ふむ……いったいどうすればいいでしょう

どうもこうもない。門前払いされたんだ。帰るしかないだろう

そうやってすぐに諦めるのが現代人の悪い癖ですね

どことなく年増臭が漂っているぞ

可憐な乙女に大して酷いです

……人形の魂じゃなかったのか

私を人間として扱うと言ったのは悟君じゃないですか

それはそうだが……

 自分たちを追い出した優里奈の家の前で二人は言い争いをしている。人形作りを依頼したという事実を拒否した彼女は慌てているようにも見えた。一体何故なのか。

そういえば、優里奈ちゃんの後ろから誰かが呼ぶ声が聞こえてきていましたよね

ああ……

あれは一体誰でしょう。男の人のようですが……

兄や父親ではないのか?

違います。私の知っている声ではありませんでした

じゃあ……あとは恋人だとか

うーん……そんな雰囲気でもなかったような気がするのですが

分からないぞ。恋愛事情なんて人それぞれだ

まあ、そうですよね

因みに悟君は恋をしたこと、ありますか?

はぁ?

ありますか?

……どうだっていいだろう

あるんですね

何でそうなる!

何かを隠しているような顔をしていましたから

黙れ!

はい、出ました。図星の時の悟君の『黙れ』

……お前、人の揚げ足を取るのが上手いな

いやいや、それほどでも~

褒めていない。とにかく、帰るぞ

ああ、交通費が無駄だった

んー……もうちょっと粘ってみませんか

は?

このまま門前払いされては納得がいきません

そうはいっても、あまり押し掛けるのも……

らしくないですね。悟君ならもっと遠慮なくずばずばいくと思っていったのですが

そこまで非常識な人間じゃない

あ! 誰か出てきました!

ん……?

……

何だ? お前たち

……あの、私たち優里奈さんに用があって来たのですが……

優里奈? ああ、中にいるぞ

それはよかったです。
行きましょう、悟君

……面倒くさい

そう言わずに

悟……?

あ?

お前、三宮悟か?

……そうだが

弓月芸術学校の落ちこぼれ、三宮悟だな

……今は天才人形師の三宮悟だ

自称ですけどね

黙れ

お前は一体誰だ?

……分からないか?

ああ、知るか

そうだな……お前はある意味有名人だったけど、俺は至って平凡な生徒だったから。でもお前より優秀であったことは間違いない

過去のことなんてどうでもいい

ふうん

なんだ、その目は

過去のことはどうでもいい……なら、何でお前は人形師なんて変わった仕事を今でも続けているんだ?

……お前には関係ない。俺はただ人形作りが好きなだけだ

ふーん

だから、何だその目は!

怜奈

……!

怜奈のこと、忘れた訳ではないだろう

 怜奈……その言葉を聞いた瞬間悟は言葉を失い、目の前の男をじっと見つめた。

んー、完全についていけません

 突然の展開がいまいち理解できないたまこは、首を傾げて怜奈という人物が一体何者かを推測し始めるのだった。

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