カルネミスト
イタリア語で
カルネ=肉
ミスト=盛り合わせ
で肉の盛り合わせという意味になる。ベーコンやらプロシュート(生ハム)やら個人の好みの肉をみっしり乗せるピッツアらしい(作者は未食)
橋本さん、ボク最近×××に○○○してやりましたわ。いやあ、ホンマにしんどかったわ~
大抵この入り方の話は
大きく盛ったクソ武勇伝が多く
本当に心の底から驚く事は
殆どないはずなのだが
過去に一人だけ例外がいる。
それが4年前のパチンコ店の一コ下の後輩
カルネミスト君である。
その時のカルネ君の
×××や
○○○は
兄嫁から、兄貴が家に帰って来ないって泣き付かれたんで、職場に夜中カノジョとルパンして証拠を掴んでからその浮気現場を抑えて兄貴をぶん殴って階段から転がして、土下座さしてから血判状かかせて女と手切れさせましたわ
…解説しよう。
要は結婚3年目のカルネ実兄と
義理の姉の間に起きた
不倫トラブルである。
どうやらはじめは
ブライダルウェディング業を務める実兄が
職場の年下女性との軽い火遊びのはずが
その女が某カルト宗教の熱心な信者で
実兄も心身共に宣教され
ほぼマインドコントロール状態に陥っていた
のだという。
それを実兄の妻
つまり義理の姉に相談されたカルネ君は
自身のカノジョと一緒に
実兄の職場に夜な夜な侵入して
従業者名簿を入手
不倫相手の住所を突き止める。
そしてその女のアパートの前に張込み
実兄と一緒に出てきたところを掴まえるが
居直る実兄にブチ切れたカルネ君が
殴り掛かり
階段から転げ落ちるほどの鉄拳制裁を浴びせる。
その後
不倫女と実兄を土下座させ
義理の姉の主張を代弁してから
”女には二度と夫妻に近寄らない
賠償金を義理の姉に払う”
という旨の血判状をその場で書かせて
一件落着させたのだという。
にわかには信じがたい話であるが
カルネ君ならやりかねない。
彼は誰もが認めるイケメンで
元高校サッカー関西選抜の経歴と
芸能活動もちょこちょここなす
モテ線街道まっしぐらな
超肉食系男子であった。
ライバル店の女性スタッフから
派遣のコーヒーレディーまで
ちょっとでも良い女がいたら
恋人の有無お構いなしで食い散らかし
抱き飽きた後には
ホンマうっとおしいですわ、あの女
と簡単に切り捨てるし
カノジョとの痴話げんかエピソードも
最近彼女と口論になって腹にパンチしたらお返しに思いっきり股間蹴られて悶絶しましたわ。ホンマええ根性しとるわアイツ
など
ちょっと冗談にしていいのか
判断しかねる
女子供にも容赦しない
価値観の持ち主であった。
カルネ君は生粋の伊達男
しかも
どちらかというと
ギャングスター寄りの
要注意人物なのであった。
とはいっても
やはり関西人特有の
お茶目な一面も大いに覗かせる。
当時の常連の中に
バイト間で通称『孫子』と呼ばれ
スロットコーナーのぬしと恐れられる
毛むくじゃらでうっすら髭を生やした
浅黒の太ったおばさんがいた。
孫子のニックネームの由来は
…その特徴から察してほしい。
因みに彼女はスロットにのめり込み過ぎて
夫に離婚を突き付けられて
現在はコンビニアルバイトしているという
経歴の持ち主なのだが
イケメンのカルネ君は孫子とよく
営業中もおしゃべりをしていた。
ところがある日突然
カルネ君が血相を変えて
自分の元にやってきた。
橋本さん!孫子ってマジで孫子って名前じゃないんですか!?
そりゃそうだよ。当たり前じゃん。たしかシマさんって名前だったと思うよ
休憩札に愛情込めて“そんしへ”って書いたら『孫子って誰?』って聞かれて…ヤバい!どうしましょう!?何か良い方法ありませんかね?
あるわけないが僕が咄嗟に考えたのは
…『マナー悪い客を店員以上に上手く諭したり、他の常連さんにも面倒見が良くてみんなに慕われているから敬意を込めてシマさんの事を孫子って言っているんですよ』って説明するのはどうだろう?
という
もはや火に油を注ぎかねない
苦肉の策であったが
カルネ君はパッと明るくなって
なるほど!その手がありましたか!俺、孫子のことを説得してきます!
と言って
止める間もなくシマさんの元へ駆け寄り
必死に孫子の尊さを力説するカルネ君を
僕はスロットコーナーの影から
見守っていた。
数分後
腑に落ちない顔をしつつも
静かに首を縦に振った孫子の滑稽な姿
その後の昼休憩にカルネ君に
奢ってもらった缶コーヒーの味が
今でも忘れられない。
そんな日々話題に事欠かない
破天荒なカルネ君のおかげで
当時の自分は
楽しいパチンコ店員ライフを
送っていたのだが
それも突然の終わりを迎える。
カルネ君が
電撃解雇されたのだ。
電車内で携帯いじっとるのを注意してきたババアに逆切れして足蹴にしたら通報されて、それを店長に相談したら『うちはどんな理由であれ警察沙汰になったらかばえない』って即クビですわ。まあ、言われんでもそろそろこっちから辞めようかなって思ってたんでちょうどよかったんですけどね
との事だった。
因みにその数日後
自分が男子ロッカーの大掃除を任された時に
カルネ君のロッカーから
かつて自分がプレゼントした
100均の腕時計が出てきた。
一瞬悲しい気持ちにはなったけれど
実に彼らしいなあと
変な感動がこみ上げてきたのを
よく覚えている。
従業員の中にはカルネ君の事を
腹黒いと評する人もいたが
僕はちょっと違うと思っている。
彼はもっと単純で
1週間前の事は彼の中で
“遠い過去”
となり
仕舞に忘れてとっくに無かった事に
なっているだけなのだ。
カルネ君は三歩あるいたら忘れる
ニワトリを地でいったような人間なのだ。
薄情と純情は紙一重
なのである。
常にスリルを求め続ける彼は
Twitterによると
また役者業を再開したらしい。
リフォローしてくれない辺りから察するに
期待通り僕の事など忘れているし
きっとあの時付き合っていたFカップの彼女とも
別れて
またどこかの薄幸の美女を
掴まえて
ヤクザまがいのヒモ稼業をしているであろう姿を
期待してやまない。
きっと役者業も何かしらでトサカに来たら
簡単に足蹴にし
遠い過去の事として捨て去っていくのだろう。
それこそ真の男前。
ホントに心の底から肉肉しい男だ。
La fine