爆音とともに、我の部屋の扉が開かれた。
魔力で堅く閉ざされた部屋の扉は、それ相応の力を持つ者以外に開くことはできない。
それが意味することは、たった一つ。
――待ちわびていた者達が、ようやくやってきたということに他ならなかった。
爆音とともに、我の部屋の扉が開かれた。
魔力で堅く閉ざされた部屋の扉は、それ相応の力を持つ者以外に開くことはできない。
それが意味することは、たった一つ。
――待ちわびていた者達が、ようやくやってきたということに他ならなかった。
見つけたぞ、魔王テラー!
じゃり、とした足音を響かせながら入ってきたのは、リーダー格らしい男。
精悍な表情に、すらっとしたたたずまい。片手に力を帯びた剣を持ち、もう片手に全身を守る盾を身につけたその姿。
彼を見て、我は確信する。まさしく、勇者と呼ぶにふさわしい。
我は、歓喜した。ついに、この時が来たからだ。
待ち望んだ、この時が――!
よくきた、歓迎するぞ勇者ども!
椅子からその身を持ち上げ、我はありったけの威厳をふりしぼって腹の底から声を出す。
さぁ、始めようではないか……最後の戦いをな!
両手をかかげ、魔王としてありったけのポーズを作る我に対して――勇者がかかげたのは、剣ではなく言葉だった。
待て、その前に聞きたいことがある!
なに……!?
全力でその身にオーラをまといはじめた我に対し、勇者はなぜか話し合いを持ちかけてきた。
問答無用で戦いを始めるつもりだった我は――我にとっては、もう話し合うことも苦しい――次の一言に、毒気を抜かれてしまった。
魔王テラー……いや、魔王テラー殿に!
ど、どの!?
次いで、勇者は手元の剣をどかっと床に突き刺して、高々と声をはりあげた。
貴殿と休戦したいと考えるが、いかがか!?
……え?
ちょっと自分でもいかんくらい、身に似合わぬ高い声が出てしまった。間が抜けていることこの上ない。
よって咳払いを一つして、改めて低い声で勇者に睨(にら)みをきかせる。
い、いや、我は今だな、全力で魔力を展開し、戦う体勢を整えたのだ……貴様等にとって、討つべき相手との戦いの時なのだぞ?
申し訳ないが、その力は適当に放出するか、なんなら俺の盾あたりにちょいと良い加減に出してもらえないだろうか?
スー、スー、ハー、って感じでしょうか?
いや、誰も子供なんて生まないのだが。横から聞こえてきた可憐な声に突っ込みたくなったが、我のイメージと合わないのでやめておいた。
(さて、どうするか……?)
想いきり吹き飛ばそうかとも想ったが、なぜか純粋な瞳でこちらを見つめてくる勇者パーティーの視線がまぶしく、ためらう。
罠ではないか、と想いながらも――我はなんとか、展開していた魔力をゆっくりと収めてゆくことにした。次第に威圧感がすぼみ、あたりに放出していた魔力も収まってゆく。
あ、盾いりますか?
大丈夫なんで、ちょっと待っててもらっていいか?
もう少し、もう少し……。
……ふぅ、これで良いか
すまないな、テラー殿。休戦に応じていただいて
休戦ではない。貴様等は、我を討つためにきたのだ……ただ、その前に話を聞いてやろうというだけのことだ
なるほど
勇者はうなずくと、懐からなにかを取り出して眼を通す。
どうやらそれはメモ帳らしきもののようで、見ながらうなずき、少ししてそれを閉じてまた我へと視線を戻した。
では、聞かせてもらいたいことがある。不自然なことが多すぎるからな
ほう、例えば?
我は知らぬふりをしながら、彼らの言葉を聞くことにした。
旅立ちの地と、道中、そしてこの場所――生息しているモンスターの強さが、違いすぎる
そう、まるで事前に段取りよく配置されていたかのようで、出来すぎですわ!
そう叫ぶのは、勇者と共にいる少女。さっき、横から口を出してきたのも彼女だ。
おそらく彼女は、人間の王国に代々使える神の巫女であろう。かなりの太古に見たことがある装いと、ほぼ変わりがない。
無理矢理ルートを変えようとすると、なぜか上級魔族の介入が入って、ちょうどよいルートを教えてくれますし……
……気のせいではないのか?
我は否定しながら、実はそうでないことも知っていた。
力およばぬ彼らがくじけそうになった時、気づかれぬ程度に人間側へ手を回すように言っておいたのは、他ならぬ我自身だからだ。
……ひどいのは、人間達ですわ
すると、うるっとした目つきで巫女は突然泣きだした。
え、なに言い出そうとしてるのこの子。