどメジャーなイタリア料理によく使われる。自分の近所だとツナと玉ねぎを載せたピッツアがあったりもする。
ああ、20代だと分からなかったけど、あの人はめちゃめちゃ良い女だったな。周囲のひやかしが怖くてスルーしたけど実際、付き合うべきだった
なんて
三十路過ぎて今更その良さに気付く女性を
ふと思い返したりする事がある。
見た目でいえばパタリロ!にパーマをかけて
さらにムチムチにした感じの二歳年上で
今から5年前に
錦糸町のパチンコ屋アルバイト兼映画専門学生時代に
一緒だったのだが
ジェノバさんである。
すぐ汗だくになるからお年寄りの常連さんにウケがいいんですよ。頑張ってる感じが出てるんでしょうね
と言いながらやや自嘲気味に笑っていた。
ジェノベさんは画面上で一体何が起きているのかも
わからないくらいパチンコ未経験者なのに
初出勤三日目で
お客様。その箱はお隣のお客様の箱なので、お取り間違えじゃないですか?
と他のお客さんの出玉を盗もうとした
ゴト師
(パチンコ屋で不正な悪いことする人)
を発見してお手柄を立てた事も
ある変わり種である。
もちろん相手がそんな悪い事をしている
なんて知らずにだ。
それでもやはり煙草を吸わず
ギャンブルも一切やらず
特にパチ化したアニメ版権にも詳しいわけでもない
小デブでドン臭いジェノバさんは
休憩室では浮いた存在であった。
類は友を呼び
映画に夢中でその当時は時間と金の無さから
パチンコを辞めていて
スタッフの輪に溶け込めなかった自分は
自然とジェノベさんと映画を主軸にした
サブカルトークで意気投合していた。
ピッツアさんはウディアレンの『紫のカイロのバラ』は観た事ありますか?
と自分に話しかけてきた。
まだそれなりに映画青年だった自分は
奨められたままにその作品を見ると大号泣し
ジェノバお墨付きの何かしらは
欠かさず見るようになった。
当時スタッフ全員から嫌われていた
ハゲでワキガで意地悪な社員に対しても
彼は意外とマニアックなラジオとか詳しくって話すとけっこう面白い人ですよ
といった感じで
普通の20代が持ち合わせない包容力を
心身ともにジェノバさんは持ち合わせていた。
袈裟衣のような不思議な服で
免許取り立ての大型バイクにまたがる
ジェノバさんはやはりコミカルで
異彩を放っていたし
一緒に食事に行く時もやよい軒のご飯おかわりを
育ちざかり小学生のように食べまくる27歳女子を
どこか親心のような気持ちで
見守っていた自分がいた。
何より会話が掛け値なしに面白かった。
この前江戸川橋をバイクで朝通った時に小舟の橋渡しをやりたいなあって思うんですよね。
たしかに似合うかもしれませんね。得意の袈裟衣を着て。でももうちょっと痩せなきゃ舟沈むと思いますけどね
なかなか言ってくれますね
なんて会話をよくしていた。
ところが
最近、ピッツアくんとジェノバさん仲良いね。付き合っちゃえばいいのに?
というマルゲリータさん(バックナンバー参照)
のよくある女子のちょっかいに妙に意識してしまった
自分はそれ以降徐々にジェノバさんと
話す機会が減っていく。
いやいや、お前中学生じゃないんだからさ!!
と、今思うと自分自身にツッコミを入れたくなる。
それから数か月して
ジェノバさんがバイク会社に就職のためにパチンコ店を辞めてからはめっきり会う機会が減り、ケータイの機種変更を何回か繰り返すうちに連絡先も分からなくなってしまった。
最後にジェノバさんに会ってから6年が経った。
それなりに何人か綺麗なお姉さんとデートしたり
片思いしたりしてわかったのは
美女は肝心なところで大嘘を付くし
僕レベルのドン臭い男だと
人生を振り回されて終わり
という事だけだった。
これに人格は関係なく
美人は本能的に色気のある本物の伊達男の元へ行く。
そして勝手に不幸を演じる生き物なのだと
ピッツアは考察している。
冷めたピッツアはその背中を見送りながら、その間誰に手を付けられるでもなく、余熱が冷めきるのをじっと待つばかりである。
それが31年の人生で得た恋愛論
というよりは負け組の処世術である。
今は性的嗜好が変わったせいか
スレンダー美女よりもジェノバ風で飾らなくて
気立ての良い、ポポラマーマのおばさんみたいな
頼もしい女性が嫁に来てくれたらなあ
と妄想している。
そんな世迷言を
パチスロで負けて帰る時か
昼寝をする前後のほんの一瞬に思っては
すぐ忘れるのを繰り返しているから
未だドン臭い31歳独身なのである。
La Fine