悟くん

なんだ……?

夕食、作りました

すごいな……

先ほど怜奈さんと一緒に買い物に行ってきたので

なるほど

さあさあ、食べないうちにどうぞ!

……ああ

……

おいしい

それはよかったです!

……なんか、テンション高いな

へへへ、そう見えます?

ああ

だって、祐里奈ちゃんが人形を大切にしていてくれたって分かって、将来の夢を真っ直ぐ追いかけてくれるのも分かって、嬉しいんですよ

……まあ、それは俺も同じだ

本当によかったです

ああ

だから今日はごちそうです!

……お前、俺に何か隠していないか?

え?

何かがおかしい

そ、そうですか?

へへへ、たまこはいつも通りのたまこですよっ

……

お前は、人形の魂なんだろ

……

だから、人形の魂らしく、そろそろ人形の身体に戻れ

お前は元々依代を探していたんだろう。依代なら作った

……祐里奈ちゃんに渡した人形ですね

ああ

嫌です

な……っ

祐里奈に渡された人形は受け継がれてきたものとは別の人形……祐里奈ちゃんもそう思って接することでしょう。それを見るのはちょっと微妙な心境というか……

……

だから、新しい人形を作ってください

はぁ?

それとも作れませんか? 自称人形師さん

お前さっき自称じゃなくなったと言っていただろう

ならもう一度、それを証明してください

私の、私だけの依代をください

我儘だな

そうですね

でも、自分が宿る身のことですから、ちゃんとしたものが欲しくて

分かった分かった……どうせこれからも仕事をするんだ……お前が納得するものを作る

ありがとうございます!

それから悟は人形を作り始めた。沢山の依頼を受け、その要望にそった人形を作った。

悟、芸術祭の展示作品の募集があるんだけど

見せてくれ

どう? 無償の依頼じゃ受けられないなら……

いや、やる

芸術家は知名度も必要だしな……腕試しにもなる

悟……!

彼は変わった。有償無償関係なく、依頼に沿った人形を作り続けた。

たまこ、今回の人形はどうだ?

うーん……目が活き活きと輝いています! 今回も素晴らしい人形ですね

それと、次の作品の案だが……

んー、これは洋服のフリルが多すぎませんか? 依頼主のことを考えると、もっと落ち着いた服の方がよさそうです

そうか、ありがとう

い、いえ……

彼はよく笑うようになった。たまこからもいくつもアドバイスを貰い、人形を作り続けた。
けれど、

たまこ、この人形はどうだ……?

……だめです

たまこは何故か彼の作品の数々に乗り移ろうとはしなかった。彼の作品を絶賛しているにも関わらず、いつも憂鬱な表情で首を振った。

だって……

ん?

いえ、なんでも

たまこは擦れるような声で首を振った。その時、悟は気が付いた。

たまこ、足……

たまこの足が透け始めていることに……

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