幽霊よりも甘味が食べたい

第9話
「第2会議室の呪い(3)」



















ピヨ助

…………

 

…………

ピヨ助

…………

 

…………

佑美奈

…………

ピヨ助

……ってなんか言えよ



ピヨ助くんの誰何に、
女の人の幽霊はただただ黙って
わたしたちを見ていた。

幽霊さんはびしょ濡れで、
ぽたぽたと止めどなく水が垂れ、
そこにいるだけで水たまりができそうだ。


ピヨ助

参ったな、もしかして喋れないのか? さすがにそれは想定外だぞ

佑美奈

そうなのかなぁ?

幽霊さん、聞こえてますか?
これ、着ぐるみみたいだけどヒヨコの姿になっちゃった人間の幽霊なんですよ

ピヨ助

なんだその紹介……間違ってはいないが

 

私は……

佑美奈

あ、喋ったよ


ゆっくりと口を開く幽霊さん。

 

私は……呪いの……幽霊

ピヨ助

呪いの幽霊か。
それはそうだろうけど、怪談で出てくる死んだ作業員は、さすがに男だと思うが?

 

それは……

ピヨ助

そもそもだ。
事故は本当にあったことなのか?

 

それは、わからない。私は……

佑美奈

わたしは……?

 

作られた……幽霊。
みんなが噂して……それで生まれた存在

ピヨ助

むっ……そう、なのか?

佑美奈

怪談から生まれた幽霊……。
って、ピヨ助くんの考えてた通りだよね?


それなのに、ピヨ助くんは少し不満そうな様子だ。

ピヨ助

確かに、怪談自体は噂から生まれたものだろうと考えていた。

だが……霊もそうなのか?
なにも無いところに霊が生まれるなんてことがあるのか?

 

実際……私はこうして生まれた。

だから私は、あなたのような感情はない……。
ただただ、呪われた人の前に現れるだけ

ピヨ助

そういうものなのか……?

佑美奈

ね、じゃあピヨ助くんはどう考えてたの?

ピヨ助

天井の染みに別の真実があると思っていたに決まっているだろう

佑美奈

別の真実……?


ピヨ助くんは、
作業員の事故は無かったと考えている。
ということは……。

佑美奈

そっか、まったく知られてない事件かなにかがあるんじゃないかってこと?

ピヨ助

ほう、少しは考えることを覚えたようだな。

語られることのない何かがあり幽霊になったが、怪談が語られ続けるにつれて存在が変わってしまった

ピヨ助

……そう考えていたんだがな


ピヨ助くんの言いたいことはわかる。

前回の経験から、
怪談にはそういう真実が
潜んでいる場合があると、
わたしは知っているから。



 

おかしなことを言うのね……。
私は……作られた存在。
隠された真実なんて無い……



佑美奈

……なんか、脈無さそうじゃない?

ピヨ助

むっ……ハズレたか?
いやしかし……


どうやらピヨ助くん的には、
怪談自体は人の想像から生まれることはあっても、
幽霊そのものが生まれることはないと
考えているみたいだ。

それはやっぱり、
ピヨ助くん自身が幽霊だから
そう思うのかな?



佑美奈

うーん……あ、そうだ幽霊さん。

お名前聞いてもいいですか?

ピヨ助

お前は毎度毎度……。
作られたって言ってる幽霊に名前なんてあるわけが

 

名前? 私は、みずる。
あなたたちは?

ピヨ助

ってあるのかよっ!


驚くピヨ助くん。

わたしもダメ元で聞いたんだけどね……。
本当に名乗ってくれるとは思わなかった。

佑美奈

わたしは弓野佑美奈です。
こっちのヒヨコは……ピヨ助くん?

ピヨ助

なんで疑問系なんだよ

佑美奈

だって本名じゃないでしょ?

みずる

……どういうこと?

ピヨ助

なんでもない。ピヨ助で構わん。

……で? みずると言ったな。
その名前、どうしたんだ?
作られた存在なんだろ?

みずる

……さあ。わからない。
でも私は……みずる。
怪談より生み出された……幽霊



ピヨ助

ああもういい。
俺は怪談を調査し、その真実を解明するのが目的だ。
さっきも言ったが、俺はこの怪談には隠されたなにかがあると考えている

みずる

そう……。
でも、私は怪談話から生まれた存在。
それ以外はわからないし、なにかが隠されてるとも思えない。
怪談の通りに、呪いを実行するだけだから

ピヨ助

呪いを実行だと?
お前が呪われた人に取り憑いて驚かせているってことか?

