二度も八十神に殺されたオオナムチは、スサノオに助けを求めて、黄泉比良坂(よもつひらさか)の先にある、根堅洲国(ねのかたすくに)に向かった。


黄泉比良坂の先には黄泉の国もある。スサノオは、子供達に出雲を託した後、ずっと会いたがっていた自分の母親、イザナミの近くに移り住んでいたのだ。

オオナムチ

まさか、あの伝説のヒーローがマザコンだったとはねぇ〜。知らなかったよ。

八十神の追っ手から逃げ切ったオオナムチが黄泉比良坂を下り、しばらく歩いていると、立派な宮殿が建っているのが見えた。

オオナムチ

スサノオ様が住んでるくらいだ。きっと、ここだろう。

と思いノックをしようとすると、急にその戸が開き、出てきた人とぶつかった。

スセリビメ

きゃっ!

と、若い女の人が小さく声を上げる。

オオナムチ

わっ、ビックリした ・ ・ ・ ・ 大丈夫?

スセリビメ

ごめんなさい ・ ・ ・ ・ お客様がいたなんて

・ ・ ・ ・ ・ ・ っっ!

2人の目が合うと、その場の空気が急に変わった。


初対面にも関わらず2人は惹かれ合い、見つめ合う。

オオナムチ

あれ、どうしよ。
目ぇ逸らせない ・ ・ ・ ・

そして、オオナムチと彼女は引き寄せられるかのように唇を重ね合った。

オオナムチ

うーん。
人ん家の玄関先でまずいよな ・ ・ ・ ・

と思いながらも止めることができない。


彼女は後ずさり踏み石に足がかかると、そのまま玄関に腰を落とした。オオナムチは彼女に覆い被さる。

オオナムチ

てゆうか、コレいけちゃう感じ??
誰かに見られたらやばくない??

なんて思いながらも続けて首筋にキスをする。

スセリビメ

んっ ・ ・ ・ ・

オオナムチ

あ。無理だコレ。
止まんないや。

そのうちオオナムチは、考えるのをやめた。

数十分後。


オオナムチは、ふんどし一丁のまま土下座をしていた。

オオナムチ

スッ ・ ・ ・
スミマセンでしたあぁぁぁぁ!!!!

初対面で襲ってしまった手前、もう平謝りするしかない。

オオナムチ

こんなつもりで来たわけじゃないんですけどっっ!!

スセリビメ

いえっ、私の方こそ ・ ・ ・ ・ !!

彼女も肌着姿のまま頭をペコペコ下げる。端から見ると、すげーシュールな図だ。

オオナムチ

えっと ・ ・ ・ ・ ごめん、名前も聞いてなかったね。僕はオオナムチ。スサノオ様に会いに来た。てゆうか、そもそもこの家で大丈夫だった?

スセリビメ

あ ・ ・ ・ はい。
私はスサノオの娘、スセリビメです。

オオナムチ

へっ!?
・ ・ ・ ・ 娘っっ??

オオナムチは、血の気がサーっと引くのを感じた。

オオナムチ

いや、そうだよな ・ ・ ・ ・
同じ家にこんな若い子いたら、娘の可能性大だよな ・ ・ ・ あぁ~~やっちまったぁ!!!

スセリビメ

ふふっ、大丈夫よ。
パパ、昔は荒ぶる神だったらしいけど、今はすっかり落ち着いて優しいもの。

オオナムチ

えっ、あ ・ ・ ・ ゴメンナサイ。
顔に出ちゃった ・ ・ ・ ・

スセリビメ

案内するわ。
服はちゃんと整えてよね。

オオナムチ

はい、スミマセン。

オオナムチの身支度が整うと、スセリビメが、スサノオの部屋まで案内してくれた。とても大きな宮殿だ。

オオナムチ

家の中で迷いそう。

そんなことを考えていると、彼女は立ち止まり『ココ、ココ。』と大きな扉を指差した。緊張で肩が強張る。

スセリビメ

パパいる??素敵なお客様よ。

彼女の後ろから部屋の中がのぞけて見えた。

オオナムチ

あの金屏風の絵は ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 龍虎?

それに赤と金を基調にしたこの部屋の配色、どっかで見たな ・ ・ ・ ・

オオナムチ

あれは確か ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 火曜の深夜にやってたヤクザ映画 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

部屋の中から、ドスの効いた低い声が聞こえてきた。

あぁ?珍しいな。誰だ?通してくれ。

・ ・ ・ ・ つーかお前、何か顔、赤くないか?熱でもあんのか??

スセリビメ

えっ??そうかなぁ??
気のせいじゃない???

ささっ、オオナムチさん、こちらですよ~。

オオナムチ

アッ ・ ・ ・ ・ ドウモ。
アリガトウゴザイマス!!!

