ちょうど良いレベルで魔族達を撃退したら手を抜くなと言われ、人間達がうぬぼれて上級魔族を呼び出したのをフォローしたら助けるのが遅いと叫ばれ、人間達の三角関係に無理矢理使われていた魔族を助けたら怒られて戦わされ……

 彼女の話を切いて、あぁそういえば人間にも良いやつらっているんすね……、って話してた部下を思い出す。
 つまりそれは、人間の行いが基本的に我らにとって良いものではないということに他ならないが……どうやら、我らを助けていたのは勇者達であったらしい。
 ――あれ、勇者なにしてんの?

むしろその結果、教えましょうか? 教えますよ? っていうか聞いてくださいよ魔王さん!

 血走った眼でうったえかけてくる巫女。美人がだいなしなほどに眼が真っ赤で、そこらの幹部よりよっぽど魔族っぽいと感じてしまうな。
 ……というか、魔王さんって呼ばれたが、別に我らは友達でもなんでもないのだが。
 彼女の表情と口調からは、巫女という単語から発せられる神秘性は、もうまるで感じられなかった。むしろ、あまりにも表情豊かで、真実や現実より教義を第一とする巫女というイメージからはほど遠くなってきた。
 長旅がそうさせたのか、それともそういう性格だったのか。
 そんな我の胸中を無視して、巫女は絶叫を続ける。うむ、めんどくさい。

彼らが叫んだのは、こうですよ。『お前等が力不足だから、村が襲われるんだ!』、『むしろお前等が魔族を呼んでるんじゃね!?』、『人間の心が悪いんじゃない、心を操れる魔族が悪いんだ』、『この村の住人はHP5しかないので、HP300のあなた達は野宿してくださいね』って……わかりますか!?

 うわぁ、なんかどこかのひねくれ者が作った物語みたいだなぁ、と我は内心で呟く。
 ふと、そんな物語をいくつも語る魔族が、昔いたことを想い出す。が、我の方針に会わなかったのか、

人間の方が、シンパシーが合う

と言って出て行ってしまった。彼は今、なにをしているのだろうか。……もしかすると、人間に流布されている物語って、もしかしてと考えてしまう。

ひどいんです、ひどいんです……別に評価してほしいわけではないけど、あんまりなんです……!

 巫女はそこまで言って、逆に怒りすぎたためか、息を切らして言葉が止まってしまった。
 ちょっと心配したが、背中をなでるわけにもいかず、とりあえず魔王っぽいポーズで彼らの言葉を待った。待つしかなかった。

 ちなみにこの姿とポーズ、魔力で維持しているので、けっこう疲れる。早く終わりにしたいのだが。

俺たちは、そんな旅を続けてきた……人間を守りながら侮蔑され、魔族を倒しながら気を使われる、そんな日々を

……そして、気づいた

 脇に控えていた魔法使いが、ぽそりと相づちを打つ。
 その言葉にうなずいて、勇者は勢いよく我を見据えて一気に言った。

俺たちが感じていたのは、それが一点――『守る人間より、魔族の方が俺たちのことを考えているんじゃないか?』

 勇者の言葉に、我は口ごもってしまった。
 ――これは、実のところ間違っているわけではない。
 我はある目的を持って、勇者たち一行にはこの魔王城まで来てもらう必要があった。
 そのため、幹部連中に言って監視させ、無茶な道程を歩ませないようにしていたのだが……。

――だが、我らは人間の闇につけ込んで、お前等を襲わせたりもしていたのだぞ?

 非道な手は、怒りを誘うもの。
 我ら魔族を敵と識別しやすいよう、人間関係の隙をついたり、彼らの寝込みを襲ったり、親類を人質にする等、ある程度の筋書きを指示していた。

ああ、確かに。確かに、一見すると魔族の手により人間の争いが起こったように見えることが多かった……

 一見するとわからない、だが気づくとスパイスのように効いてくる、それこそが彼らの怒りを最大限にひきだすはず。

だが、その発生源を調べると、魔族のものだった土地を奪った人たちが、自分の権利を主張しあっていたり

 ……あれ?

人間と人間の相続争いに、その殺人の主犯を魔族のせいにして、わたしたちにどちらが正当か認めさせようとしていたり

むしろ、俺たちが宿を拒否され野宿するしかない時、魔族が一式キャンプセットを用意しているのを目撃して、違和感しか覚えなかったよ……

 そんなわざとらしく助けろとは言ってないが、我の部下は甘すぎるな……。

魔族の方、いなくなっちゃって……毒とかもないし、きれいだったから、使わせてもらった

けれどキャンプするわたしたちを、異邦人だとして襲ってきたのが、その村の人達だったのです

(えぇぇ……)

 彼らはたんたんと語っているが、言っているのは同族への裏切りではないか。無知が恐ろしいのか、村の掟が怖いのか、それとも魔族のキャンプセットが丁寧すぎるのか。

そ、そうか……

 我は彼らに対してかける言葉が見つからず、あいまいにうなずくことしかできない。
 彼らが守るべき人間が、我らよりひどい扱いで接してどうするんだ……。
 人間達の疑り深さ、非道さはある程度考えながら幹部や部下に指示は出していたが、たまに口ごもることがあったのはそういう理由か。
 あまりにも非道な行いの前には、自身の価値観が揺らいでしまい、戦意を喪失することもある。我の部下も、もしかすると彼らも、そうなったのかもしれないと想い至る。
 しかし、過去にも我々より奪った土地が膨大にあり、人間同士で争う必要などないだろうに――つまり、人間の慢心と増殖は、我の予想より大きいもののようだ。

……人間の魔は、根が深いものなのかもしれません

 そう呟いたのは、道士の少女。白い肌のおとなしそうな表情、全身をまとった黒のローブに、知的で沈んだ雰囲気を感じさせる。
 この世界の五行精霊と通じ、道術を使いこなす者。道士とは、古来より上級魔族が行使していた超常現象を、人間の身で扱える者のことだ。
 彼女の力はとりたてて強いらしく、部下などの話でもたびたび話題になっていた。

……?

 しかし対面して、初めて我は奇妙な違和感を彼女から感じた。
 ――ふむ、この少女の気、どこかで感じたことがある?

02 - 巫女の嘆きへ同情することになった

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