Ⅰ 恋人の死
Ⅰ 恋人の死
やあ、ジョン、レイラ。今日も仲が良さそうだな。
やめてよ、私たちはいつも通りだわ。
レイラ、そうじゃないだろ。僕たちは”いつも通り”仲が良いんだから。
もう、ジョンったら!
ジョンがレイラの手を取りキスをすると、レイラは照れたように愛想笑いを浮かべる。
おいおい。おまえたち、昼間から見せつけるなよ……。
間にいる私は気まずくて、そそくさとその場を立ち去った。
ジョンとレイラは、ともにわたしの大学の同級生だ。
二人はお似合いの恋人同士だった。
思慮深く常に冷静沈着なポールと、快活でよく冗談を言って笑うレイラ。
彼ら二人が寄り添う姿は、周りの人間まで幸せにした。
だが、そんな彼らも、今はもういない。
ある夏の日の午後、レイラは交通事故に遭い、亡くなってしまったのだ。
ジョンは埋葬するまで棺にすがりつき、涙が枯れてしまうのではないかというほど泣いた。
葬儀が終わった後の彼は、ぼんやりとしていることが多くなった。
ある日の午後、私は大学の図書室でジョンに会った。
見慣れない黒皮装丁の重厚な本を小脇に抱え、まるで誰かから見つかるのを恐れるように歩いていた。
ジョン、一体それは何の本だ?見たところ、特別室に所蔵されている貴重な本のようにも見えるが。
ああ、君か。いかにも。これは僕が特別室に忍び込んで持ち出した、蘇生魔術に関する書物だよ。ここに、死者を蘇らせる方法が記されているんだ。
おいおい、馬鹿なことをいうな。そんなわけがないだろう。
わたしは慌ててジョンをたしなめた。
だが、彼の表情は、冗談を言っている人間のものではなかった。
君がそう言うことはわかっていたよ。誰だって信じられないだろうからね。本当かどうかは、僕が証明してみるつもりだ。
ジョン、何を言っているんだ?そんな怪しげなことに手を出すのはやめろ。
何、特別なものが必要になるわけではないんだ……必要なのは、そう……黒猫だけ。
黒猫?寮母のジェシーが飼っているような、黒い毛の猫のことかい。
なるほど、ジェシーが飼っているのか。これは都合がいい……。
ジョンは顎に手を当て、口の中で何事かを呟く。
お、おい、ジョン!今、何を言ったんだ?
おっと……言い過ぎたね。今のは聞かなかったことにしてくれ。僕はそろそろ帰るよ。では失礼。
ジョンは一方的に会話を終わらせると、くるりと背を向け図書室から出て行った。
おい、待てよ、ジョン。
わたしは呼びかけたが、ジョンが振り返ることは決してなかった。