オオナムチ

まずい!!無駄に緊張するっっ!!

スサノオ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

オオナムチ

っっこの人がスサノオ様?

うわぁぁぁ ・ ・ ・ ・ すげェ睨んでる。こっちすんげぇ睨んでるよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

怖えぇぇぇぇぇ!!!

オオナムチ

え ・ ・ ・ ・ えーっと、初めまして。 ・ ・ ・ ・ 僕はオオナムチと申します。あなたの6代孫にあたる者で ・ ・ ・ ・

スサノオ

なんだ。足藁の色男じゃねぇか。
で ・ ・ ・ ・ 何の用だ?

オオナムチ

足藁の色男って何っ!?褒められてんのか、けなされてんのかわかんないっ!!!

スサノオの睨みにビビリながらも、ここで引き下がるわけにもいかない。

オオナムチ

はは ・ ・ ・ ・ 初対面で、そんな睨み効かせないでくださいよ。えぇと ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

オオナムチ

実は僕、異母兄弟に殺されそうで ・ ・ ・ ・
いや、てゆうか、正直に言うと二度も殺されてしまいまして。

情けない話しなのですが、スサノオさまに助けていただこうと思い伺ったのです。

スサノオ

あぁ??なんだ?コラ?頼りねぇ奴だなぁ。オィ。
テメェでなんとかしろよ。

オオナムチ

まぁまぁ、そう、おっしゃらず ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・出雲に帰れば、また命を狙われます。僕だって、そう何度も何度も死にたくない。

スサノオ

あぁ~あぁ〜〜 ・ ・ ・ ・ オレの血を受け継いだとは思えないナヨさだな。

スサノオ

でもまぁ、血族のよしみだ。とりあえず今日は、うちに泊めてやるよ。
部屋を貸してやろう。

オオナムチ

あっ ・ ・ ・ ・
ありがとうございます!

スサノオは早速、案内をしてくれた。どうやらこの部屋らしい。


緊張で肩に力が入りっぱなしだったオオナムチだが部屋をのぞいた瞬間。


今度は全身が強張った。

オオナムチ

・ ・ ・ ・ スサノオ様 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ここは?

スサノオ

あぁ?見りゃわかるだろ?
蛇の室屋だ。

オオナムチ

室屋!?牢獄じゃ無くて??

だいたい何で、家の中に蛇の室屋があるんだよっ!!!
拷問以外にどんな用途があるんだっっ!?

オオナムチ

えっと ・ ・ ・ ・ 部屋中ヘビまみれで、足の踏み場が無いんですケド。

スサノオ

あんだぁ?コラ??
泊めてやるっつってんのに文句あんのかオィ???

オオナムチ

ヒィ!!この人、めっちゃ怖えぇ ・ ・ ・ ・ 絶対カタギの人間じゃないっ!!!!

オオナムチ

いやっ!!めっちゃ嬉しいです。
まじ、ヘビ大好きっす。

スサノオ

おぅ、ならいいんだ。そこに、ワラがあるから、開けてもらえ。毒蛇も混ざっているから気をつけろよな。
俺はもう寝る。じゃあな。

オオナムチ

・ ・ ・ ・ はぁい。
おやすみなさぁい。

スサノオはさっさと自室に戻ってしまった。

オオナムチ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はぁ ・ ・ ・ ・ どこが優しいパパだよ。 ・ ・ ・ あぁーまずいなぁ ・ ・ ・

アレ、ばれちゃったのかなぁ ・ ・ ・ 。

オオナムチが、途方に暮れていると、後ろから声がした。

スセリビメ

オオナムチ ・ ・ ・ ・

オオナムチ

スセリビメ!!

スセリビメ

シッ!静かに ・ ・ ・ ・
パパに内緒でヒレを持って来たの。

ヒレとは昔の女性とか、天女とかがよく肩に巻いてる、ヒラヒラしてるあれだ。
しかしこれでは、ヘビを避けようがない。

オオナムチ

うぅん、気持ちは嬉しいけど、ちょっとそれじゃぁふせげないかなぁ ・ ・ ・ ・

スセリビメ

違うわよ。
ちゃんと最後まで聞いて。

スセリビメ

これはヘビのヒレって言って呪力があるの。三回振るとヘビは大人しくなるわ。

スセリビメに言われた通り、ヒラヒラと三回ヒレを振ると、蛇はピクリとも動かなくなった。

オオナムチ

おぉ!すごーい!
ありがとう、スセリビメ!!これで、なんとか眠れそうだ!!

こうしてオオナムチは彼女のおかげで蛇の室屋で一夜を過ごすことができた。


しかし、スサノオの試練はまだまだはじまったばかりだった。

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