わたしは最初、彼を見て恐怖した。こんなにも人間に見えるのに、人間ではないという事実に。
今まで人形師であるおばあちゃんのそばで星の数ほどビスクドールを見てきたはずなのに、ここまで精緻な人形は初めて見たのだ。
確かにこの人形の瞳は空虚で、そこには何も詰まっていない。生命も夢も、感情でさえも――。にもかかわらず、誰もが精巧な造りのそれに、心を奪われた。もちろんのこと、わたしもだ。
ただ、そんな魅力的な彼には唯一の欠点があり、そこで人々の購買意欲がそがれているようなのだ。
彼には、右目がない。
そう、ぽっかりと目玉のない目が、ブラックホールのような闇を彷彿とさせる。通りがかる人々はそれこそ一瞬は彼の美しい容姿に見ほれるが、その欠陥を見てすぐに目をそらす。