パンチェッタ

イタリア語で塩漬けした豚バラ肉の事を指し、パスタやスープなどにも応用される脂身の多い肉。
なおバラ肉とはバラで切り売りされた肉の意ではなく、あばら骨近くで取れた肉の事を意味する。

ある程度大人になると

お気に入りの場所が諸事情により

無くなっていることがままある。

しかもそれを知るのは

かなり時が経ってからだったりする。

自分にとってそんな場所が



elephantastic
(エレファンタスティック)



という清澄白河にあった

レンタルDVD兼中古本ショップであった。

遡る事今から5年前。


当時よくイジメられた門前仲町のパチ屋に

憂うつに自転車通勤する途中

心地よくうねる閑静な清澄通りに

ピタッとハマる感じで

『かもめ食堂』

とか

『魔女の宅急便』

に出て来そうな感じでその店はあった。


こじゃれたレンガと白い壁に

木造のDVDのポスト返却口


そしてガラスの入り口から一瞬

残像のように垣間見える

小学校の下駄箱みたいなレイアウトが

非常に気になった。

少女コミック的に例えると

いつも同じ時間のバスに

一コ隣の停留所から乗ってくる

同じ高校の制服の気になるアイツ

みたいな感じだったと思う。















多分違うけど。

そして勇気を出してお店に入ってみると

目がクリクリしたメガネのお兄さんが

パンチェッタ

いらっしゃいませ~

と、ヘラヘラしながら出迎えた。


後の調べによるとこのお店は

1928年建築の旧東京市営住宅を

リノベーションしたものらしい。

気になる棚の中には

ジャン・リュック・ゴダール

ペドロ・アルモドバル

ケン・ローチ

アレサンドロ・ホドロフスキー

といった

ピッツァ

おお、これおさえてるんだ。わかってるなあ。

とか

映画業界人やオサレ映画ファンが

ニヤニヤ唸りそうなラインナップであった。


ご他聞に洩れず

プロ脚本家志望だった自分も

ニヤニヤ唸りながら

その魅力に取り込まれていく。

それもそのはず

店長のパンチェッタさんが

ぴあフィルムフェスティバルの審査員

をやっていたその筋のプロというのもあって

パンチェッタ

ウチはヤクザ映画とか置かないんですよ。怖い人とか来たら嫌なんで

と言いながら

トイレの壁に


クエンティン・タランティーノ
『レザボアドッグス』


をこっそり貼る様なセンスが

自分の懐にグイグイ入っていく感じがした。



そんな流れでパンチェさんとの

映画トーク&レビュー付で

DVDを借り続ける日々が

2年くらい続いた。

趣味は早朝ランニングと

店休日に仲間とやるフットサル。


学校が終わった小学生の息子の宿題を

カウンター裏の机で教えながら接客する。


定期的に常連を招いてパーティーをやる。


など

まるでここはジブリに出てくる山村か

と勘違いするような緩やかな時間が流れる

理想郷であった。

パンチェッタ

好きな事をして生きてます、私


というオーラが

あざとさを感じない程度に

やんわりと出ていた。



それから門前仲町のパチンコ屋も辞めた後も


引っ越したり


仕事が変わったり


パチスロで死ぬほど負けたり


プロ脚本家への道を断念したり


フラれたり…


何となく節目ごとに

エレファンタスティックに行くことがあった。

その度にディープなパンチェさんの

ラインナップとレヴューと小粋な雑談

によって癒されていた。


新作の脚本を読んでもらって感想をもらったり



一度パーティにも呼ばれたし



地元出身の某大物若手俳優とも対談する



貴重な時間を与えてもらった。



日本上映時の

『スカーフェイス』

の映画ポスターも貰った。


映画の夢みたいなものをたくさんもらえた。

しかし、ある日変化が起きる。DVDの棚数を減らし、古本スペースが幅を利かすようになったのだ。

パンチェッタ

DVDはもうちょっとしんどいんで、古本を扱うことにしたんですよ。いま古本屋ってネット販売が盛んですごく調子いいんですよ。まあ、当たり外れの日が激しいんで毎日ギャンブルですけどね。あはは

との事で

自分も物置でホコリ被っていた


ヒッチコックの『映画術』

とか

日活ロマンポルノの評論本

など

それらしいものを半ば寄付するような気持ち

で売った事がある。

そして最近

パチスロに愛想を尽かし

ストリエのストックも溜まって来たから

おしゃべりがてら逢いに行こうと

Twitterをチェックしたら

まさかの閉店情報を

1年半遅れの更新履歴から知ることになる。

履歴から逆算するに

古本にシフトチェンジしてから半年後の

幕切れであった。

すごく悲しい気持ちになったが

いつか無くなるのではないかという

脆さもたしかにあった。



それは余りに

エレファンタスティックの理想の純度が

高すぎたからだと自分は思っている。


パチンコ屋は通称“養分”と呼ばれる

ギャンブル中毒者たちで保っているし


自分が携わった某整体業も

内情はマルチ商法の呼び水だったりもした。


バッティングセンターだって

ある程度マナーの悪い人たちは許容しないと

やっていけないし

マニュアルを破らざるを得ない事もある。

レンタルDVD業界が厳しくなった

という見方もできるだろうが

一番はあの店の正直さや清純さが

寿命を縮めたのだと思う。



自分の記憶が正しければ

エレファンタスティックは

創業8年目の閉店。


都内で1年以内に

潰れる個人経営の小売店が80%を越え

しかも

その殆どが準備資金を回収しきれない中

大健闘の数字だと思う。

誰かのブログで

そのクロージングパーティの様子が

楽しそうに書かれていたので

やはりみんなに愛された

良い店だったのだろう。

ピッツァ

まあ僕はそのパーティに呼ばれてないけどね!

とりあえず現在

10度目のパチスロ引退宣言中の自分は

パンチェさんに自分の転職祝いにもらった

タナカカツキ
『部屋へ!』

を読みながら

来年は自宅アクアリウムでもやろうかな

なんて考えている。


La Fine

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