みずる

ええ……そういうこと……


視界に入る濡れた女の人はもちろん……。
窓に手形を付けたり、
足首を掴んだりするのも、
全部みずるさんがやっている……
ってこと?

佑美奈

へぇ……。
あ、じゃあ昼休みに廊下が水浸しになったのって……あれも、みずるさんがやったの?

みずる

ええ、そうよ。
実はこの怪談話試したの、あなたが久しぶりなの。
だからちょっと緊張しちゃって、水で足跡付けるだけだったのに、転んで思いっきりぶちまけちゃったのよね


みずるさんは若干声のトーンを上げて、
突然饒舌になった。

思わずぽかんとしていると、

みずる

……そういえば……足首も掴んだ。
これも……怪談の通りに


……感情の無い、
ゆっくりした話し方に戻った。





佑美奈

…………

ピヨ助

…………


思わずピヨ助くんと目を合わせる。
これは……。

佑美奈

えっと……さっきの、足音は?

みずる

あ、驚いた?
ちょっと怖がらせようと思って。
全力で走ってみたんだけど

佑美奈

は、はぁ。
それはものすごく、怖かったですけど

みずる

よかった、走った甲斐があるわー。
でもその後ちょっと焦ったのよ?
まさか会議室に戻ってくる人がいるとは思わなくて。
慌てて戻ってきたんだから

佑美奈

そうですよね……戻ってくる人なんて普通いないですよね

ピヨ助

ああ。うちらみたいに怪談調査が目的じゃなければな




みずる

……そう。
でも……もう、これでわかったと思う。
私が呪いを実行している……ただそれだけ。
隠された真実なんて無い……





佑美奈

……ね、これどう思う?
ピヨ助くん

ピヨ助

どうもこうも、感情無いなんて嘘だろ


そうだよね、と心の中で呟く。

時折見せる、
明るい雰囲気の話し方。
怪談から生み出された、
感情の無い幽霊だとはとても思えない。

ピヨ助

おい佑美奈、いつものあれ、聞いてみろよ

佑美奈

いつものって……あ


ピヨ助くんの意図を察し、
わたしはみずるさんに問いかける。



佑美奈

みずるさんみずるさん、甘い物とか好きですか?

みずる

甘い物? 大好き!
特にチョコレートムースのケーキとか好物だったわ。
そういえば幽霊になってから、食べてないのよね

佑美奈

そうなんですか?
あ、普通のチョコレートならありますけど。
食べますか?

みずる

ほんと? わ、チョコレートだ!
って私が持つと濡れちゃうのよね……
ま、いいわ。久々のチョコレート!


みずるさんは嬉しそうに
わたしの手からチョコレートを受け取って、
口に入れる。

ピヨ助

この学校の幽霊は甘い物好きが多いのか……?

佑美奈

女の子に甘い物好きが多いだけだと思うよ?

みずる

そうよ。
女の子は基本的に甘い物が好きなんだから。
ねぇ?

佑美奈

そうですよ。
もっとも、わたしは普通以上に好きです

ピヨ助

そうだな。
異常レベルで好きだよな

みずる

よっぽど好きなのね。

それにしても、甘い物とか久しぶりに食べたわ。
ありがとね。
えっと、ゆみなちゃんだっけ?

佑美奈

はい、そうです。

……えっと、みずるさん


もう間違いない。
みずるさんには感情がある。

そして……記憶も。

佑美奈

みずるさんって……本物の幽霊なんじゃないですか?

みずる

どういう意味?
見ての通り私は幽霊だけど……私は……


話している途中で、
みずるさんの表情がふっと消える。

みずる

意味……わからない。

私は……幽霊。

作られた……幽霊


そしてまるでスイッチが消されたかのように、
無感情な喋り方に戻ってしまう。






ピヨ助

ふむ……。
なんとなく、わかってきたぞ。
おい、みずる

みずる

……?


ピヨ助くんはずいっと前に出て、
みずるさんを指……羽で指す。


ピヨ助

これまでの会話で、お前には感情があると確信した。
そして生前の記憶があることも間違いない

ピヨ助

つまりだ!
お前は怪談から生み出された幽霊などではない。
なにかがあって死んでしまい、幽霊となったんだ。
元はちゃんと人間だったはずだ!

みずる

う……うそ、でも……だって、私は……

佑美奈

あれ……?


