Ⅱ 消える黒猫と暗黒の儀式

黒猫を知らないか?

ジョンがそういって誰彼かまわず黒猫の所在を訪ね歩くようになったのは、その頃からだ。
ちょうど時を同じくして、街では黒猫の失踪が相次いだ。
わたしたちがお世話になっている寮母のジェシーが飼っている猫も、早々にいなくなってしまった。

学内ですれ違った日、私は思いきってジョンに訪ねた。

ジョン、もしかして、君が黒猫を誘拐しているのか。

わたしの声は、かすかに震えていた。

ああ、そうだよ。実験に必要なんだ。……と、僕が自白したらどうする?実際、君は僕を疑っているんだろう?でも、君には物的証拠が無い。違うか。

あっさりと、ジョンは自らの罪を認めた。
その瞳には、強い信念の炎が揺らめいている。

その通り。僕は何の証拠もないし、君を咎めるのはお門違いだ。でも、ジョン……僕は友人として、君のことが心配なんだ。

友達ごっこか。僕のすることに、何か文句でもあるのかい?

ジョンの言うとおり、何の証拠もなければ野良猫の誘拐を咎めることは出来ない。
しかし、私は見てしまった。ジョンの瞳に、仄暗い地獄めいた光が宿っているのを。

ジョンのことが忘れられず、私は次の日、再び彼に声をかけた。

ジョン、どうした?体調が悪いんじゃないか?

ああ、君か。今夜、満月の下で儀式を行う予定なんだ……。

薄い膜が張ったような目で遠くを見ながら、ジョンは言った。
その頃のジョンは、明らかに憔悴しきった様子だった。
目は落ちくぼんで、髪や肌からは水分が失われている。

ああ、ジョン、まあ君の気が済むようにしたらいい。もし何か困ったことがあったら相談してくれ。わたしは君の一番の友達のつもりだからな。

私は下手に反対を表明することはせず、彼の思いを肯定した。
きっと彼は、恋人を亡くしたショックから立ち直れず、ありもしない夢想に耽っているだけなのだろう。

だが、翌日のジョンはもっと憔悴していた。

一体何があったというんだ。

ジョンは答えない。わたしの方を見ず、ずっとぼそぼそと独り言を呟いている。
しかし私は確かに聞いた。彼の恐ろしい言葉を。

くそっ、新鮮さが足りなかったんだ。

ジョンはたしかにそう口走ったのだった。

わたしは彼が心配でならなかった。

次の満月の儀式には僕も同席しよう。きっと君は疲れているんだ。

彼は答えなかった。

悪い提案ではないと思うのだが。

わたしが答えを促すと、

勝手にしろ。

興味なさそうに、彼は呟いた。
こうしてわたしは、彼の悪魔めいた儀式に同席することになった。
ここに最終的な終焉の幕が下り始めたのである。

――狂気の始まりまで、あと少し。

Ⅱ 消える黒猫と暗黒の儀式

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