三宮悟

…………

たまこの訴えもあり、ベッドに入った悟は、暫く夢の世界を漂っていたが、ふと背中に布団とは違う温もりを感じた。

三宮悟

嫌な予感がする

しかし、ここで目を開けてはいけない……本能がそう訴えかける。どうせ目を開けてもいいことはない。

三宮悟

…………

三宮悟

たまこ……

はーい
なんですか?

三宮悟

なんだか、背中が妙に温かい

そうですか。
私はお腹がぽかぽかします

三宮悟

そうか、奇遇だなあ

はいー

うわっ

あのー、何も見えないのですが

三宮悟

おとなしくしていろ

むー、苦しいです……

悟は自分にひっついていたたまこを布団で包み込んだ。
しっかりと抑え込んだので、たまこがここから出られることはまずないだろう。

三宮悟

……

三宮悟

……寒い

が、しかし彼は失念していた。
布団で彼女をまいてしまっては、自分にかける布団がない。

三宮悟

……しかし、今更布団を取る訳にもいかない……たまこが寝てから……

そう考える悟は知らない。人形の魂は眠らないということを。
時は次第に過ぎてゆき、彼は寒さを感じつつもう少し、もう少しと堪え続けている。

強情ですね

寒いのは分かっていますよー

三宮悟

お前に抱き着かれるよりはマシだ

何故そこまで私を拒むのですか?

悟君は心が狭い人ですね

三宮悟

最初から広いと言ったつもりはない

そうでしたね。心が狭く傲慢でいじっぱりで弱虫で引きこもりで自称天才人形師の悟君

三宮悟

…………

どうかしました?

三宮悟

お前、性格悪いな。それが人形の魂の本質なのか?

事実を言ったまでですが?

三宮悟

黙れ

わー、出ました。
「黙れ」っていう癖!

三宮悟

……

三宮悟

……寒い

どうにも我慢しきれなくなり、ついに悟は寒いと口に出してしまった。するとたまこの悪乗りがヒートアップする。

寒いならば、意地を張らずに布団を被りましょう

ついでに温かい人形の添い寝付、なんちゃって

さあ、悟君

ぎゅーっとしちゃってください。私、抱き心地いい自信がありますよ。人形に宿っていた時の話ですけどね

三宮悟

……

三宮悟

……眠い

たまこの言葉も段々聞こえ無くなってくるくらいには、眠気に襲われてきた。寒さも原因かもしれない、と彼は思う。
この寒さの中寝てしまえば風邪をひく……それは本能的に分かった。

わわっ

悟君にも遂に限界が……

!?

三宮悟

ZZZ

……眠っている?

なんか……改めてこうされると……

やっぱり温かいですね

悟の腕にくるまりながら、たまこは居心地の良さを感じていた。
指先は繊細だが、その身体は案外たくましい。
けれど寝顔は少女のようにあどけなかった。
僅かな呼吸音と、心臓の音が聞こえてくる。

寝ぼけているのは重々承知だったが、向こうから抱き着いてきたのだから自分の勝ちだ。
たまこは、ついにやったのだと悦に浸った。

へへへ

まあ、少しだけ恥ずかしい気も……

……

恥ずか……しい?

そして、今まで感じたことのない、不思議なむずがゆさを感じた。今まで人間のように言葉を発し、人間らしい振る舞いもしてきたが、本質は人形の魂だと思い込んでいた。
それなのに……今芽生えた感情には違和感を覚えざるを得ない。

なんだろう、これ……

三宮悟

……怜奈

ん?

そして、悟の口から漏れた誰かの名前。

二人の夜はゆっくりと過ぎてゆく。

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