わたしもピヨ助くんと同じことを考えていて、
もう間違いないと思っていた。

きっと最初にピヨ助くんが推理した通りで、
なにか隠された真実があるんだと思う。

でも……
ピヨ助くんがはっきり指摘しても、
みずるさんは認めようとしない。



ピヨ助

しらばっくれても無駄だぞ!
お前のその、甘い物が好きという記憶はどこからきた?

みずる

あ……そうよ、私は確かに甘い物……チョコレートムースのケーキが好きで……あれ……


みずるさんは頭を抱えて、
辺りをきょろきょろと見渡し始める。



佑美奈

ね、ピヨ助くん、これって……ちゃんと記憶があるわけじゃないっぽいよね?

ピヨ助

むぅ……

佑美奈

語られてないなにかがあるにしてもさ、みずるさんから話を聞くの無理なんじゃない?

ピヨ助

……そうだな。
しかし他にアテが無い。
これでもかなり調べたのだ。
その結果、語られていない真実があると考えたんだが……


そう言ってピヨ助くんは手帳をめくり始める。

確かに、隠された真実があるにしても……
他に見つけ出す方法が思いつかない。
今のところそれらしい手がかりも無い。



みずる

私……私は……どうして……ここにいるの?

あ……ううん、怪談の……天井の染みの……呪いだから……。

私は……呪いに……

ピヨ助

呪い……か。
いや、待てよ?




佑美奈

あ、もしかしてなにかわかった?

ピヨ助

ああ……どうやら、少し難しく考えすぎてしまったようだ

佑美奈

どういうこと?

ピヨ助

それをこれから説明してやる。

……おい、みずる。
お前も俺の話を聞け

みずる

あ……ね、ねぇ、私って……一体?

この記憶……ああダメ、思い出そうとすると…………まるで頭の中で雨が降ってるみたいに、なにも見えなくなっちゃう……

ピヨ助

うむ……。

いいか、まず前提として、お前は、元人間だ。
死んで幽霊になったんだ

みずる

私は……幽霊。
人間……だった

ピヨ助

お前がいつ幽霊になったのかはわからない。

だが、死んだ理由は予想が付く

佑美奈

そ、そうなの?

みずる

私は……どうして……死んだのよ……?

ピヨ助

それはな




ピヨ助くんは、羽で天井を指す。



ピヨ助

この第2会議室の、天井の染み。
その呪いによってだ




佑美奈

え……?
あっ、もしかして呪いの被害者……?!



例えば、怪談に出てくる生徒。

車道に飛び出して死んでしまったあの生徒が、
幽霊となっていたら……。


みずる

呪いの……被害者……

ピヨ助

そうだ。
お前は怪談を試してしまい、本当に呪われ、死んでしまった。

しかし呪いはそれで終わらなかったんだ


呪いが終わりじゃない?
それってまさか……。



佑美奈

…………!!





わたしはその怖ろしい答えに気付いて、
青ざめる。



ピヨ助

呪いで死んだ人間は、怪談に縛られる。

怪談に登場する幽霊となって、この世に残り続けるんだろう

佑美奈

そん……な……


でも、それならみずるさんの状態に納得がいく。

無感情な話し方をすると思ったら、
感情豊かに明るく話し始めたり、
甘い物に反応し、
自分の好物を思い出したりする。

だけどそれは、
みずるさん自身には自覚が無い。

怪談に縛られているせいで、
はっきりと思い出すことができなくなっているんだ。
怪談に引っ張られ、
自分の感情も記憶も……
雨に流されるようにして消えてしまう。

みずる

だったら……私は……。
私はどうすれば……

ピヨ助

……そうだな。

みずる、お前が怪談の幽霊だと言うのなら、その役目を終える方法が一つだけある

みずる

本当……?

ピヨ助

ああ。簡単な話だ



ピヨ助くんはわたしの後ろに回り、
とんっと背中を押す。


ピヨ助

今、呪われているこいつを……

佑美奈

ぴ、ピヨ助くん?







ピヨ助

……助けてやれ

みずる

ゆみなちゃんを……助ける?




ピヨ助

そうだ。怪談の内容に反することをする。
つまり、佑美奈の呪いを解く。

そうすればきっと、お前もこの呪いから解かれるはずだ

みずる

ゆみなちゃんの呪いを解くのは……私でも、できると思う

佑美奈

ま、待って!
ピヨ助くん、本当なの?
本当にそれでみずるさんは呪いから解放されるの?

