倒れたビル、散乱する瓦礫、チープな終末の映画のセットのようだ。うず高く詰まれたコンクリートに座ってぼんやり考えた。
 ここが現実で、ほんの前まで、ここが世界有数の経済都市だったなんて、信じられるだろうか。
 いや、今となってはどこも似たような状況か。

だって、みんな邪魔だったんだもの

 何人生きているんだろう? この辺では物音もしない。

みんなみんな邪魔だった

 気配も、無い。

きみと、私の、邪魔だったの

 すべて消えた。

きみの友達もきみの家族も私の家族も“会っちゃいけない”って

 数日前まで、俺は普通の高校生で、俺には家族がいた。数日前まで。

邪魔、するんだもの

 背後から搦まる細い腕。

 数日前の俺には、ストーカーがいた。

だからね、無くなっちゃえば良い、って思ったの

 始まりは告白だった。可愛かったが断った。
 その内付き纏われて。最初は囃していた友人たちも。

みんな、“がんばれ”って言ってくれたのに

 次第に常軌を逸したストーカーの言動に危機感を持った。

ちょっと、私のきみを誑かす女を階段から突き落としただけで

 始めは俺を宥めていた家族も、不法侵入を繰り返すストーカーに恐怖を覚え。

きみのお父様もお母様も、“出て行け”って

 警察にだって頼った。

とうとう、国家権力すら妨げて、さ

 全部が俺の味方をしてくれた。でも。

だから、消しちゃった

 ストーカーは『天才』だった。
 俺が狙われたのもたまたま、空港で学会に向かう途中だったストーカーの落し物を拾ったから。それだけ。
 あんな華奢で小さな少女が、細菌学の天才だなんて誰が知るか。
 幸い、権力はストーカーの親が持っていて、俺のことは気に入らなかったストーカーの親は俺に協力的だった。だが、研究所に隔離され、追い詰められたストーカーは。

結構簡単に出来たんだ。これってさ、

 悪魔を、造り出した。

神様も祝福したんだって思うんだ

 異国の神を貶めたのが悪魔の原点だと言う。
 なら、確かにストーカーの元で産声を上げた悪魔も、神なのかもしれない。

これで、何の障害も無く、二人きりだね

 ストーカーが俺の項に頬を擦り付ける。
 撒かれた細菌の阻害剤は二人分。
 俺と、コイツの二人分。
 真実を知らない大勢は恐怖に陥って、無益な暴走を起こした。
 そして、爪痕だけ遺して消えた。

あいしてるよ

 ヤンデレストーカーに知恵を与えてはならない、と俺は知った。
 今更身を以て知ったところで無駄知識だけど。

   【了】

ヤンデレストーカーの完結世界

facebook twitter
pagetop