ピヨ助

ああ。

……佑美奈。例えば俺が、怪談調査をやめると言ったら、俺はどうなると思う?

佑美奈

それは……確か、ピヨ助くんは怪談調査がしたいっていう、執念で幽霊になったんだよね?
それをやめたら消えて……あ


そうか、怪談の内容に反することをする、
というのは、そういうことだ。

つまり……。


佑美奈

え……じゃあみずるさん、消えちゃうの?

ピヨ助

当然、そうなるな

佑美奈

き、消えたあとはどうなっちゃうの?

ピヨ助

正直……それは俺にもわからない。
消滅するのか……成仏するのか。

だからみずる。
その覚悟があるなら、佑美奈の呪いを解くんだ




みずる

私は……




それをすれば、消えてしまう。
成仏ではなく、消滅の可能性がある。





みずる

悩むことなんてないわ。

ゆみなちゃん。
私はあなたの呪いを解くわよ


みずるさんは、あっさりとそう答えた。



佑美奈

みずるさん……

みずる

だって……わかっちゃったし。
私は作られたんじゃない。
呪いで死んでしまった人間だったんだって。

でもね、ゆみなちゃん。
あなたはこんな呪いで死んじゃダメよ。
私みたいになっちゃダメ。

……それにね?




みずるさんは私の目を見て、笑顔になる。


みずる

なにより、あなたを殺したくなんかない。

チョコももらっちゃったし、ね?




気が付くと……。

水浸しだったみずるさんの足下が乾いている。
みずるさん自身、もう水で濡れていなかった。



みずる

ああ……最後に食べたチョコレート。
美味しかった。

私はもう、未練なんてない。
ゆみなちゃん。
……それから、ピヨ助くん?

本当に、ありがとう……



窓から光りが差し込み、みずるさんを照らす。


佑美奈

みずるさん……!

みずる

さようなら。

……呪いは、私が消えたら解けるわ。
だからもう、こんな呪い試したらだめよ?



そう言って、みずるさんは部屋の窓を開け放つ。



みずる

長かったなぁ……。長かったのよね?
いったいどれだけの時間こうしていたのか、もう思い出せない。

……どれだけの時間、私が私を見失っていたのかわからない。

でも……やっと、私は……みずるとして……



みずるさんが窓から身を乗り出して、
両手を広げると……
ふっと、その姿が光と共に消えてしまった。

代わりに、涼しい爽やかな風が、
ふわっとわたしの頬を撫でる。






佑美奈

……消えちゃった。

みずるさん、成仏できたのかな……

ピヨ助

さあな。
だが、あんな清々しく消えていったんだ、消滅ではなく成仏できたんじゃないか?

佑美奈

……そうだよね。
うん、そうだと思う


わたしは少しの間黙祷をして、
第2会議室を後にした。
















ピヨ助

ふー、なんとかお前の呪いも解けたし、怪談調査は完了だな

佑美奈

あ……そういえばこの怪談、無くなっちゃうの?

ピヨ助

みずるが消えて、呪いは無くなった。

しかし、怪談自体は無くならないぞ

佑美奈

えぇ? どうして?

ピヨ助

どうしてって、そりゃそうだろ。

怪談ってのは、本当に呪われるかどうかは問題じゃない。
その話を聞いて怖いと感じるかどうかだからな

佑美奈

でも、長く語られることで本物の呪いになったりするんでしょ?

ピヨ助

ああそうだ。

……だから、いつか復活するかもしれないけどな。呪いが

佑美奈

うぅ……もう、怪談って迷惑だなぁ





今回は、作り話から生まれた呪いの怪談だった。

最終的に呪いは無くなったのに、
でも怪談は残り続けるという。

本物になったり、作り話になったり……
怪談って、ややこしいというか……
ちょっと、いい加減じゃない?


ピヨ助

怪談は、そもそも人が話す噂話だからな。
そんなもんなんだよ

佑美奈

……肝に銘じておくよ

ピヨ助

ま、とにかくだ。怪談は無くならない。
怪談調査は無駄にはならない

佑美奈

こんな怖い呪いの怪談、記録に残さず消し去るべきだと思うんだけどなぁ


もっとも、それを言ってしまうと
ピヨ助くんの存在を否定することになってしまうけど。




佑美奈

あ、最後に一つだけいい?

気になってたんだけど、天井の染みって結局なんだったの?

ピヨ助

天井を通ってる配管の水漏れだ。
水漏れ自体はだいぶ昔に直したようだが、染みは数年前まで放置していたようだな

佑美奈

数年前ってもしかして、5年くらい前?

ピヨ助

俺が染みを見ていると思ったからか?

確かに実際に見たが、張り替えが行われたのは7年前だ。
俺が1年の時だったな

佑美奈

ふぅん……


ピヨ助くんが死んだのって、
3年生の時だったんだ……。




ピヨ助

それにしても佑美奈、最初はかなりビビってたのに、途中で急に落ち着いたよな。
なんだったんだ、あれは

佑美奈

え? う、ううん?
なにもないよ?

……ただ、自分を取り戻しただけだから

ピヨ助

なんだよそれ




ピヨ助くんの言う通り、
わたしは最初すごく怖がっていた。

だけどあの時意識が遠のいて、
聞こえてきた声のおかげで、
わたしは落ち着くことができた。

あの時の声……話の内容。
はっきりと覚えている。

あれってやっぱり……。


わたしはピヨ助くんをじっと見る。




ピヨ助

ん?




佑美奈

……あ、そうそう『九助』くん。
報酬のドーナツは?




ピヨ助

ああ、まぁ待て。
明日でもいいか?


佑美奈

えっ……

ピヨ助

なんだよその反応は。
疑ってるのか?
ちゃんと出してやるって

佑美奈

それは信じてるけど……



ピヨ助くん、今の……気付いてない?



ピヨ助

安心しろ、ちゃんと2つ出してやる。

ただし、1つは次の……

佑美奈

あ、今回は報酬ドーナツ2個ね!
危険手当ちょうだいよ!

ピヨ助

うっ……
ちっ、まぁ仕方ないな。

……確かに今回は、調査が足りていなかったようだ。
危険な目に遭わせて悪かったな



ピヨ助くんはそう言ってそっぽを向いた。

わたしは、
素直に謝ってきたピヨ助くんに驚きながら、
その横顔を眺める。


佑美奈

名前のことは……そのうちでいっかな?



わたしはぽんっとピヨ助くんの肩を叩いた。


佑美奈

ね、このあとちょっと駅前の喫茶店に付き合ってよ。
ケーキ食べたい!

ピヨ助

は? 一人で行けよ。
なんでいきなりケーキなんだ

佑美奈

やっぱり怖かったからね。

ケーキ食べるの1人じゃ寂しいし

ピヨ助

お前な……。
ていうか、それ、どういうことかわかってるのか?

佑美奈

うん。
学校から出る場合、ピヨ助くんはわたしから離れることができないんでしょ?


そう、それがピヨ助くんが学校外に出る条件。

取り憑いているわたしから
一切離れることができない。

わたしの側にしか存在できないのだ。

佑美奈

食べ終わったら、ちゃんと学校に戻ってピヨ助くんは帰すからね

ピヨ助

わかってるよ。
そうしてくれなきゃこっちだって困る


そうしないとわたしは、
トイレもお風呂も入ることができない。

だから今回の怪談調査では、
どうしてもこの手は使いたくなかったのだ。




佑美奈

それじゃ、決まり。
喫茶店にゴー!

ピヨ助

いいけどよ……ほんと、俺が行く意味あるのか?
周りからは結局一人でケーキ食べてるようにしか見えないんだぞ。
会話だってできないだろ

佑美奈

電話してるフリするから大丈夫だよ



わたしはそう言いながら靴を履き替え、
校舎を出る。


さっき一度雨は止んだみたいだけど、
また降り始めたようだ。

傘を開いて……
ふと、わたしは思い出す。




佑美奈

そういえば……怪談の呪い。
全部みずるさんがやってたって言うけど……




廊下で聞こえた、あの激しい足音。

みずるさんは、全力で走ったと言っていた。



佑美奈

でもあれ、絶対1人の足音じゃなかったよね……?






そもそも。
この第2会議室の呪いを試して、
そして死んでしまったのは……
みずるさん1人だけなの?




わたしは校門を出た辺りで立ち止まる。


視線を感じ、振り返って校舎の窓を見ると……。















 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 










佑美奈

…………ひっ




校舎の窓という窓に、
いくつもの人影が見えて……消えた。









ピヨ助

どうした? 佑美奈

佑美奈

な、なんでもない。
早くいこっ







どうやら。

この怪談が無くなることは、

しばらくないみたいだ。



















「幽霊よりも甘味が食べたい」


怪談「第2会議室の呪い」編 完



……続く

第9話「第2会議室の呪い(3)」

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